auto-1633418_640
朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」の放送も佳境に入り、主人公すみれをはじめとする「キアリス」創業メンバーは次の世代へバトンを渡すステージへと入った。ベビー子供服の老舗「ファミリア」の創業ストーリーとしてその企業理念や経営姿勢を興味深く見ると同時に、留学ジャーナリストたるわが身としては、複数のアメリカ留学経験者がドラマを彩っていることにも注目してきた。

「けんたろう君」や「さくらちゃん」のアメリカ留学もさることながら、今回注目していたのが若者向けアパレルブランド・エイス創業者の「エイスケさん」だ。戦後、アメリカを放浪し、創業のヒントをみつけてきたエイスケさん。一見、目的を持たない行き当たりばったりのアメリカ行脚であったようにみえるが、実際には偶然を必然とする貴重な実例であったと考える。エイスケさんがアメリカで得た学びとその活かし方について考察する。

■『現実逃避』なんてけしからん
エイスケさんの実在モデルは、男性向けファッションブランド「VAN」創業者の石津謙介氏と想定される。1960年代に一世を風靡したVANは、アイビーリーグファッションで日本中の男性を虜にした。劇中、エイスケさんはアメリカでファッションの薫陶を受け帰国後にエイスを創業したことになっているが、石津氏もアメリカ視察旅行でアイビーリーグの学生を見たことにヒントを得たそうである。

エイスケさんがアメリカへ渡った経緯は明らかにされていないが、姿を消す直前に主人公すみれに失恋をし、傷心の状態にあったことは視聴者全員が確認している。その先はあくまでも想像であるが、エイスケさんは日本を飛び出すことで過去を清算し、新しい自分に生まれ変わりたかったのかもしれない。

エイスケさんのような理由で留学を志す人は、大多数ではないが少なくもない。「失恋」「受験に不合格」「左遷」等、挫折をきっかけとするケースや、現在の仕事に満足がいかず、これからどうやって生きて行こうかを迷いながら留学するというケースもある。

多くの場合、このように確たる目的を持たない留学というのは周りの賛同を得にくいものである。事実、調査ではワーキングホリデー等の海外就業体験者が就職活動の際に海外就業体験が評価されなかった理由として「採用担当者に(海外体験を)現実逃避と捉えられたため」が第3位に入っている。(出典:勤労青少年の国際交流を活用した キャリア形成支援事業(厚生労働省委託事業)「海外就業体験が若年層の職業能力開発・キャリア形成に及ぼす影響・効果に関する調査研究」)

■「僕が日本の若者をオシャレにしたい」
しかし、現実逃避はそんなに悪いことなのだろうか?これまでに筆者はたくさんの留学生取材を通して留学経験を通して新しい価値観を身に付け、これまでと違う人生を歩む人たちに出会ってきた。

ある女子学生は卒業旅行がてらバンクーバーへ短期留学し、現地の学校で働く日本人女性に影響を受け、内定を断って改めてビジネスの専門学校に入って学び直し海外の金融企業へ就職した。

またある人は新卒で就職した会社になじめず自信をなくしたまま退職し、気分転換にオーストラリアへワーキングホリデーで渡航し、旅行代理店でのアルバイトを通してコミュニケーションの楽しさに気付き、人と接する仕事を極めるべくホスピタリティーの学校に入学した。

別のある人は「周りの友だちが行っているから」という理由で夏休みにロサンゼルス留学をし、そこでファッション業界に興味を持ち始め、その方面への就職活動を模索している。

彼らに共通することは「偶然を必然に変える力」である。人からの影響を受けたり、現地で楽しいことがあったからといって、誰もが自身の人生を変える行動に出るわけではない。自身が動くから、人生が動くのだ。

エイスケさんとてそうである。アメリカの若者はかっこよかった。その感想だけで終わることもできた。しかし「僕が日本の若者をオシャレにしたい」という志を持つに至り、帰国後に起業するのだ。

■好奇心を持ち、楽観的かつ柔軟に
このキャリアロードは、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱したキャリア理論「プランドハプンスタンスセオリー(=『計画された偶発性』理論)」にて説明ができる。プランドハプンスタンスセオリーとは、偶然遭遇した事象を積極的に自らの人生計画に組み入れていくことでキャリア構築する道筋を提唱するもので、その過程では

1.好奇心
2.持続性
3.楽観性
4.柔軟性
5.リスク・テイキング

の5つの行動指針を持つことを重視している。エイスケさん的・留学の活用法の神髄もここにある。アイビーリーグの学生ファッションに関心を持ち(好奇心)、創業に向けて努力をし(持続性)、失敗を恐れずに事業を拡大・発展させた(楽観性・柔軟性・リスクテイキング)。

先日、プランドハプンスタンスセオリーを体現しているかのような日本人男性に会った。現在、ニュージーランドのワイナリーで働く岸田博之さんは、上智大学を卒業し就職。一流と言われる街道を走り、企業内では将来責任のある立場に立つことを期待され、企業戦士として働いてきたが、睡眠は連日3時間。疲弊したとき、いわゆる『ミッドエイジ・クライシス』に陥り人生を考え直すこととなった。

既に結婚をしていた岸田さんだったが、仕事を休むことにした。好きだったワインのことが思い浮かんだ。ニュージーランドに行ってワイン醸造学を学び、ワイン造りという新しい道を歩むことにした。決断したときは35歳。2年間で資金を貯めて37歳でネルソンマルボロ工科大学のワイン醸造学科の学生となった。

以前の自分からは全く想像していない自分となったが「一生懸命やると先が見える。」と岸田さんは言う。「いま疲れちゃっている人には悪いけど、僕は今『楽しいことしかしてないよ』って言いたい。」岸田さんは既にニュージーランドで永住権をとり、マルボロ地方の大手ワイン醸造会社で責任あるポストを任されている。近い将来、自分の造りたいワインを追求していきたいそうだ。

先述の調査「海外就業体験が若年層の職業能力開発・キャリア形成に及ぼす影響・効果に関する調査研究」における海外就業体験者回答では、海外就業体験で良かった点TOP3のうち2つを「視野が広がった」「価値観・考え方が変わり人生が豊かになった」とする回答が占めている。

新しい道に進むとき、明確な目的を持って進むのも良いが、まだ目的が定まっていないのも良いものなのだ。NHKにはぜひ、すみれたちの前から姿を消してからアメリカで運命の偶然を手にするまでのエイスケさんの姿を、スピンオフドラマにして制作いただきたいものである。

《参考記事》
■ピース綾部さんにアメリカで遠慮なく失敗してきてほしい理由(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49869595-20161027.html
■渡辺直美さんのニューヨーク留学から考える『留学の成果』とは? (若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/47311795-20151224.html
■トランプ政権誕生で懸念されるアメリカ留学への影響(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49969325-20161110.html
■トランプ大統領誕生でアメリカ留学「以外」を選ぶ学生たち(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2017/01/31/trump-3/
■関心高まる世界大学ランキング上位校への進学。高校の指導体制は?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2016/09/30/top-uni-ranking/

若松千枝加 留学ジャーナリスト


この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加




関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール