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 ANAホールディングス(以下ANA)は2月24日、LCCのピーチ・アビエーション(以下ピーチ)を連結子会社化すると発表した。ピーチは2011年に設立されてから5年ほど経過し、2016年3月には3期連続黒字との営業利益率は12.9%の高収益を達成している。国内のLCCとして順調に成長しているピーチをこのタイミングで子会社化したANAの意図について、そしてANAのLCC事業に対する深謀を読み解いてみたい。

■ピーチを子会社化した理由

 ピーチは2011年に、ANA、香港の投資会社、産業革新機構の共同出資により設立された。ANAとしてピーチへの投資は、成功するかどうか不透明であったLCC事業に最低限の出資で挑戦することができ、なおかつANA本体の国内市場を荒らされないよう、最終的な拒否権を持つ(社長の派遣もあったが)状態でピーチの門出を作り上げていた。それが実を結び、ピーチの事業が安定した収益を稼ぎ出せると確信したこのタイミングに合わせ、成長した果実をもぎ取るがごとく、ピーチをANAへ取り込んだ。このことから大きな目的の1つはピーチの収益性であることが伺える。

 また、ピーチの共同出資者である香港の投資会社からは、一時ピーチの新規上場による株式公開も検討する旨のコメントが聞かれたこともあった。そのため、ピーチの上場による独自色の暴走を制御し、将来的なANA本体の国内事業への悪影響を及ぼす可能性を排除することが、ピーチ子会社化に踏み切った2つ目の理由であると思われる。(投資会社の上場に関するコメントは、ANAに株式を高値で売りつけるための意図があった可能性も否定はできないが)


■ANAの目論み

 ピーチ設立当時から世界中を席巻するLCCというビジネスモデルは、短距離路線における圧倒的な存在感を誇り、そのニーズは明らかであった。そのため、ANAは、遅かれ早かれLCCの日本国内市場への進出(エアアジアやジェットスターが隆盛を極めていた時期)を睨み、他社にそのニーズを取られる前に先駆けて共同出資によるLCC事業を開始した。
 
 これは、他社に参入される前にLCC市場を自社に取り込み、また新規参入しようとするLCCに対しては日本市場のノウハウを提供する名目の元で提携を行い、各社に手綱を締め、自己のコントロール下に置き、既存の国内市場を守ろうとする保護主義的な目論みがあったと考えられる。そして、周知の事実ではあるが、手綱を締めきれなかったエアアジアとは決別し、日本市場から締め出し、バニラエアだけが残る結果となった。

 ANAの深謀は、国内のLCC全てに青色の首輪をかけ、将来的に国内市場のどの分野(フルサービス、LCC等)で収益が見込めるかを見極めること。そして、収益力の高い魅力的な方向がある程度定まった場合は、そこに向かって舵を切る。そんなシナリオが今回のピーチ子会社化の動きには見え隠れしている。子会社化後もピーチの独自性を維持していくことに言及してはいるが、本当に独自性を保ちたいと考えているのであれば、ピーチを独立会社として上場させ、ANAが持つ株式をすべて放出した方が独自性保護の観点では効果的なことは明白である。


■ANAの戦略

 このようにANAの国内市場に対する戦略は、LCCとフルサービスの双方で国内市場の収益を刈り取ろうとする総花的な戦略であることがわかる。ここから見えるのは、国内大手によるLCC事業は一見して市場拡大や消費者利益につながるように思われるが、実際は単なるフルサービスからLCCへの収益獲得の移転に過ぎない。

(余談であるが、監督官庁としての国交相も、大手傘下であろうがLCCが増えれば、航空大手2社による寡占市場を開放した実績とすることができる。また、大手傘下のLCCであれば何か問題がある場合にも勝手知る大手が対処することで、監督官庁の関与、指導負担を軽減させることができるであろう)

今回のANAによるピーチ子会社化によって見えてきたのは、国内の航空市場の大手航空会社による更なる寡占化と保護主義政策の促進である。この動きにより利用者利益が今後損なわれていく可能性は高い。本当の利用者利益のためには、既存大手以外の独立資本による新規参入と、新規参入企業との公正な競争による市場の寡占化解消を図り、大手の戦略を崩す一手が待ち望まれる。


【参考記事】
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■優秀が故のジレンマ「大企業のイノベーションへの挑戦」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50115391-20161130.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html
■国内LCCの戦略に潜む思惑とは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48967732-20160630.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html


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