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新しいビジネスモデルを考えたいー。そういった相談を時折受ける。本業が安定している先、早急に新しい収益基盤を創る必要がある先などさまざまだが、おおよそ、すでに何らかのアイデアのブループリントがある。サービス業に限定されるが、その精度をブラッシュアップするために、伝えていることのうち、「投入する市場」と「ビジネス個別の要件」についてご紹介したい。


■ビジネスを投入する市場について
投入先となる市場について注意しているポイントのうち、特に重要なのが「タイミング」、「プレイヤーの密度」そして、「撤退」の3つだ。これらはどのようなビジネスであっても該当するはずだ。

1つめのタイミングは、まったく新たな手法ではなく、流行しているものをそのまま模倣するときに特に関係する。その追随を否定しているのではなく、まだ十分間に合うかどうか、である。当然、市場が拡大傾向にあるという理由だけで参入するのはあまりお勧めできない。

適切なタイミングを推し量る指標の1つとして、「二次情報の出現」がある。新聞やテレビの情報番組などで取り上げられた時点のことで、これを参入の起点とする場合、準備とその浸透にかかる時間分、さらに遅れることを覚悟しなければならない。無論、商材やサービスのカテゴリーによっては、需要が散在し、また頻繁にプレイヤーが入れ替わるものもあり、必ずしも当てはまらないこともある。それは後発での遅れが障害にならない差別化要素の有無がその成否を分ける。

2つめは、その市場における「プレイヤーの密度」だ。大きく分けて、大資本による寡占化が形成されている場合と、中小資本によってひしめき合っているところがある。選んでもらいたいのは後者だ。IT系や飲食、理美容、人材系、介護、最近ならアフタースクールなどが比較的当てはまる。もちろん、競争の容易さを示しているのではない。あくまで参入のしやすさと一定規模の獲得のしやすさの指標の1つに過ぎないが、次に挙げる撤退の容易さを確保しておくためにも、大掛かりな投資を必要とする先は予め避けておきたい。

3つめは、意外に思われるかもしれないが、市場からの「撤退」である。参入と合わせ、撤退イメージも検討することをお薦めしている。

業種、業態によっては撤退しづらいものが確実に存在する。つまり、余分なコストが要求されるビジネスだ。無論、参入形態にもよるが、いずれにせよ、ビジネスの大半は残念ながら失敗する運命にある。そのとき、ソフトランディングできるかどうか。時間を空けて再度挑めるよう、余力を残しておくため、そして本業への影響を極力抑えるためである。

撤退の容易性を推し量る指標として、財務諸表のバランスシート(貸借対照表)がある。計画時、損益計算書だけではなく、予測貸借対照表をできるだけ精緻に作成しておくことで、おおよそ撤退時のダメージを掴んでおくことが可能になる。

■ビジネス個別の要件
個別のビジネスアイデアには、取引、仕組み、そして構築・運用の3つの側面がある。

まず、取引。その規模の大小に気を取られがちだが、単位において「連続性」と「収益性」の2つが備わっているかどうかが事業の継続性確保に欠かせない。

連続性とは、取引発生間隔とも換言できる。1つの取引があって、その次が発生するまでの期間がどれくらい空くかだ。ITや建設関係などは長く、小売業や理美容業界など日用的なものは比較的短い。単純に短期間が良く、その逆が悪いということではなく、「意図された」「計画された」ものであるかどうか、そして予実の差を十分想定できるか、ここが重要になる。

収益性とは、単位取引においてどれだけ利益が生み出せるか、だ。ビジネス全体で必要とされる利益を構成する最小単位であり、当初から一定期間またはある程度まとまった取引の中で採算を取ろうと考えるのはお勧めできない。1取引がきちんと全体のペイラインに貢献するものかどうか。一時的な割引などは、あくまで限定的で、かつ意図的でなければならない。

2つめの仕組みでは、「整合性」「非属人性」そして、競合との「差別化」の3つである。整合性は、その仕組みの業務フローを指す。よく起こりがちなのが、業務間の情報伝達における重複。違う業務で同じようなデータを生成することで、いわゆる「シャドーコスト」の温床となってしまう。

非属人性と競合との差別化については、文字通りだ。とくに「属人的」な活動は、マニュアルを導入しにくい知的集約型に起こりやすく、比較的定型化可能な労働集約でも能力差や経験差によるバラツキが生まれてしまうことがある。完全に排除することは難しいが、取引発生期間と同様、予め想定しておけるかどうかで後々大きな差が生まれる。

3つめの構築・運用については、その「実現可能性」と「継続性」が問われる。意外にも運用面の優先順位が低く見積もられているケースがある。構築はある程度まで力技で推し進めることも可能だが、運用面では「人手」や「追加コスト」など時間の経過とともに、ビジネスの根幹を揺るがしかねないリスクが潜む。仕組みとして申し分なく、十分に利益を獲得できるものと確信できたら、ぜひ継続性も同時に検討しておきたい。

■時間の省略化を図るために
新しいビジネスについて、その市場と個別のチェックポイントについて紹介してきた。これらを詳細に確認し、アイデアに加筆修正することがもちろん正攻法だが、とにかく時間と手間がかかる。そうこうしているうちに、陳腐化してしまうかもしれない。

そこでお薦めしたいのが、成功事例の「パーツの転用」だ。成功済の、一般に十分定着しているビジネスを部分的に借用してしまう。これであれば、その部分の機能検証を省略することができる。もちろん、さきほど述べた「市場」に関する確認は省略できないが、少なくとも、ビジネス個別の性能についてある程度保証を得ることができる。

わかりやすい例でいけば、近年ブーム化している「マッチング」がある。人材紹介やクラウドを利用したスポットビジネスなどはもはや成熟期に突入している。クラウドを使い、フリーランス向けにそういったことを展開する余地はさすがになさそうだが、マッチングという機能だけを抜き出し、別のビジネスに転用することはまだまだ可能だ。

例えば、「広告枠」と「広告主」のマッチングというビジネスがある。実際にある例だ。ほかにも、Uberに対抗して始まったタクシーアプリなども、乗りたい人とタクシーを結びつけた例だ。この発展版として、現在検討されている「相乗り」なども同様に「マッチング」だ。

マッチングという機能が使われている事例には事欠かない。つまり、ビジネスのパーツとして、もう十分に「枯れ」ている。あとは、「何」と「何」を結びつけるか、その要件だけに焦点を絞って考えることができる。パーツの転用には、発想から実行までの時間短縮を見込める大きな利点がある。

なお、こういった成功済のパーツの転用については、中小企業向けに使えるものをまとめた下記の拙著を参照して頂ければ幸いである。




【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/six-view-point-new-business-model/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/japanet-style-in-real-estate-business/
■【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表



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