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1972年から2年間にわたり連載された少女漫画「ベルサイユのばら」が、今、再び人気を集めています。

大相撲初場所には同作品の懸賞幕まで登場しました。百貨店の高島屋では、バレンタイン商戦で同作品とのコラボレーションを展開中です。食器や化粧品メーカーのほか、ツタヤもコラボ商品を展開しています。さらに3月には朝日新聞社主催で「ベルばらとともに」と題された作家の池田理代子さんの回顧展が全国各地で開催される予定です。

人気の再燃に拍車をかけるのが、新たなエピソードを収録した新シリーズです。2014年から本編の10巻に追加して発刊され、今年の1月には13巻が発売になりました。

連載から50年近くたっても、根強い人気を集める「ベルサイユのばら」。いま、同作品が注目を集める理由を考察してみました。

■一番の人気キャラ「オスカル」
「ベルサイユのばら」は、18世紀のフランス革命前から革命前期を舞台にした池田理代子氏作の少女漫画で、実在のフランス王妃マリー・アントワネットやスウェーデン貴族のフェルゼン伯爵、そして架空の人物のオスカルを主人公としています。

宝塚歌劇団による舞台化や、テレビアニメ化、実写版映画化など複数のメディアに展開されたほか、数々の関連商品が発売され、当時、社会現象と言われるほどの人気に至りました。

同作品の最大の人気の要因は、主人公オスカルの存在です。オスカルはいわゆる「男装の麗人」です。由緒ある武官貴族の家に生まれますが、家を継ぐ男子に恵まれなかったため、末子であるオスカルが男性として育てられることになったのです。

このオスカル、男装であってもその美しさは損なわれません。金髪をなびかせる凛々しい姿は宮廷の女性達の憧れの的。正義感が強く、親分肌で、従者のアンドレが罪に問われそうになった時には、自ら身をもって彼を守りますし、王妃アントワネットの側近として、時に彼女のふるまいを正すべく、直言することも厭いません。

啓蒙思想の影響もあり、大貴族ながら個人の自由を尊重する言動が随所に見られます。部下から反抗された時にも「私はお前たちを好きにできる権力を持っている。しかし力で人を押さえつけることに、何の意味がある?心は自由だからだ」などと発言しています。どこまでも情熱的でかっこいいのです。

■オスカルの苦悩も人気の要因に
単純に美しく格好良いキャラクターというだけでなく、ひとりの人間として悩み苦悩するのもオスカルの魅力の一つです。特に、女性でありながら男性として生きるジレンマに何度も悩む様子は、年長の読者からの共感も呼び、幅広い層からオスカルが人気を得るのに寄与したと思います。

「女でありながら、男性として生きることに寂しさを感じないのか?」という問いに対し、「生まれたときから男性として育てられたので、不自然だと思ったことはないし寂しくもない」と若い頃は答えていたオスカル。しかし成長するにつれ、悩み苦悩することが増えていきます。

彼女がひそかに思いを寄せるのはスウェーデン出身のフェルゼン伯爵です。しかし彼は王妃マリー・アントワネットだけを見つめています。オスカルには強い友情を感じてくれてはいるものの、女性としては見てくれません。

そうした中、オスカルに元部下であった男性との結婚話が持ち上がります。跡取りの男子として生きることを強いた父親からの勧めでした。

当初は「何をいまさら」と一笑に付していたオスカルですが、以前から女性として憧れを抱いていたという求婚者からの、「女性としての幸せを求めてよいのでは」という甘いささやきに、ふと心が揺れます。

この結婚話は、結局オスカルが断ることになるのですが、その後、彼女は結婚を画策した父親を問い詰めます。

「父上、おこたえください。もしも、当たり前の女性として育っていたなら…私も姉君たちのように、15歳になるやならずで嫁がせられたのでございますか?(中略)むせかえる粉白粉。子を産み、子を育て…おこたえください!」


「その通りだ」と答える父親に対し、オスカルはこう語ります。

「感謝いたします。このような人生を与えてくださったことを…女でありながらこれほど広い世界を…、人間として生きる道を…、ぬめぬめとした人間の愚かしさの中で、もがき生きることを…」「私は軍神マルスの子として生きましょう」


■女性の地位向上の時代と重なる「ベルばら」
「ベルばら」が生まれ、社会現象にまでなった1970年代は、世界的に女性の地位向上の取り組みが進んだ時代でした。

1975年は、国際婦人年と定められ、向こう10年間、世界各国で女性の地位向上のため行動することが宣言されました。1985年に日本で男女雇用機会均等法が施行されたのも、その流れに位置付けられます。

