d6a3dc4cd20085129d0b1a04a59c69a0_s


■トランプ大統領の大統領令

トランプ氏は大統領就任以来、大統領令(Executive Order)への署名と発令が繰り返されています。トランプ大統領の過激な発言にも日々驚かされるわけですが、ここにきてこの大統領令が毎日のように報道されており注目を浴びています。日本では馴染みがないこの大統領令とは一体どのようなものなのでしょうか?

大統領令とは、米国議会の承認なしで連邦政府や軍に発令する権限のことで、トランプ大統領就任以来、Presidential Memoranda(大統領覚書)を含めると2月半ばの時点で24を数えます。
以下はトランプ大統領がこれまで発令した代表的な大統領令になります。

  - メキシコ国境の壁(大統領令 1/25 署名)
  - オバマケア(医療保険制度改革法)の見直し(大統領令1/20 署名)
  - TPP離脱(大統領覚書 1/23 署名)
  - 金融規制改革法(ドットフランク法)の見直し(大統領令 2/3 署名)

正確には大統領令と大統領覚書は異なるものですが、日本ではまとめて大統領令と一括りにして報道されています。



■これまでの大統領令発令について

トランプ氏が大統領になると、政権運営ができる体制も整っていないまま、公約実現のために立て続けに大統領令を発令してきました。その様子は大統領令の乱発にも映りますが、歴史を振り返るとトランプ大統領の大統領令の頻度はさして多くはないことがわかります。

国立公文書記録管理局によると、例えばクリントン364件、GWブッシュ291件、オバマは276件もの大統領令を出したと記録されています。その中でも、最も多い大統領令を出したのがFルーズベルトで、その件数も3728にのぼりました。12年の任期と長かったせいもありましたが、就任一年目の1933年には600近くの大統領令を出したそうです。


■万能でない大統領令

大統領令は米国議会を通さなくてもよいため乱発だけが目立ってしまい、あたかも万能なツールとして考えられています。先述した大統領令が全て実行に移されるかというと、実のところそうではありません。大統領令は憲法や法律などのように一般性を含むものではなく、むしろ一時的な連邦職員への命令でしかありません。例えば日本では「オバマケア撤廃!」と一部報道されていますが、トランプ大統領がおこなったのは連邦職員に対して規制の凍結を指示しただけになります。つまり、法案を見直すまでの時間稼ぎをしたと同じ効果なのです。

今後は議会を通して、このオバマケアを骨抜きにするための代替案などを出していくことになるでしょう。このように大統領令は、連邦職員への命令を通じて憲法や法律などを執行させるための手段として使われるだけで、何でもできる万能薬ではないのです。


■試されるトランプ政策 2つの懸念点 ①議会承認は本当にできるのか?

先述のメキシコ国境の壁やTPPの離脱などについては、連邦職員への働きかけだけで済みました。しかし、財政出動のような経済政策と関わるものであれば、トランプ大統領は議会の承認を受けることになります。すなわち、本当の目的であるトランプ大減税、規制緩和、インフラ投資(今後10年で1兆ドルの投資)などを中心にした経済政策を実行するためには、いかに議会で承認を取り付けていくべきかが争点になるわけです。

閣僚が議会承認されていないまま、少数の側近とスピード重視の「トランプ流」で取り組んできたわけですが、トランプ大統領の本丸である経済政策を実施するためには現実路線に戻していかざるを得なくなるでしょう。というのは、このままトランプ流を貫いてしまうと経済政策に関して議会で立法化する際、同じ共和党議員たちから積極的な支持を得られなくなる可能性があるからです。共和党議員たちは2018年には中間選挙を控えており、トランプ流に対する逆風が強いと、自身の立場を守るためにトランプ政策と反対の立場をとることも十分にあり得るのです。


■試されるトランプ政策 2つの懸念点 ②経済政策効果の不確実性

実際に、トランプ大統領の経済政策が議会承認されたとしても、まだ懸念を払しょくできるものではありません。というのは、経済政策の実行が裏目に出てしまう可能性があるということです。
トランプ大統領の公約の最優先事項は、個人・法人への大規模な減税です。しかし、この大減税がアメリカ政府の歳入(税収)増につながるかどうかは未知数です。間違ってしまうと、大規模なインフラ投資と相まって財政赤字をさらに拡大させる可能性があります。また財政赤字の拡大は、規制緩和も後押ししてさらなる格差を生み出すことにもなりかねません。

レーガノミクスで有名なレーガン前大統領は1980年半ばに減税や規制緩和を積極的におこないました。しかし、その政策は当初予定していた歳入額を大幅に下回ることになり、財政赤字が増大、金利が高騰し、ドル高の影響で貿易赤字を拡大させアメリカを「双子の赤字」に陥らせた経緯があります。もちろん、経済的政治的事情は当時と違うのですが、トランプ大統領の経済政策-トランポノミクス-は当時のレーガノミクスとオーバーラップしてしまいます。


■今後注目するべきポイントとは

トランポノミクスが掲げる、大減税、規制緩和、インフラ投資に加えて保護貿易政策のセットは、全てがうまく嚙み合えば「Make America Great Again!(アメリカを再び偉大に!)」が現実になるでしょう。

数々の不安を抱えながらも、今のところトランプ政権が支持されるのは好調なアメリカ経済とトランプ大統領に対する国民の期待が下支えしている点にあります。しかし、この期待はいつまでも続くものではありません。好調な経済がいつ反転するかもわかりません。
減税やインフラ投資について議会審議は今年の中頃まで続くことを考えると、大統領令で稼いだ時間を使っていかに政策を立法化させる政権を作れるかが今後注目するポイントになります。


《関連記事》

■もう元に戻せない...BREXIT投票後のUKのこれから(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
■批判されることが大嫌いな欧米ビジネスパーソンとの正しい付き合い方(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
■日本人が持つべき英語力向上に必要な"日本語力" (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
■アベノミクスが対峙する「生産性向上ができない日本の"特殊"事情」(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
■"あの"時の英国を彷彿させる中国経済の今(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)


JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師


この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加


関連コンテンツ
シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール