英語教育
小中学校の英語教育改訂が2020年に迫っている。小学3~4年生に外国語活動が導入されるほか、5~6年生では英語が教科となり成績のつく授業が始まる。中学では英語の授業が英語で行われるのが原則となる。小中学校における英語教育の変化と低年齢化は着々と進んでいるようにみえるが、子どもというのは必ずしも「大人の事情」のとおりにはならない。

■『外国語』は嫌いな教科『第4位』
実は残念な結果がある。小中学生を対象に行ったある調査で、『外国語』が好きな教科TOP5には入らず、嫌いな教科の第4位にランクインしてしまったのである。(※1)

一方で保護者の英語教育熱は高まっている。2016年8月に実施された調査では『今後習わせたい習い事ランキング』の第1位が「英語・英会話」。理由としてあげられたコメントのなかには東京2020オリンピック・パラリンピック開催を見据えた回答も含まれ「(開催時に)ボランティアでもなんらかの社会貢献をしてほしい。」「東京オリンピックで、選手が自宅近くのホテルに滞在するかもと聞いたので」などがあった。(※2)

東京2020オリンピック・パラリンピック開催が日本における英語教育熱に一定の影響を与えていることは間違いないようだが、これを良いきっかけとし、子どもに英語への関心を持ってもらうにはひと工夫が必要なようだ。東京2020オリンピック・パラリンピック開催と同年にやって来る英語教育改訂。弾みをつけるにはどうしたらよいのだろうか。

■「オリンピックの精神を英語で学ぶ」という特別授業
そんな状況下の2017年2月、東京都内の公立小学校と公立中学校で「オリンピック精神を英語で学ぼう」という特別授業が行われた。

授業は東京都教育庁が実施する『東京都オリンピック・パラリンピック教育推進支援事業』の一環。授業内容は、小中学校ともに2時間で五輪のマークが持つ意味について講師からレクチャーを受け、その後、自分たちなりに解釈した新しい五輪マークをデザインし全員の前でプレゼンテーションする、というものである。

中学校では講義・プレゼンテーションともに9割以上が英語で行われ、小学校では日本語で講義を受けたのち講師に習い英語で発話、プレゼンテーションは冒頭のみを英語で行い日本語で補足説明を行った。

この特別授業で目指したゴールは主に次の6つに集約される。

(1) 『オリンピック』の精神について知ること
(2) 「英語を学ぶ」ではなく「英語で学ぶ」経験をすること
(3) 「新しい五輪マークをデザインせよ」というミッションのもと、積極的に五輪の意義を考えること。
(4) グループワークにより役割分担能力や参加意識を高めること
(5) プレゼンテーションのための構成を考えること
(6) 全員に聞こえるような大きな声で英語を話し、拍手やコメントをもらう成功体験をすること

八王子市立別所中学校で行われた特別授業では、ネイティブ講師に助言をもらいながらグループでのディスカッションを行った。その後、自分たちのデザインした五輪マークとその意味をプレゼンテーションする。プレゼンにあたっては講師からシンプルなテンプレートが配られたが、中学生の英語力で十分に意思が通じていた。

一方、昭島市立玉川小学校で6年生を対象に行われた授業でも、グループディスカッションを中心に授業が行われた。アイデアを出す児童、時間配分を気にする生徒、班員に意見を求める生徒などの役割分担ができたようだ。

プレゼンテーションの冒頭は“Hello”の挨拶から。講師に与えられた構文に単語をあてはめて日英混合の発表をし、最後は“Thank you”で締めるというルールに基づき、前グループが独創的なプレゼンを行った。

■授業の成果と課題
では、この授業を受けた生徒たちと、見守っていた先生たちの感想を紹介しよう。

まず、別所中学校の生徒たちからは「オリンピックという世界共通のものなら、英語がわからなくてもある程度話せました。」「新鮮でした。」といった感想のほか「東京2020オリンピックは、今の私たちが作り上げていくものだと思っています。私たちがどうつくりあげていくかによって未来が決まるというのも過言ではないと感じました。」という意見が寄せられた。

また、同中学校で導入を担当した内野美佳教諭は次のように語った。「日頃、英語が苦手な子が多く、人見知りする子も多いと感じていました。(生徒たちの様子は)今日は普段と全然違いました。オリンピック・パラリンピックに興味を持っている子も多いので、そのテーマを通じて英語に触れ、親しむ機会になったのではないかと思います。」

一方、玉川小学校では次のようなフィードバックが寄せられた。

(岡田教諭)
「ネイティブの先生から『あなたはどう思う?』と尋ねられたり、“Because~”を使って自分の考えを述べる大切さについて話してくれたことは、子どもたちにとって新しい文化を知ることになりました。世界ではもちろん、日本でもこういった側面が求められていると思いますから、オリンピックを通して教われたことは収穫だったと思います。」

(山田教諭)
「(子供達は)最初は緊張していましたが、グループワークに移ってからはどんどん打ち解けていったと感じました。今日の学びはコミュニケーションと、オリンピック精神の中にもある『友情』や『リスペクト』などを知ったことだと思います。授業が終わったあと、『リスペクト!』と言って子どもたちがはしゃいでいましたから。」

中学校においては英語を話すハードルを下げられたという効果、小学校においてはコミュニケーションのなかで自分の意見を持つ経験をしたという効果が、それぞれ見られたようだ。

さて、これからの課題についても考えてみたい。この日の体験はわずか2時間で、普段と違う新鮮な体験でもある。成績がつく授業ではないから、気軽にゲーム感覚で楽しめたとも言える。

しかし、2020年以降、小学校5・6年生の英語は教科化され評価するようになる。中学生は英語で英語の授業を受けるようになる。今回のような授業は生徒にとって関心を持ちやすく、今後の英語教育のヒントになるものではあったが、類似の授業を取り入れていく場合に成績をどう評価するかは慎重さが求められるとも感じた。

授業風景から見えたのは、生徒の個性がバラバラだということだ。プレゼンテーションで臆せず大きな声を出すのが得意な子もいれば、単語力に長けている子もいる。創造力たくましい子も、リーダーシップを発揮できる子もいる。もちろん英語の授業だと考えれば、成績は純粋に英語習得度合に帰結するのであろうが、もう少し目を見開いて『グローバル人材教育』という観点でとらえると、英語スキルだけに頼った成績表ではもったいないような気もする。

改めて、グローバル人材教育という視点からの外国語教育について議論が深まることを願う。

(※1)実施元:アデコ株式会社。全国の小中学生の子を持つ父母1,000人とその子ども1,000人[男女各500人]を対象に2015年11月に実施。
(※2)実施元:『ケイコとマナブ.net』「今後、 習わせたい習い事ランキング」
首都圏1都3県で小学生以下の子どもを習い事に通わせている927人[未就学児の母:309人、小学校低学年の母:309人、小学校高学年の母:309人]を対象について2016年8月にアンケート調査。

《参考記事》
■アメリカの教育は「グレイト」になれるか(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/50551231-20170130.html
■海外のエリート大学は日本人留学生に何を求めているのか?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49667506-20160930.html
■イギリスのEU離脱で日本人留学生が受ける影響とは(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/48926676-20160624.html
■東京五輪で日本のカイロプラクターが世界を支える。ある若きカイロプラクターのオーストラリア留学とは?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2017/02/02/chiropractic/
■アクティブラーニングは中高英語教育をどう変える?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2016/10/11/activelearning/

若松千枝加 留学ジャーナリスト


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