キャリア

3月19日の日本経済新聞朝刊によると、食品スーパーの成城石井は、4月から公募型の幹部育成研修をスタートさせ、10年後に経営を担う人材や店舗運営を支える中核人材の育成を進めるとのことです。

幹部育成研修公募型を開始 ~ 成城石井、来月から

食品スーパーの成城石井(横浜市)は4月から公募型の幹部育成研修を始める。若手から中堅社員までが対象で、社長をはじめ経営幹部が講演するほか、グループワークなどを月1回程度の頻度で実施する。6月には海外視察も予定する。公募型にすることで、従業員の意欲を引き出す。(以下略)
<2017.3.19 日本経済新聞朝刊>


■若手人材の早期選抜と育成
成城石井の幹部育成研修がニュースとなった背景には、若手や中堅社員を受講対象とした幹部育成研修を「公募型」で実施している日本企業は、未だ少数に留まることが挙げられます。

管理職層から受講者を選抜し、ビジネススクールの講師などを招いて経営学全般を学習する研修を行っている企業は、現在では少なくありませんが、成城石井のように若手社員のうちから公募で幹部育成研修の受講者を募るケースは、まだ珍しいと思います。

一方で、企業が将来の幹部を育成する研修の受講者を社内で公募する際は、各部門の責任者が推薦する人材の中から受講者を選抜する形式が多く、「社内公募」という形態を取っていても、実際は評価等の面で一定の基準をクリアしている社員でないと研修を受講できないケースが多く見られます。

また最近では、各部門から推薦された人材の中から選抜した人材に「研修」という学習機会を与えることにより、幹部社員が習得しておくべき知識やスキルの向上を図ることは勿論のこと、受講者の研修への参加意欲や発言等を観察することにより、誰が将来の幹部にふさわしい資質を備えているかを見極める場として、研修を捉える企業も増えてきています。

今回の成城石井の場合、中堅社員のみならず若手社員も、公募型幹部育成研修の受講対象になっていますが、若手社員を選抜する場合は、リスクも考えておかないとなりません。若手のうちから一部の選抜された「勝ち組社員」と、「その他大勢組」というような分類が為されることで、大多数を占める「その他大勢組」のモチベーションダウンを引き起こす可能性があるからです。

私見ですが、成城石井の場合には、業績は堅調なもののスーパー業界全体を取り巻く事業環境は厳しいものがありますので、「その他大勢組」のモチベーションダウンに気を配るよりも、若手社員であっても、優秀な社員には早期に能力向上の機会を与え、早く要職に抜擢したほうが良い、という判断があったのかもしれません。

■滞留するシニア非管理職層への対応
一方シニア層に目を向けると、人手不足が深刻化している中でも、多くの企業が「早期退職優遇制度」等を設けて、希望退職者を募っています。従来、希望退職者を募る企業の多くは業績が悪化したり、工場等を閉鎖するなどの理由がある場合が多かったのですが、最近では業績が堅調であっても、常時希望退職者を募る企業も散見されます。

また空いたポスト等に若手社員を抜擢したり、外部から有能な人材を招聘するなどにより、組織全体の新陳代謝を図る動きも顕著になっています。このように、日本でも若手社員の早期選抜・育成と、シニア層の転進支援等をセットで行う企業が、少しずつ増加しつつあります。

筆者は以前、いくつかの企業で、シニアの非管理職層の社員を主対象とした研修の企画に携わった経験があります。各企業の狙いは、その企業ではシニアの非管理職社員の比率が年々高くなっているものの、昇進・昇格の機会が事実上限定されている等の理由により、仕事に対するモチベーションが上がらない社員が多く、その状況を変えたいといったものでした。

その研修の企画に携わってわかったことは、平均的なシニア層の非管理職の人は自分自身の今後のキャリアに関する明確なビジョンを持っておらず、仕事で新たなチャレンジを試みるよりは、指示された仕事をミス・ロスなくこなし、定年を迎えるまでつつがなく毎日を過ごしたほうが良いといった、受動的な考えの持ち主の割合が高いという事実です。

一方で、一部ですが業務やマネジメント等に関する高い知見をもち、かつ仕事に対するモチベーションが高い人も含まれていました。彼らは何等かの事情により、不運にも管理職としてのキャリアパスから外れてしまった人たちでした。

このように、有能であっても勤務先の事情等により活躍する場を与えられていないシニア人材については、今後のキャリアを検討する際、社内のみならず社外にも目を向ける必要があるのではないかと感じます。

■大企業出身シニア社員の中小企業での活躍事例
現在、多くの中小企業の業績も回復基調にあり、幹部社員の採用についても積極的な企業が増えつつあります。筆者は以前、ある中小企業の経営者から、経理や管理部門を管轄する責任者の斡旋を依頼された際、某大手企業を事実上リストラされたシニア人材をご紹介し、大変喜んでいただいた経験を持っています。

そのシニア人材は、不運にも所属部門が縮小され、リストラを与儀なくされたそうですが、経験豊富な人材であったため、転籍先の中小企業でも時を置かずに活躍し、経理・管理部門の業務改革を実行したことが、経営者から高い評価を得る結果につながったようです。

また別のケースですが、ある中堅商社でも、大手メーカーで早期退職を与儀なくされた人材が活躍しています。その人も以前の勤務先の業績悪化により、早期退職を与儀なくされたそうですが、人材紹介会社経由で現在の勤務先である中堅商社を紹介され、現在は経営管理部門の責任者として、その商社の業績向上に大きく貢献をされています。

このように、大企業の中で活躍する場を失ったシニア人材であっても、社外に目を向ければ、未だ活躍できるケースが少なくありません。よって、シニア人材が今後の自らのキャリアを考える際には、社内のみならず社外での可能性についても、併せて検討することが望ましいと思います。

■望まれる「人材循環型社会」の構築
平均的な日本の大企業は、若手人材の登用という面においては、外資系等と比べた場合、まだ消極的であると言わざるをえません。よって、前述のように若手人材を選抜し、彼らを経営幹部として積極的に登用しようとする企業が出現してきていることは、望ましいことです。

一方で、様々な事情により大企業で活躍する場を与えられていない有能なシニア人材については、今後中小企業が積極的に彼らの雇用の受け皿となるよう、大胆な政策の実施が不可欠だろうと思います。 それにより彼らが持つ「大企業の経営ノウハウ」を中小企業に導入することができるので、中小企業の経営革新や生産性向上に繋がる可能性が拡がります。

よって、行政機関等がより積極的に人材の循環が生まれる基盤創りに参画すれば、今後日本企業全体の活性化が、さらに進むだろうと思います。

【参考記事】
■成否が気になる、三越伊勢丹の「コト消費市場」への参入
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-43.html
■中小企業を宝の山に変える「起業家人材」の活用
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-42.html
■日本のMBAは、本当に「無用の長物」なのか?
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■斎藤佑樹投手は「あの夏の成功体験」を捨て去ることができるのか?
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■「過労死再発防止」で求められる、電通の企業風土改革
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株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 


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