数学的コミュニケーション


さっそくですが、学生時代の数学の授業を思い出してみてください。あなたは何をしていたでしょうか。教師の説明を聞いていた。問題を解いていた。こっそり他の教科を勉強していた。居眠りしていた。そんなところでしょうか。

ひとつ重要な事実があります。多くの数学の授業では学生が喋る、つまりコミュニケーションをすることはほとんどなかったという事実です。多くの人はこれを当然と思うでしょう。しかし、誰もが当然と思うことを疑ってみることで新たな視点が生まれたり本質が掴めたりするものです。あくまで一般論ですが。

そこで今回はビジネス数学の専門家として社会人を教育する立場から、「数学の授業」とは本来どうあるべきなのかを述べます。非現実的であることはわかっていながらも、それでも本質的なことを提言します。この記事を通じて、現状の教育現場で行われている数学の授業が少しでも変わることを期待します。

■「雑談力」を身につけた。で、どうなった?
コミュニケーションと聞くと「雑談力」のようなものをイメージする方もいるかもしれません。昨年あたりはこの「雑談」をテーマにした書籍がとてもよく売れたと言われています。そういう意味では、多くのビジネスパーソンの悩みのひとつなのでしょう。

しかし仮に日本のビジネスパーソン全員が「雑談力」を身につけたとして、いったいその後どうなったでしょうか。端的に言えば、それで仕事の成果があがったのかということです。おそらく単にビジネスシーンに雑談が増えただけではないでしょうか。

これは私の考えですが、いくら雑談が上手になってもそれだけでは仕事は変わりません。勝負所で論理的にコミュニケーションをし、相手を納得させ、動かすことができなければ仕事の成果は出ないのです。もちろん「雑談力」は無いよりはあったほうがよいことは認めますが。

■数学=コミュニケーションの訓練
では本題。私の提言は、数学を「コミュニケーションの訓練」と定義して授業をして欲しいということです。つまり数学という素材を使って学生が喋る授業です。たとえば教師ではなく学生が問題を解説する。学生同士で教え合う。問題を作ってクイズ感覚で出題し合って遊ぶ。方法はいくらでもあります。

言うまでもないことですが、数学は数字と論理を使う学問です。数学をコミュニケーションの訓練と定義すれば、当然ながら学生は数字と論理を使ってコミュニケーションをするでしょう。そしてそのためには必然的に数字と論理を使って思考することにもなります。

要するに微分積分の問題を題材にする目的は正解を出すことではなく、そのプロセスを通じて論理的思考と論理的コミュニケーションのスキルを身につけることです。

■自分ではわかっているけれど説明できない症候群
なぜそんな授業を推奨するのか。理由は私が命名する“自分ではわかっているけれど説明できない症候群”にあります。これは大学生への授業でもビジネスパーソンの教育研修でも共通してみられる症状です。文字通り、自分では理解している(あるいはしている気がする)けれど、誰かに説明することができないのです。

たとえばひとつ簡単な例を。「マイナス」と「マイナス」を掛け算したら「プラス」になるという事実はほとんどの方がご存知でしょう。では、なぜ「プラス」になるのかを説明しなさいと言われたら、いったいどう説明しますか。意外に困ってしまう方も多いのではないでしょうか。

おそらくほとんどの方が「人に説明できる=本当に理解した」という考え方には同意いただけるでしょう。また、学校の授業は学生に理解させることも重要な目的です。にもかかわらず、「説明しているのが教師だけ」という授業はなんだかおかしくはないでしょうか。数学的にいえば、明らかな矛盾です。

そしてそんな授業しか受けることができなかった学生は、たとえ「勉強はできる子」だとしても、残念ながら社会に出たら「仕事がデキる人」にはなれません。シーンとした教室で、教師だけが機械的な説明をし、学生は黙って聞いているだけの授業は、このような大人をつくるのです。

■論理的コミュニケーションがどんどん下手になる
ITやAIといったアルファベットが飛び交う時代ですが、ビジネスにおいて生身の人間のコミュニケーションが最重要という事実に疑う余地はありません。

ところが昨今の新入社員は電話応対の経験がほとんどなく、現場に出てからも慣れずに苦労することが多いと聞きます。SNSなどでほとんどのコミュニケーションを「単語」や「絵」だけで済ませている彼らは、ごく普通のビジネスメールにおける論理的な伝え方も難しく感じるようです。

ましてこれからはロジカルな海外のビジネスパーソンとも当たり前のように対話をする時代。このままかつてと同じ教育をしていては、論理的コミュニケーションが下手な日本のビジネスパーソンが増える一方です。

■数学的コミュニケーションの時代
まとめます。多くの人は数学を計算や問題解決の学問と認識していますが、それを疑うことで「これからの時代」という観点で考えたときの本質が見えてきます。これからは間違いなく「数学的コミュニケーション」の時代です。きちんと筋道を立てて説明することで相手を納得させる能力がより重要になります。

そしてどう考えても、この能力を身につける場は学生時代の数学の授業です。ですから私はいま全国の学校で行われている数学の授業において、少しずつでも学生の会話やプレゼンテーションが増えることを期待します。

学生が「説明する面白さ」や「相手が理解してくれた喜び」を感じられる授業、学生同士の対話から「なるほどね」がたくさん生まれる授業をぜひお願いします。言うまでもなく、主役は教師ではなく学生なのですから。


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深沢真太郎 ビジネス数学の専門家/教育コンサルタント


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