数学


先日、書店に足を運ぶと『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』という本が大きなスペースを割いて陳列されていました。なるほど、確かに時代は変わりました。私たちは100年生きることを前提に人生設計をしなければならない。とするならば、教育もその前提で設計しなければならないと考えます。

たとえばこれからは60歳を超えてもビジネスパーソンとして活躍することが当たり前の時代になるでしょう。また世の中は明らかに組織から個人が主役の時代に変わってきています。「有名大学→有名企業→定年退職→よい人生」という時代はもう終わっているのです。

そこで今回は私の専門である「ビジネス数学」というフィルターを通して、100年生きる時代に必要な数学とその教育について考えてみたいと思います。

■数字が苦手・考えるのが面倒
まず前提となる事実を説明します。面倒だからという理由で「考えるフリ」しかしない。数字を見ただけで不快感を持ってしまう。そんなビジネスパーソンを私は企業研修などの場でたくさん見てきています。

そして、それは20代の新入社員でも60代の管理職でもまったく同じ割合で存在します。私はそんな彼らをどうにか変えようと試行錯誤する日々を送っているのですが、この問題はどうすれば解決できるのかをいつも考えています。

■「好き」≠「得意」
ビジネスパーソンと会話をすると「数学はあまり面白いとは思わなかったけれど、成績は良かった」「図形の問題を考えたりするのは楽しかったけれど、テストの点数は悪かった」といったコメントを耳にします。私はこの事実に注目しました。要するに勉強の世界では「好き」≠「得意」なのです。

少々乱暴かもしれませんが、解き方を説明し、パターンを覚えさせ、反復練習させれば「嫌いだけれどお勉強が得意な学生」はつくれます。たとえば飲食店での皿洗いという作業が好きな人はあまりいないでしょう。でもそれが上手なアルバイトはたくさんいるかもしれません。それと同じことです。

■人間は、「好き・嫌い」で生きている
しかしながら勉強の世界での「数学は嫌いだけど得意」な人は、当然ながら勉強の世界を卒業すると実生活やビジネスシーンで使おうという発想は持ちません。なにせその人物は数学が「嫌い」なのですから。つまり、どんなに「得意」なことでも「嫌い」ならいずれ離れていくのです。

ですから人生を100年と考えたとき、大切なのは数学の問題を解くことが(10代のほんの数年間だけ)得意な人物にさせることではありません。死ぬ直前まで数字や論理を使って考えることが楽しい、あるいは好きだと感じることができる人物にさせることです。人間は感情の生き物であり、結局は「好き・嫌い」で生きています。100年、「好き・嫌い」で生きていくのです。

■「円の面積」でどんな授業をするか
では「得意」ではなく「好き」にさせるアプローチとは何か。たとえば皆さんがイメージしやすい例としては、「円の面積を求める公式はこれです」という授業ではなく、「どうやったら円の面積を求められるか、ユニークなアイデアを出せ」という授業のほうが“これからの時代の授業”だということです。学生同士でのディスカッションも生まれるし、良い意味での競争も存在するでしょう。(本来、数学とはそういう学問であるはずなのですが)

この差は、「100年生きる時代に最後まで幸福な人生を歩める人を育成する」という観点があるか否かの差です。例えばあなたが70歳になったとき、円の面積を求める必要はありませんが、ユニークなアイデアを出さなければならない立場にいる可能性は極めて高いはずです。

他にも具体例ならいくらでも挙げられます。たとえば私が中学校数学の授業をするならこんなテーマで学生を競わせるかもしれません。「サッカー部と野球部はどちらがモテるかを数学で説明してください」「実際に小学生を連れてくるので算数の授業をやってください」「証明問題を口頭だけで伝言ゲームせよ」など。要するに楽しければ何でもいい。シンプルに言えば、教育者に遊び心がなければ学生が「好き」という感情を持つわけがないのです。

■「勉強が得意」にさせるだけではダメな時代になった
ただし、受験が不要なものだと結論づけたいわけではありません。前回の記事でも書いたように、受験は教育的にも重要なものだと考えます。しかし、“それだけ”ではもうダメな時代になったということは教育者をはじめ、子供を持つ親も認識すべきです。

必要なのは数学教育の質を高めること。具体的には得意にさせるロジカルなアプローチと、好きにさせる直感的なアプローチの両方を備え、バランスよく子供や学生を刺激していくこと。難しいことですが、間違いなくそれを求められる時代になったのです。

子供を持つ親や教育現場にいらっしゃる算数や数学の指導者の皆さんにどうかお願いしたいのは、その子供があなたよりずっと厳しい環境で100年生きることを大前提に、「勉強が得意」にさせるのではなく「考えるのが好き」にさせるアプローチをして欲しいということです。

教科書の内容や受験のテクニックだけを説明することが教育の仕事なら、もはや人間がする必要はない。そんな時代です。時代が変わっているのに教育が変わらないなら、時代にあった人は育たない。証明する必要のないほど明らかなことを数学では“自明”と呼びますが、まさにこれこそ数学的に“自明”でしょう。


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深沢真太郎 ビジネス数学の専門家/教育コンサルタント

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