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先日、アカデミー賞授賞式での誤発表で話題になった、映画LA LA LAND(ラ・ラ・ランド)。

物語は、ジャズの可能性を信じる男性ピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)と、女優を夢見る女性ミア(エマ・ストーン)とのラブストーリーを軸に、ミュージカル風に展開する。

話題の映画だけあって、批評はもちろん賛否両論あり、好き嫌いについても大きく分かれるところだろう。

なお、以下の内容では一部映画のネタバレを含むので、まだご覧になっていない方は読むにあたりご注意頂きたい。

■ラ・ラ・ランドで描かれる一つの成功
さて、この映画には様々な主題があると思うが、その中で主役のセブの成功までの道程について考えたい。

物語の前半、セブと恋人のミア、若い男女の二人は経済的に不遇だ。セブはジャズピアニストとして満足な収入を得られず、ミアは女優のオーディションに落ちてばかり。

序盤のシーンで、レストランでBGMのピアノを弾く仕事にいったセブは、店側の指示に反して自分がこだわるジャズの演奏をして、解雇される。

また、とあるガーデンパーティーではチャラいバンドでキーボードを弾きくことに屈辱を感じたり、その後も、セブが経済的に苦しむ最大の要因として、ジャズへの強いこだわりが描かれている。

おそらく経営者や起業家においても、同じ様に何かにこだわって事業をおこすケースが多いだろう。

いつか理想のジャズバーを経営することで、人々にジャズの素晴らしさを理解してもらうことを夢見ていたセブは、最終的に夢を叶えるわけだが、その成功までの軌跡には、企業にとって重要な示唆が含まれていると思う。

■ジャズへのこだわりを妥協するセブ
何かと理想のジャズにこだわり過ぎるセブが、安定収入を得るために、友人に誘われたバンドでメジャーデビューする。

そしてそのデビューライブを観た恋人のミアは、愕然とする。そのバンドの演奏は、本来のセブが目指すジャズとはかなり異なる曲調とアレンジで、いわゆる大衆ウケを狙ったエンターテイメント性の高い音楽だった。

果たしてセブのバンドは当たり、アルバムを出しては世界ツアーを繰り返す、売れっ子アーティストとなる。

女優を目指して芽の出ないミアは、そんなセブの成功を妥協の産物としてしか見ることができず、成功として認めることが出来ない。

セブが安定収入を得るためにバンドに参加したのも、動機としては夢であるジャズバーを開くための資金を貯めたり、ミアとの生活のためなのだが、セブの多忙ですれ違いの生活になってしまったふたりの溝は深い。

口論の末に、売れるためにこだわりを捨てたことは夢をあきらめたことなのだと、セブは恋人のミアに詰(なじ)られる。

■こだわりと収入の順序
さて、しかし最終的にセブがジャズバーを開くことが出来たのは、売れっ子バンドで経済力を得たからであろう。それまでまともな収入を得ていなかった彼が、演奏に対するこだわりを捨てて妥協したことは、彼なりに本物のこだわりを貫いたとも言えよう。

ここは我々の仕事にも通じるものがある。

夢の達成に向けて、セブのかつての最大の障害は、ジャズにこだわりながら資金を貯めることの難しさだった。技術的には他の音楽より上位に見られがちなジャズプレイヤーだが、その需要の低さはセブ自身がもっともよく知悉していた。

まして、こだわりを振りかざして、とても高給とは思えないレストランのピアノ弾きすら解雇されているようでは、ジャズバーの開設資金を貯めるなどおぼつかない。

セブは、こだわりを捨て収入を得ることで、夢を現実にすることに向かって前進し始めたのだといえる。

■企業の収入とこだわり
このセブのキャリアは、経営者や起業家にとって非常に興味深い。

まず経済的な成功を得てから、自分のこだわりの世界に踏み込む。たとえそれが正則だと気づいても、自分のやりたい事にこだわる人にとって、この手順を逆にすることは意外と難しい。

特に研究開発費をかけられない中小零細企業においては、まずは利益をあげて存続することが最重要である。体力のある大企業と異なり、中小企業は目前のキャッシュフローこそが命の綱であり、ましてこだわりを先行して倒産してしまったのでは、何もできない。

さて反面、こだわりを捨てたと思われたセブを攻める恋人ミアの気持ちもよくわかる。夢を追うことはふたりの共通の思いだったのだから。

セブがもし、ミアが危惧したように、夢を忘れて大衆に迎合して金を稼ぐことだけを考えるようになってしまえば、ジャズバーを経営するという当初の夢を見失ったのかもしれない。

我々企業も同様で、自分が提供したい商品やサービスをマーケットに迎合し続ければ、自社の強みを見失い、行き着く先は薄利多売の安売り合戦、なんてことにもなり兼ねない。そうなると逆に、大資本には敵わなくなる。

だがセブは夢を捨てていなかった。不本意な演奏活動をすることは、彼にとって経済的な不遇よりも辛いことだったはずだが、彼はそれに耐えて夢に近づいていった。

企業も、一部の突出した商品やサービスを除き、マーケットに望まれていないこだわりを持ち続けることが、自社の成長の障害になるケースは少なくない。小資本の中小企業であれば、まず収益を最大にし、存続できる体力をつけることが先決だ。

そうして会社と社員の生活を安定させてからでも、経営者のこだわった夢を叶えるためのチャレンジはできる。だが繰り返しになるが、その順序を逆にすることは、少なくとも小さな会社には難しいといえる。

中盤でセブがバンドに誘われる際に、印象深いシーンがある。ジャズを信じながらも不遇に甘んじているセブに対し、バンドに誘う友人から、お前はまだ世界に何の影響も与えていない、と指摘される。

そう言われると悔しいだろうが、それは私たち企業も同じだ。こだわってばかりで売れなければ何も起きないし、存続できなければ何も提供できない。

■映画「ラ・ラ・ランド」
最終的には、ふたりがどうなったかは、映画をご覧になった方はご存知のとおりだ。さて、最後に私見を申し上げると、この映画は素晴らしい。

様々なシーンがまるで絵のように色使いや構図が美しく、音楽は素晴らしく、セブとミアの恋愛はもどかしく切なく、成長して再会したふたりの大人の節度が胸を締め付ける。そして、かつて娯楽の王様であったであろうミュージカルと、ジャズの魅力を再確認できる、素敵な映画である。冒頭述べたように好き嫌いは自由なので、私は是非周りの人に観ることをお勧めしようと思う。

なお、映画にはありがちな事だが、登場人物は全ての心理を説明してくれるわけではなく、本稿においても筆者の勝手な解釈が多く含まれている。もし別の解釈をお持ちの方がいたら、そこはお許しいただきたい。

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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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