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■地政学リスクからの様子見ムード

最近地政学リスクという言葉が頭にちらついて仕方がありません。
アジア地域の北朝鮮と周辺各国、そして中東のシリアへのアメリカの攻撃などどれを取っても市場原理からかけ離れた力が働いており、最近のマーケット自体が様子見ムードに覆われていると感じます。

■リスクオフにおける強い通貨と弱い通貨

マーケットに様子見ムードが漂っているということは、投資家が売買を積極的におこなわず動きがない様子をあらわします。平常時でいうと、例えば重要経済指標等の発表前や、昨今のような地政学リスクが高まるとそれを警戒して投資家は様子見することになります。

例えば、世界的にリスクに対して回避的(リスクオフ)になってくると、株式が売られて安全な資産への逃避がおこります。すなわち国内債券へのシフトになるわけですが、実はその際通貨の売買に特色がでてきます。以下はそのイメージ図ですが、実は世界全体がリスクオフになると短・中期的に日本円、アメリカドル、ユーロなどが積極的に買われることになるのです。逆に世界全体がリスクに対して積極的(リスクオン)になってくると、債券から株式に流れ、資源国や発展途上国の通貨が買われることになるわけです。

通貨の強さ


■なぜ日本円がリスクオフ通貨として使われるのか?

しかし、なぜリスクオフになると円やドル、ユーロなどが高くなるのでしょうか?特に円はリスク回避通貨とまで言われていますが、そこにはちゃんとしたロジックがあるのです。

感覚的にわかりやすいリスクオンを例に考えてみましょう。
例えば今世界全体がリスクに対して積極的になったとすると、投資家や企業は自身の持っている資金を対外に向けて投資するようになります。安全な地合いは投資家や企業の資金を積極的にさせるのです。そして、実際に海外に投資をする場合、投資家や企業は自身が保有する自国通貨を売却して外貨を得ることになるため、自国の通貨が安くなります。

では、この世界全体の中でどの国の通貨が安くなるのかというと、潤沢な投資資金を保有する投資家や企業を抱えている国になるでしょう。そしてそれが、日本とアメリカなのです。周知のとおり、日本は世界最大の対外純資産保有国、つまり海外資産を世界一保有している国です。そのため、海外リスクが落ち着くと、本国から海外へとお金が出ていくため円安への圧力が高まるわけです。
逆に、世界が投資に対してリスクオフになると自国にお金を戻すために自国通貨を買い戻す動きになり、通貨が高くなります。

もちろん、日本の投資家や企業の投資行動だけでは、一日平均600兆円近くの取引がある為替市場を動かすことはできません。したがって、世界的な円への関与があってはじめて動くことになります。たとえば、インド企業がタイに投資をしようとしたとき、資金調達も流動性がある円やドル市場で調達をするということも関与の一つになるでしょう。流動性をもつ円やドル、ユーロらが、調達通貨として利用されれば、世界がリスクオンかリスクオフかの状況で影響を受けやすくなるのです。


■円とゴールドとリスクオフの関係

実際に円がどれだけリスクオンやリスクオフに関連するのか、実際の数値を使って考えてみましょう。

世界全般がリスクオンモードなのかリスクオフモードなのかを測る先行指標の一つにゴールド(金)市場があります。拙著「外資系金融の英語(中央経済社)」のP111でも少し触れましたが、2012年の欧州債務危機という世界全体がリスクオフモードになり株価を下げた際、ゴールドへの投資に注目が集まりました。

為替はその国の経済や情勢によってその価値が決まるため、価値がなくなる可能性もあるのですが、ゴールドのような実体があるものは価値がなくなることはありません。そして、現在のような地政学リスクが高まる状況のときには、海外経済への投資は控え、代わりに安全なゴールドが買われる傾向にあるのです。

以下グラフ(FREDデータをもとに筆者作成)は、ゴールドとドル円レート動きになります。

円とゴールド


ゴールド価格が上昇(下落)すると円高(安)になるという関係が明確に働いており、その相関は-0.90と逆相関の関係にあることがわかりました。(ちなみにゴールドと日経225の相関は-0.68とこれも比較的高い逆相関があることわかっています。) 
相関係数の数値は1から-1までしかないため、-0.90という数値は円とゴールドの間に非常に高い連動性があることを示唆しています。

ゴールドとの関係からもわかるように、円はリスクオン・オフには密接な関係を持っていると考えることができるのです。

■リスク回避目的の円は変わるのか?

前段までは、日本円がなぜリスクオフ通貨として使われるのか市場原理の側面から説明しましたが、もう一つ違う理由があります。

それは、日本が戦争放棄を宣言している国ということです。

そのため地政学の視点から日本円を「リスク回避目的の円」として考えることも有効でしょう。
しかしながら、昨今の北朝鮮の地政学的リスクを考えると、「戦争はしない国」であっても「巻き込まれやすい国」として扱われた場合、"リスク回避目的の円"というレッテルが消される可能性は否定できません。

その場合、今までとは正反対の「有事で売られる円」が顕著になってくるのかもしれません。

戦争など起こらないことを願うばかりですね。

外資系金融の英語
齋藤浩史・JB SAITO
中央経済社
2016-08-27



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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師


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