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歴史少女漫画「ベルサイユのばら」が雑誌連載が始まって45年が経った今でも、デパートのキャンペーンに使われたり、コラボ商品が次々と発売になったりと、根強い人気があります。

その人気について、主人公の男装の麗人、オスカルの生き方を軸に記事を書いたところ、思いがけず多くの反響がありました(「オスカルという生き方~ベルサイユのばらが半世紀経っても新しい理由~)。その多くは、「私もオスカルの生き方にあこがれていた」というもの。中には、「卒業文集に、将来はオスカルのような生き方を目指すと書いた」と言う人もいました。

多くの女性たちに影響を与えたオスカルですが、今回はその生き方について、「女性リーダー」という観点から考えてみたいと思います。

■組織で働く女性の理想であったオスカル
オスカルは、代々武官を勤める名門貴族、ジャルジェ家の出身です。跡取りとなる男子に恵まれなかったことから、末子の彼女が男として育てられました。オーストリアからマリー・アントワネットが嫁いできた際には、入隊年齢に満たないにもかかわらず女性ということから護衛役に任命され、近衛隊に入隊します。剣に優れ、颯爽としたオスカルは、宮廷の女性達から「男性として」人気を集めます。しかし、実は「女性」であることや、特別扱いをされていることに対し、ひそかに部下たちから反感を買っていたことが、最近発刊された続編では描かれていました。

この作品が連載された1970年代は、企業で働き続ける女性はまだまだ珍しかった時代です。一方で世界的に女性の地位向上の取り組みが進み、その延長で日本でも1985年に男女雇用機会均等法が施行。その後、組織で働く女性は増加します。彼女たちにとって、軍隊や宮廷社会といった組織の中で男性に伍して活躍するオスカルは、その登場自体が新鮮であったでしょうし、組織で働く女性のロールモデルのように受けとられたと考えられます。

オスカルが読者から支持される理由は、その正義感の強さや弱いものに対する優しさです。従者のアンドレが罪に問われそうになった時や、部下が処分されそうになった際には、身をもって彼らを守ろうとしました。

人間は身分に関わらず平等であるという強い信念を持ち、権力からは距離を置こうとします。アントワネットから自分のサロンに招かれた際にも「サロンでおしゃべりするのは自分の役割ではない」と断ります。また、アントワネットの奔放な振る舞いが目に余ると王妃としての本分を思い出すように直言することも厭いません。

平民の部下から反抗された時にも「私はお前たちを好きにできる権力を持っている。しかし力で人を押さえつけることに、何の意味がある?心は自由だからだ」と語り、彼らが罪に問われないよう配慮します。こうした姿勢を見て、当初は女性だからとオスカルに反発した部下たちも、徐々に彼女に心を開くようになるのです。

苦しい生活を強いられてい民衆に心を寄せていたオスカルは、最終的に革命側に転じ、フランス革命の端緒となったバスティーユ監獄での騒乱の中で命を落とします。享年34歳。若くして自らの信義に殉じた彼女は、読者の少女たちに強い印象を残しました。

■自意識過剰なオスカル
美しいばかりでなく高潔なオスカルの生き方は、一個人としては多くの人に憧れを集める魅力があるのもうなずけます。しかし、組織人として見た場合はどうでしょうか?

彼女は正義感が強いあまり、何かというと正論を振りかざします。相手が、たとえ王妃であってもです。

王妃マリー・アントワネットのスウェーデン人貴族フェルゼンとの仲が噂になった時には、王妃として身を慎むように直言します。しかし正論は、時に言われた相手を傷つけます。王妃は、初恋も知らない頃に政略結婚を強いられた自分にとって、フェルゼンとの恋を諦めることはできないと告げます。

「あなたに女の心をもとめるのは無理なことだったのでしょうか?」「私は王妃である前に人間です。生きた心を持った一人の女性です」。そう語るアントワネット。その言葉を聞いてオスカルは、女性としての幸せを求めていた王妃の心情を慮れなかった自らの思慮不足を深く反省するのです。

上司に正しいことを直言する人間は、疎まれる危険性もあります。しかし、オスカルが失脚することがないのは、彼女が大貴族として生まれながらにして地位を保証される特権を持ち、かつ、王妃マリー・アントワネットの強力な後ろ盾があるからです。また、幼い頃から共に育った従者のアンドレが、彼女の足りない部分を絶妙にカバーしてくれるからでもあります。

オスカル自身は、庇護されている自分自身の立場を良しとせず、強く反発します。それは現代の「女性活躍推進の追い風で昇格したことに悩む女性の姿」にも重なるのではないでしょうか。自分の力の無さに対し、自意識過をこじらせ、過剰反応してしまうのです。

オスカルは「王宮の飾り人形」と揶揄されたことをきっかけに、降格と近衛隊からの異動願いを王妃マリー・アントワネットに直訴し、衛兵隊に異動することになります。容姿の整った貴族のみ入隊が許される近衛隊にいる自分が許せなくなったからです。

「宮廷のお飾りでいたくない」というのはオスカル自身の自意識からくる勝手なフラストレーションです。彼女を庇護してきた父親や王妃らの厚意を無にする行為ともいえます。父親のジャルジェ将軍は、オスカルの行動を「あのばかが!!(中略)温室育ちの花に限って、世間の花を見たいなどと欲を出す」と評していますが、彼からすると、オスカルの行動は、自意識過剰で自分勝手な行為に見えたに違いありません。