女性でありながら、圧倒的な男性社会である軍隊の中で、家柄だけでなく、剣の実力や人間性で男性部下から慕われ、上層部からの信頼も厚いオスカルの姿は、当時の社会が描いた「新しい女性像」と重なります。

当時、ベルばらに夢中になった女性は、自分らしく生きるオスカルの姿に、新しい時代における理想を見たのではないでしょうか。その後の彼女たちの生き方にも大きな影響を与えたと考えられます。

■あまり評判のよくない新刊「オスカル編」
今年になって発刊された13巻は、脇役のエピソードが描かれたこれまでの11,12巻と異なり、本編の主人公であったオスカルに焦点をあてた物語となっています。

ファン待望の主人公登場であるにもかかわらず、13巻の評判はあまり芳しくありません。オンライン書店アマゾンの読者からの評点では、5点満点で11巻が3.5点、12巻が3.9点であったのに、13巻は3.0点でしかありません(2017年2月1日時点)。

不評である最大の理由は、内容のほとんどが、本編と重複していることです。オスカル編のうち、約6割が本編の焼き直しであり、新たに加わったエピソードは半分以下です。

なぜ、作者は今になって重複した物語を書いたのでしょうか?

■新刊に登場する「もう一人のオスカル」
オスカル編では、叶わぬフェルゼンへの思いに悩む姿や、父親を問い詰めるシーンが再び描かれています。一方、新たに加えられた部分には、オスカルの分身が登場します。本編エピソードの節目に登場する分身は、ドレスをまとい、結婚式をあげ、子供を抱き、フェルゼン伯爵と舞踏会で踊っています。

訝しく思い、問い詰めるオスカルに、分身は「私はお前が諦めたもののすべてだ」と告げるのです。つまり、オスカルが女性として当たり前の人生を送っていた場合には、結婚し子供を産んでいた可能性を示しています。それを知ったオスカルは大きなショックを受けます。

分身の登場で、オスカルの「当たり前ではない人生」に対する苦悩が、より明らかになりました。しかし、作者がいま、「もう一つの人生」を描くさらに深い理由があるように思えます。

それは「私はこれからも軍神マルスの子として生きていく」と父親に宣言した後のオスカルのセリフに表れています。実は昔、書かれた本編では、父親とのやり取りはここで終わるのですが、新刊ではこの後に以下のセリフが追加されています。

「決して何かを諦めた結果ではない。自ら選び取った道でございます」


オスカルが男性としての人生を送ったのは、跡取りの男子がいない家のためであり、父親が強いたからです。しかし、彼女はここで、自分が男性として生きることを選択したと宣言しています。他人の強いられた人生が、ここで初めてオスカル自らの選択の人生に転換したのです。

■「今の自分」を選択したことへの応援メッセージ
当時、ベルばらに夢中になった世代は、いま50代~60代になっています。子供がいれば、子育てもひと段落している年代でしょう。仕事を続けていれば、そろそろ現役引退の時期が近づきセカンドキャリアを考える時期です。これまでの来し方を振り返り、自分が選ばなかったもうひとつの人生の可能性を考えるタイミングでもあります。

特に、男性社会の中で奮闘してきた女性の中には、かつて「女性ならあたりまえ」とされた結婚や出産を諦めた人が少なくありません。2005年度に内閣府男女共同参画局が行った調査によると、1986年~1991年に総合職として採用され、調査当時に就業中の女性は、既婚者が50.5%、未婚者が41.8%です。また子供がいないものが70.3%を占めています。母数は91名と少ないことは考慮する必要がありますが、対象層はベルばら世代とも年齢的に重なります。

昨今の女性活躍推進の流れでは、理想的な女性の働く姿は、会社で活躍するだけでなく、家庭を持ち子供を育てるものとして描かれています。家庭や子供を諦めてきた彼女たちのがんばりは、ややもすると「ロールモデルになりえない」として否定的なものに見られる傾向もあります。筆者の元には「せっかくがんばってきたのに、後輩から『ああはなりたくない』と見られるのは理不尽に思える」と、相談される方もいらっしゃいます。

しかし、そんな時代を非難したところで、いまさら過去を書き換えることはできません。男性社会の中で働き続けるために、自らの女性性をどこかで放棄しなければならない時代をベルばら世代は歩んでこざるをえませんでした。だとしたら、せめて自分の歩んできた道は、自分の選択の結果なのだと肯定的に捉えてほしい…新刊のオスカル像には、そんなメッセージが込められているように感じます。

そして、読む返すごとに、その時の年齢に応じて何か得られるものがある…それが「ベルサイユのばら」の人気が、今でも続く理由であるように思うのです。

朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)

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