コーヒー
ふと、ある記事が目に入った。「スタバがドトールに負けた3つの理由」と題された記事だ。

カフェ・ビジネスに詳しい経済ジャーナリスト高井尚之氏が、「顧客満足でドトールがスタバを上回る理由」として、「手軽さ」、「安定性」、「女性の支持」の3つのポイントをあげて定性的に分析している。(「スタバがドトールに負けた3つの理由」、PRESIDENT Online、2017/2/9)

分析で指摘された点の多くは、おそらく的を射ているのだろう。筆者にももっともらしく感じる点は多かった。だが同時に、もやもやとした違和感も覚えたのだ。

スターバックスは本当に、顧客満足度でドトールに負けたのだろうか?

■顧客満足度調査って、何?
スターバックスがドトールに顧客満足度で負けたという話は、日本生産性本部「サービス産業生産性協議会」が公表する顧客満足度指数JCSIで、ドトールがスターバックスを抑えて2年連続カフェ部門のトップになったというニュースが大元だろう。

顧客満足度指数JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index、日本版顧客満足度指数)とは、米ミシガン大が開発した顧客満足度指数CSIを元に、官民協力のもとサービス産業生産性協議会が開発した指標だ。「顧客満足度」のほかに、「顧客期待」(ブランドへの期待)、「知覚品質」(品質はどうか)、「知覚価値」(コスト・パフォーマンス)、「推奨意向」(他者にすすめたいか)、「ロイヤルティ」(もっと使いたいか)について、利用者へのアンケート調査をもとに評価している。

最新版である2016年度調査でその対象となったのは、カフェ部門では、コメダ珈琲、サンマルクカフェ、スターバックス、タリーズ、ドトール、ベローチェ、ミスタードーナツの、7つのブランドだ。このうち、顧客満足度1位のドトールが73.3ポイント。スターバックスは70.9ポイントで4位だった。その差は2.4ポイントである。

2.4ポイント差と言われて、どのくらいの違いなのかピンとくる人は少ないかもしれない。だが、知覚品質で2.1ポイント、推奨意向で3.9ポイント、さらに、顧客期待では4.9ポイントも、ドトールを上回ってスターバックスが1位だったと知っていたらどうだろうか。少なくとも顧客満足度の2.4ポイントが特に大きな差だとは、とても言えない。

■スタバとドトールは何が違うのか
6つの評価項目のうちスターバックスが1位となったこれら3つの項目は、提供されるモノやサービスや経験の本質的な価値を、利用者がどう期待し、感じたのかを表している。利用者は、スターバックスに期待し、最も質が良いと評価し、誰かに勧めたいと考えるのだ。

スターバックスの店内やドリンク等をSNSでシェアするのは時々見かけるが、同じようにドトールをシェアする人が少ないというのは、知覚品質や推奨意向の違いによるものだろう。

一方、ドトールがスターバックスを上回ったのは、顧客満足度のほかには、知覚価値とロイヤルティである。コスト・パフォーマンスが良いドトールに、多くの利用者は満足し、また来ようと考えるわけだ。価格差は、時には品質以上に、利用者にとって重要なのだ。

また、心理的な影響もあるだろう。期待が大きいほど結果を過小評価し、期待が小さければ過大評価するというのは、良く聞く話だ。顧客期待の高いスターバックスにとっては、最初から少々不利な条件にあったとも言える。

■2年前はスターバックスが圧勝
上述の通り、2016年度の調査では、スターバックスとドトール、両者ともにそれぞれの特徴が分かりやすく出た、ある意味イメージ通りの結果だったと言えるだろう。しかし、このわずか2年前、2014年度に行われた同調査の結果はかなり一方的で、コスト・パフォーマンス以外のすべての項目でスターバックスが1位と、圧勝だったのだ。

この違いは一体、何なのだろうか?

2014年度と2016年度では、実は、調査の対象となる利用者の条件が違っている。最近3か月に2回利用した(2014年度)のか、もしくは、最近6か月に2回利用した(2016年度)のか、という違いだ。一見、微妙な違いのようにも感じるが、実際には調査対象となる候補者を2倍程度に増やす効果があるのではないかと、筆者は類推する。ファンを中心とした調査から、一般人を対象とした調査に突然変えたようなものなのだ。アイドルの好感度調査を、コンサート会場でやるのと路上でやるのとで、結果が違うのは当たり前だ。

さらに、ブランドへの忠誠度が高い顧客にとっては、商品の値段が高いことそれ自体が価値を持つことさえあるという。2014年度調査でスターバックスの顧客満足度が高かったのは、偶然でもなければ品質が今と違ったからというわけでもなく、最新調査の結果から見ても当然の結果だったと言えよう。

■試行錯誤はいつまで続く?
調査対象を選ぶ行為をサンプリングと言うが、サンプリングの基準を変えてしまうと、まったく同じように調査を行っても実態はまったく違う調査になってしまうというのは、統計調査の基本中の基本だ。にもかかわらず、サービス産業生産性協議会の顧客満足度調査では、カフェ部門以外でも、サンプリング基準を年度ごとに変えている。おそらく、今はまだ、より良いサンプリング方法を決めるために試行錯誤しているということなのだろう。

年度ごとに基準が違うというのは、各年度ごとに水平方向の比較をするのは良いが、垂直方向に他の年度と単純に比較することはできないということだ。この点に十分注意して、顧客満足度が「上がった」「下がった」等と大騒ぎしないのが、クールな大人の当たり前のマナーだと思っている。

【参考記事】
■東京が”世界で一番”生活費が高いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/50265593-20161221.html
■誰も言わない、東京ディズニーリゾート「顧客満足度」が急落した本当の理由 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/49712185-20161007.html
■東京23区アパート空室率35%は本当か? (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/50223436-20161215.html
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■小学生でも分かる確率問題を間違えてしまうのは、なぜ? モンティ・ホール問題から学ぶべき大切なこと。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/50560877-20170201.html

本田康博 証券アナリスト・馬主

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