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地方都市の居酒屋チェーンが、転換期を迎えている。

筆者(52歳)と同年代の方なら誰もがご存知のことと思うが、現在では全国のどこでも見られる駅前の居酒屋チェーンの走りとも言えるのが、1980年代に"ライムサワー"で一世を風靡した「村さ来」であった。当時は「つぼ八」「養老の瀧」と並んで、居酒屋御三家と呼ばれた。

それ以前、1970年代の居酒屋といえば、中年以上のおじさんたちが酔っ払うための狭くて地味な場所、というイメージだったが、前記の居酒屋御三家の登場以降は、ライムサワーをはじめとする様々な新しいカクテルドリンクや、チェーン店ならではの多彩な料理メニュー、さらに若いアルバイトが運営する明るい店舗で、女性や大学生も立ち寄ることができる新しい業態となっていった。

■次々と現れた新業態
居酒屋御三家の台頭以降、その成功のあとを追って展開する居酒屋チェーン店は枚挙に暇がない。

有名どころの大手としては、和民(ワタミ)、庄や(大庄)、はなの舞(チムニー)、甘太郎(コロワイド)、白木屋・魚民・月の宴(モンテローザ)などがあり、現在では日本中どこへ行っても、駅前にはこれらの店舗が看板を掲げて営業しているのが見られる。

各店はそれぞれが特徴を持ちつつも、基本的には活魚あり、煮物あり、焼き物あり、揚げ物ありの、いわゆるフルメニューの総合居酒屋という業態が主力であり、主に駅前を中心に店舗を増やしていった。

しかし数が増えれば競争が激化するのが道理で、現在の居酒屋業界は、価格競争に加えて様々なアイデアで熾烈な顧客獲得合戦を展開している。

そんな中、新しい業態が居酒屋の顧客を獲得し始めた。総合メニューを脱してお料理や飲み物を特化した、いわゆる専門店である。

主に都心を中心に発祥した専門店業態は、牡蠣、ステーキ、イカ、エビ、自然薯、香草、などの食材の特化や、あるいはベトナムやタイなどの国籍メニューなど、目玉となるお料理を特化した上で、それをさらに深掘りして成功している。

たとえば牡蠣なら産地毎に特徴を明記して選んだ上に味付けや火通しなど食べ方も選べたり、肉であれば一頭の牛の様々な部位を少しずつ食べられたり、香草ならパクチーの追加は無料、などといった掘り下げが見られる。

■地方都市での専門店展開
さて、都心で流行った業態を地方に平行移動するのは様々なビジネスのセオリーである。上述の専門店も、繁盛した業態は地方都市での展開が見られるようになっていく。

ところが地方の現状では、総合メニューの居酒屋が苦戦する以上に、それら専門店が苦戦しているケースが少なくない。

これは、都心のように職場の近くで同僚などと飲食する駅前と、自宅に帰るために一人で降り立つ地方の駅前とでは、飲食店に立ち寄る動機に大きな差があるのもひとつの理由であろうが、何より元々のマーケットが都心と地方では文字通りの桁違いである点が大きい。

都心と地方とでは分母となる客数が異なるために、メニューを特化した専門店に入ってみようと考える母数が大きく異なる。またよほど好きな食材でなければ、メニューが偏った専門店に月に何度も足を運ぼうという人もいない。

その点、総合メニューの居酒屋であれば、食材の好みへの対応は柔軟であるし、同じ店を月に複数回利用することも十分あり得る。一元客のボリュームが大きい都心と異なり、地方の居酒屋ではお客のほとんどがリピーターである。

そういった事情で、現状のところ乗降客数3万人以下の地方の駅前では、まだまだ専門店業態よりも旧来のフルメニュー型の居酒屋業態が主流である。

■行き詰まりを見せる地方の居酒屋展開
さてそんな中、地方で飲食店を展開する経営者の中には、今後も複数店展開することに行き詰まりを感じている経営者が多い。

駅前居酒屋の出店戦略は、地方においては駅前に1店舗がセオリーである。ひとつの駅前で同じ看板の総合メニュー居酒屋を出しても、自社内で数少ないお客の取り合いになるだけだからである。

これは全国展開しているようなチェーン店でなくても、地方の飲食業者や、あるいは大手居酒屋チェーンにFC加盟して展開する地方企業であっても同様である。

そのため地方の居酒屋業界で増収を図るには、ある一つの駅前に出店したら別の駅に出店し、それを増やしていく、点から線へ、そして面へ、という水平展開の出店戦略が主流であった。

ところが熾烈な競争にさらされている総合居酒屋は、すでに「出せば儲かる」という成長期を終え、現在ではうかつに出店エリアを広げれば管理の動線が伸び、コストが増大してしまうので、水平展開が難しくなってきた。

そこで目をつけられたのが専門店を用いた、同一エリアで複数店を出店する垂直展開である。自店がある同じ駅前であっても、売りメニューの異なる専門店であれば、お客の取り合いも深刻でなく、共存できると考えられるからであるが、残念ながら前述のように、際立った専門店は地方では成立しづらい。

たとえば乗降客数30万人を超えるような主要駅であれば、ある程度の歓楽街を形成しているので、都心で流行った専門店の出店が可能だが、乗降客数10万人程度の地方都市では、振り切ったメニューの特化は難しく、たとえばパクチー(香草)専門店などは集客しづらいし、食材コストが大きい精肉や鮮魚のキワモノも平日の廃棄ロスが多くなり、収益化が難しい。

まして乗降客数あわせて3万人以下の駅前においては、特化した専門店では出店すら二の足を踏むケースが多い。

■地方に出現し始めた新展開
そこで地方の若い飲食店経営者が新たに始めた展開が、ほどほど、つまりマイルドな専門店の垂直展開である。

基本的に地方の繁華街は狭いエリアに集中しているが、そのエリア内にたとえば海鮮、やきとり、肉、餃子、といった、もともと総合居酒屋での人気メニューの一つを前面に押し出した、総合メニューでもなく、しかし振り切った専門店でもない、マイルドな専門店を複数展開する戦略がそれである。

同エリア内の出店なので店舗間の距離は近く、場合によっては隣あわせていたりする。しかし看板に打ち出される売りメニューが異なるため、総合メニュー居酒屋同士を近くに出店するのとは異なり、お客の取り合いにはなりにくい。

しかも、駅を変えての水平展開と異なり、狭いエリア内で管理の動線が短く済むので、人材や配送のコストが低減し、食材のロスも店舗間で減らすことが可能だ。

現在では、地方の中核都市繁華街などにおいて、同様の戦略を用いた飲食店経営を見ることができる。

宴会座敷を含めて100席以上の客席を有する大型店が主流だった総合居酒屋が業態に翳りを見せ始めた現在、居酒屋業態はその出店戦略に大きな転換を迫られている。

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玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役

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