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東芝が債務超過に陥る可能性が高まって来ましたが、銀行は東芝を支援する姿勢を維持しています。最後は様々な要素を総合的に判断するのでしょうから、今後も支え続けるとは限りませんが、とりあえず銀行が支える理由について整理してみました。

■東芝が立ち直る見込みなら、一時的な債務超過でも支援すべき
銀行としては、東芝を清算してしまうと、せっかくの工場設備がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれてしまうかも知れませんから、大きな損失を被りかねません。それならば、東芝が将来立ち直って、債務超過が解消される可能性に賭ける、という選択は、合理的かも知れません。

そこを判断するためには、過去の損失は損失として、今後は黒字が続くのか、今後も赤字が続くのか、といった見極めが重要になります。「バブル期の投機失敗で債務超過に陥ったが、本業は順調だ」といった場合には、銀行にとって支えるインセンティブが大きかったわけですが、今回はどうでしょうか。

立ち直らないとしても、事業の一部を売却する事で債務超過が消えるなら、それを支えるはずです。一般に、企業の株価の時価総額は、自己資本より多いのが普通です(PBRは1以上が普通)。それは、企業が持っているノウハウや顧客リストなどの価値が、企業のバランスシートには表れないけれども株式市場では評価されるからです。同じ事を別の方向から見てみましょう。操業直後の企業は、赤字になります(操業赤字)が、その間にノウハウや顧客リストを獲得します。それらは企業にとって、決算上の赤字を出しても獲得したい物なのです。

そうだとすれば、黒字部門を子会社化し、その株式を売りに出せば(あるいは子会社ごと身売りすれば)、バランスシート上の評価額よりも高く売れるでしょう。それで東芝の債務超過が消えるならば、銀行としては支援を続けるはずです。マスコミ的には「東芝解体」といった報道もなされるでしょうが、社員がリストラされず、銀行の融資も続くなら、それで何も問題ないでしょう。

■赤字が続くとしても、生かしておく方が回収できる場合も
ある企業の借金が100以上あり、資産が100あるとします。資産は10年かけて10ずつ減価償却されていくとします。この企業が、毎年1の赤字を出し続けるとすれば、債務超過額は毎年膨らんで行きます。しかしそれでも銀行はこの企業を生かしておくでしょう。それは、生かしておけば合計で90の回収が出来るため、今すぐに清算して工場設備をスクラップ業者に売るよりも得だからです。

経済初心者向けに解説しておきます。この会社が、10の材料を仕入れて製品化し、19で売るとします。現金残高は9増加します。しかし、決算は赤字になります。それは、減価償却が費用として計上されるからです。つまり、赤字企業ではありますが、現金残高は毎年9ずつ増えて行くのです。「減価償却は、企業の決算を赤字にするが、企業のキャッシュフローには影響しない」からです。この現金残高増加分を銀行が回収していけば良いのです。

ちなみに、減価償却というのは、厳密ではありませんが、「製品を作ることによって機械が古くなって価値が下がった分は、製品を作るための費用だから、決算を赤字にする要因だ」というイメージで捉えて下さい。

債務超過の企業を支えるのは、手間がかかります。従って、零細企業であれば、清算してしまうかも知れません。大企業ならば、手間を上回る回収が見込めるので、支える、という事もあるでしょう。読者がかつて銀行に見放されて設備機械を二束三文で叩き売らされた零細企業のオーナーであったならば、怒り心頭かも知れませんが、銀行の事情は事情として御理解いただければ幸いです。

■冷たい銀行だと思われたくない、という面も
銀行は、評判を気にするので、借り手を支えざるを得ない、という面もあります。東芝のような大手企業が倒産すれば、大きなニュースになります。「あの銀行は、東芝を見捨てた冷たい銀行だ」という事が知れ渡ると、東芝以外の取引先が「あの銀行と付き合っていても、困った時に助けてくれないだろう。他の銀行と付き合う事にしよう」と考えて、逃げて行ってしまうかも知れません。それを恐れて、銀行は支えざるを得ない、という要因も重要です。

この点については、世の中が「あの銀行は冷たい」と考えるか否かが重要となります。粉飾決算で銀行を騙していたとなれば、銀行が怒って見放すのも当然でしょうから、世の中は銀行を批判しないでしょうが、銀行が本当に知らなかったのか、という点は問題となり得るでしょう。

余談ですが、銀行としては、まさか「粉飾を知っていた」とは言えないので、「知らなかった」と言うでしょうが、「取引先の粉飾も見抜けない間抜けな銀行だ」と言われるのでしょうね。いずれにしても災難です。

■銀行間の駆け引きは神経戦
大企業は、多くの銀行から融資を受けています。融資残高の多い順に、メイン行(メインバンク)、準メイン行、下位行などと呼ばれます。その中でも、特にメインバンクは、借り手が潰れそうな時に支援する事が(借り手からも世間からも)期待されているわけです。そこで、ドラマが起こります。

下位行が借り手に、少額の返済を迫ります。下位行としては、それが原因で借り手が倒産してしまうと、「あの銀行に足を引っ張られた」という悪評が立ちますから、リスクはありますが、そこは勝負です。借り手は、メインバンクに泣きつき、「少額の追加融資」を頼みます。メインバンクとしては、断ったことで借り手に倒産されてしまっては、悪評が立ちかねませんから、追加融資するかも知れません。こうした下位行の行動を「メイン寄せ」と呼びます。

メインバンクは、追加融資せざるを得ないとも感じますが、そこで追加融資をすれば、数多くの下位行が一斉に少額の返済を借り手に迫るでしょうから、合計では巨額の追加融資となりかねず、苦悩します。

メインバンクとしては、銀行団を集めて「各行とも融資残高を維持する」という協定を結びたいと考えますが、下位行は応じたくありません。そこで、「メインバンクは担保を放棄しろ」等々、言いたい放題言うかも知れません。それから、「残高維持の協定にサインするためには、行内の稟議手続きが必要だ。上層部をどう説得したら良いのだ?金融庁検査でどう説明したら良いのだ?」とメインバンクを問いつめます。メインバンクとしては、様々な説得を試みますが、そこは神経戦です。

場合によっては借り手から提出された「将来は黒字化して融資が全額返済できるという楽観的な収支予想」を各銀行に転送して、稟議書に添付してもらう、といった事も行なわれているのかも知れませんね。

「江戸の敵を長崎で討つぞ」という牽制が銀行間で行なわれているといった噂も耳にしますが、あくまでも噂なので本稿では御紹介しない事にしましょう(笑)。

【参考記事】
■トランプ新大統領の経済政策は日本にプラスと期待 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/50455343-20170120.html
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■老後の生活は1億円必用だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49185650-20160728.html
■国債暴落シミュレーション:Xデーのパニック(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199602230.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授



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