■直情径行のオスカル
オスカルは、何か事を起こす時にも、上司の命令に反する時にも、真正面から正論を論じます。正義感の強さはオスカルの魅力の一つですが、組織のリーダーとして必要な「目的の達成」という点で見ると、残念ながら彼女の方法は、単純すぎると言わざるを得ません。

前々から三部会で招集された平民議員への貴族側の対応に理不尽さを感じていたオスカル。解散を命じられても会議場に居残る平民議員を、武力で追い出すように上司のブイエ将軍に命じられたオスカルは、「軍隊とは国民を守るためのものであって、銃を向けるためのものではありません」と言って命令を拒否し、その結果、逮捕されてしまいます。

逮捕されたオスカルの代わりに、ブイエ将軍が直接、衛兵隊に出動を命じたところ、彼らはこれを拒否。彼らもまた逮捕され、見せしめのために銃殺されることになってしまうのです。結局は解放されますが、オスカルの正論は、大事な部下たちさえ危険にさらされてしまうのです。

もともと、折り合いが悪かった上司のブイエ将軍に、オスカルが正論を持ち出して命令を拒否したところで、果たして将軍が命令をひっこめると本当に思ったのでしょうか? もし平民議員に武力を振るうことを避けたいのであれば、たとえば、いったんは命令を受けたうえで、現地で対応を変えるなど、他の方法もあったように考えられます。

物語はさらに、平民議員が閉じこもった会議場のシーンへと続きます。会議場へは衛兵隊の代わりに、オスカルが元いた近衛兵が出動することになります。それを知ったオスカルは、アンドレの助けを借りて軟禁されていた場所から逃げ出し、近衛兵の出動を止めに向かいます。そして出動中の近衛隊の前に立ちはだかってこう叫ぶのです。

「近衛隊の諸君!!私の胸を砲弾で貫く勇気があるか!?
さあ撃て!!武器を持たない平民議員に手を出すというのなら
私の屍を越えていけ!!
私の血で紅に染まっていけ!!
撃て!!」


鬼気迫るオスカルの様子に息を呑む近衛兵たち。兵たちを率いるのは、以前にオスカルに求婚したこともあるジェローデルです。愛するオスカルの血に染まるよりは、謀反者としての罪を引き受けることを選び、彼は退却を命じます。しかし、そのために官職をはく奪され、営倉に囚われることになったことが、最近発刊された続編で明らかになります。

身を挺して正義を貫くオスカルが描かれたこのシーンは、「ベルサイユのばら」の山場の一つでもあります。しかし、ジェロ―デルが罪に問われたのに対し、オスカルはといえば、アントワネットの尽力で罪に問われませんでした。愛情からと納得していたとはいえ、ジェロ―デルは、オスカルの正義感のとばっちりを受けてしまったともみることができるでしょう。

■日本の女性リーダーに足りないもの
人間としては魅力的なオスカルですが、残念ながら物語の中盤から終盤にかけて、組織人として未熟と思われる点が所々で見られます。そして、それは実は日本の女性リーダーにも足りないといわれる要素と重なります。

女性活躍を推進する企業や女性リーダーたちの支援をミッションとするNPO法人「J-win」の初代理事長で、元日本IBM専務の内永ゆか子氏は、女性管理職の課題について「『組織人』としての成熟度が低いからだ」と語っています。(「キーパーソンが語る“人と組織”」/「日本の人事部」ウェブサイト(2007年12月5日)より)

内永氏は、管理職になるということは、ヒトの力を借りたり、周囲の組織とうまく協業しなくてはならない立場になることだと定義します。そして、管理職には部下のためにも、社内的な政治力を強く持つことも必要だと語ります。

そう考えたの発言の背景には、ご自分が管理職になったばかりの頃に、正論ばかり吐いていたことへの反省があるそうです。自分自身が清く正しくあればいいという人は、組織の長にふさわしくないとまでおっしゃっています。

■したたかさを身につけ始めたオスカル
直情径行で、正論を振りかざしていたオスカルですが、その晩年には、がらりと仕事への取り組み方を変えています。

収監され銃殺を待つのみとなった部下を助けるために、自らは直接関与することなく、ひそかに知人で平民の新聞記者のベルナール・シャトレの力を借ります。囚われている兵の解放を求めて民衆が騒ぎを起こすよう、扇動を頼むのです。その試みは成功し、無事部下たちは解放されるに至ります。

自分の思うことをすぐに口に出し、そのために本来の目的を達成できなかった以前のオスカルと比べると、他人をうまく使う、したたかさが加わったように見て取れます。

「したたか」というと、ネガティブなイメージもある言葉です。特に昇進や権力をのためにと考えると、どこかいやらしい意味合を帯びる言葉です。その目的が、私利私欲のためであれば「したたかさ」はネガティブなものになるでしょう。しかし、人のため社会のためという大義を目指しての「したたかさ」は、何かを成就させるには必要なものです。

そのしたたかさの前提となるのは、現状をありのままに受け入れることです。現状認識は、自分の弱さを認識することにもなります。そして、弱さを認識することで、目的達成のために必要なことは何かを明確にすることができるのです。

正義感の強いオスカルのような人間は、フランス革命のイデオロギーが対立する状況の中では生き延びることは難しかったと思います。しかし、リーダーとして徐々にしたたかさを身につけてきたことを考えると、革命の混乱を彼女がどう生きたのか見てみたかったと、叶わぬ希望も抱いてしまいます。それが不可能な今、オスカルをロールモデルとした女性が、組織の中でしたたかさを発揮することを期待し、応援したいと改めて思います。

【参考記事】
■オスカルという生き方。~ベルサイユのばらが半世紀経っても新しい理由~
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朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)


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