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2月に入り、来年度の認可保育園入園の可否の通知が届き始めているようだ。「日本死ね」騒動で話題となったように、保育園入園の可否は、自身または配偶者が育休を取得している場合の職場復帰の大きな課題であり、一家の一大事なのだ。

■保育園に感謝・・・でも。
筆者も2児を育てる父である。運良く2人とも保育園に預けることが出来ており、こうして日々労働にいそしむことが出来るのもひとえに保育園のおかげだ。保育園に足を向けて寝られないくらい、感謝の念に堪えない。

そんなありがたい保育園ではあっても(もちろん「保育園死ね」などという意図は全くないのだが)、思いの外不合理だなあ、ということもあったりするのである。

例えば入園グッズの準備。「通園バッグは手作り(荷物が問題なく入るよう、寸法など詳細が規定されている)」「パジャマを入れる箱は手作り(イチゴを入れる段ボール箱に布を貼り付け装飾)」「保育園との連絡帳は手作り(厚紙に布を貼り付け装飾。パンチで穴を空け、リングと用紙を通してできあがり)」など。

入園説明会で、完成品を見本にと見せられれば、「うちの子だけに持たせないわけにはいかない」という気にもなる。「我が子を預かってもらっている」という意識もあり、表だってクレームを言う人もいない(もちろん地域差はあるだろう)。こうして乳飲み子を抱えながら、育休復帰を目前としながら、少ない睡眠時間を削って入園グッズ作りに勤しむことになるのである。

考えてみれば、バッグは子供の荷物さえ入れば既存のもので構わないはずだし、そもそも1歳児や2歳児は自分でバッグを持たない。パジャマ箱も100円ショップのプラスチック製品の方が遙かに頑丈なのではないだろうか。

■手作りする時間があれば、それをそのまま子供に投資したい
知人友人に聞いてみたところ、程度の差こそあれ、入園グッズについて手作りで、という指示は一般的のようである。ニーズは全国にあるようで、保育園・幼稚園の入園手作りグッズの作成を商売にする店も多い。手芸屋さんに行けば、保育園バッグの手作り承ります、というサービスもあるようだ。

こうなると「親の手作り」という本来の趣旨からは遠ざかるのであるが、オンライン上で細かい仕様も注文でき、非常に便利なのだ。実際筆者も第2子の入園の際には非常にお世話になった。

こうした「親の手作り」を求める背景には、「手作り品には愛情がこもっている」という神話があるように思う。日中子供と過ごせないのだから、日々子供が使うものくらい愛情込めて準備してくださいね、ということなのかもしれない。言い換えれば、「お金で解決するのでは無く、時間と労力を掛けて御準備くださいね」という理解となるだろう(もちろん、このようなことを直接言われたことはないが)。

保育園に子供を預ける親からすれば、できる限り愛情は注ぎたいのはやまやまだが、そこまで手が回らない、という状況が大勢をしめるのではないか。そうであれば、時間の無い中アイロンやミシンを駆使してグッズを作るよりも、既製品を用意して時短を行い、子供と過ごす時間をより多く確保する方が合理的である、というのが筆者の実感だ。

■定時退勤が評価されない現実。
一方、近年、働き方改革を巡る議論が加速している。実質的に看過されてきた長時間労働にも、法律の規制が入るという。ただし、形式的な罰則のみをもって、「働き方」という慣習・風土・企業文化等を変えられる、というのは、いささか早計な議論だろう。

そもそも、基本的には、皆なるべく仕事は早く終わらせて自宅に帰りたいはずだ(もちろん、プライベートに問題を抱える人や残業代が実質生活費となっている人などを除けば、である)。「労働生産性の向上」が大切なことは、ビジネスパーソンであれば周知のことのように思われる。仕事のクオリティを維持しつつ、スピーディに仕事をさばく、ということは基本なのだ。

しかしながら、一向に我が国の長時間労働が減らずに、過労死という形で命を失う人が絶えないのは何故だろうか。要因の1つとして、「残業することのメリットの方が産業縮減のメリットを上回るから」ということが挙げられよう。

例えば、内閣府の調査によれば、「残業や休日出勤をほとんどせず、時間内に仕事を終えて帰宅すること」はどのように評価されているか、という質問に対し、「人事評価では考慮されていない」が74%をしめた。ちなみに「人事評価でプラスに評価されている」は、たったの16.3%に過ぎない(内閣府「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査」(平成26年5月))。

現場感としても、例えば直属の上司が必死に残業に勤しんでいたとして、自身の業務が滞りなく定時に終わったとしても、「お先しまーす」と先に帰宅するのは、実際問題抵抗があるのではないだろうか。この場合、負荷業務的に上司の手助けをした部下の方が、さっさと帰宅する部下に比して、心証が良くなることは想像に難くない。

むろん、仕事はチームプレーの側面もあり、他者への協力を全否定するつもりはないが、仮に部門内の誰かの残務処理を常に強いられるとすれば、全員の業務が終わるまで誰も帰ることができなくなる。結果チーム全体の残業が減ることは決してないだろう。それって合理的なんでしょうか?という議論だ。

■既存の価値判断を踏み越えていかなければ、残業は減らない
「長時間残業 主因は「丁寧で愚か」な上司だった」という記事によれば、「残業理由の多くが、実は上司や役員の仕事に対する細かさのためだったり、こだわりのため」であるという。「上司など幹部の仕事に対するこだわりが残業を生んでいる」という主張は、思わずうなずいてしまうものがある(PRESIDENT Online「「長時間残業 主因は「丁寧で愚か」な上司だった」」2016/04/22)。

上記の発想は、「仕事は丁寧に、常に100%の全力でもってあたるもの」という発想の究極型である。そしてその発想の裏には、「同じ仕事の結果であれば、効率よく終わらせる社員より、会社に長くいてがんばった社員の方がすばらしい」という価値判断が見え隠れしているのだ。この判断が良しとされる限り、決して我が国から長時間労働や過労死は無くならないだろう。

もちろんケースバイケースではあるが、仕事上のあらゆる事柄について、徹夜してでも完遂することは必要だろうか。速やかに、効率化できる部分はないだろうか。仕事の質を担保する、という前提に立てば、このような着想で仕事を進めるのが合理的なはずだ。しかし、合理的な仕事の仕方は必ずしも上司の評価につながらず、ややもすれば在社時間の長短が人事評価の善し悪しに直結してしまう現状があるのではないだろうか。

仕事に愛着をもつ、ということは大切なことだろう。しかし、仕事を愛する一方で、仕事や自身の発想の効率化・合理化について、不断の実践が必要ではないか。良いプライベートがあってこその良い仕事であり、仕事に全力を注ぐが故に自身のプライベートや心身の健康がおざなりになってしまうとしたら、なんとも皮肉な結果である。

持ち物が既製品であったり食事が冷凍食品であっても、親が笑顔で接してくれた方が、子供は幸せなはずだ。常に100%の完成度を求めるが故に自身の生活が辛いものになるとすれば、こんなに不合理で理不尽なことはないだろう。

【参考記事】
■厚労省「超イクメン部」の活動が、なんだかイラッとくる人の心理とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50500388-20170123.html
■キャリアコンサルタントが自身のキャリアを描けない、という笑えない話。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49875267-20161028.html
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html
■公務員の給与引き上げは正しい。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49293753-20160812.html
■サザエさんの視聴率が急降下した本当の理由とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49055679-20160711.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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