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この4月から、新しい環境で過ごしている方も多いのではないでしょうか。そこで出会った新しい人間関係に、いらいらしたり悩んだりしている人も少なからずいらっしゃると思います。

昨年末にドラマ化して大ヒットした漫画、「逃げるは恥だが役に立つ(以下、「逃げ恥」)に照らしながら、人間関係を築く上での注意点について考えていきたいと思います。

■「逃げ恥」とはどんな物語?
「逃げ恥」をご存知ない方のために、まず簡単にあら筋をご紹介しましょう。(原作漫画とドラマは設定が異なる部分がありますが、ここでは漫画をもとに紹介します)

この作品は、「社会派ラブコメディ」と言われ、雇用や性差別といった、今の日本が抱える問題をあぶりだした点が話題になりました。ドラマが終了したのは昨年末でしたが、漫画ではこの3月に発刊された単行本の9巻をもって完了しています。

主人公は、「みくり」という大学院を卒業したばかりの女性です。就活に失敗し、派遣切りにもあったことから、やむを得ず家事代行業をスタート。そのクライアントとして、35歳の会社員、「平匡さん」と出会います。実家の事情から、みくりは住むところがなくなり、平匡さんと「契約結婚」という形態をとって、同居することになります。

物語では、同居するうちに、二人の間に恋が芽生え、本当の意味での「結婚」に至る過程が描かれています。さらに、未婚でキャリアウーマンの、みくりの伯母である「百合ちゃん」と、平匡さんの会社の後輩の「風見さん」の年の差カップルの話が絡んでいきます。

■ステレオタイプな人物描写を避けた「逃げ恥」
連載終了を機に、エンタメ情報ウェブサイトの「otocoto」で、原作者である海野つなみ氏へのインタビューが掲載されました。ここで、海野氏は「登場人物への色メガネを外したかった」と語っています。

「実際私たちの周りをみると、みくりちゃんのように高学歴だけど就職できない人や、百合ちゃんのように50代ですごく仕事も出来てキレイなのに独身という人がたくさんいます。でもそういう人が漫画で登場すると、百合ちゃんなら“お局キャラ”になっていたり、もしくは自虐的にやけ酒を飲んでいるとか、そういう「キャラ立ち」をさせてしまうし、色メガネを通して描かれることが多かったように思います。でも実際にそういう人たちは、もっと幸せに生きていると思ったし、みんな普通の人たちなのに、どうしてこの人たちが主人公として描かれないのかが不思議だったんです。」
(『逃げ恥』原作者・海野つなみインタビュー【前編】 「otocoto」2017/3/17)


もともと、海野氏は、百合ちゃんをここまで主要な人物とするつもりはなかったそうです。ところが、連載中に人気が予想以上に高まったため、登場の頻度が多くなったとのこと。海野氏いわく「下剋上キャラ」になったと、ラジオ番組のインタビューで語られていました。

主人公みくりの雇用主にして契約夫の平匡さんは、IT企業に勤め、恋愛経験はありません。しかしそうした人粒にありがちな、身なりやインテリアにこだわりのない「オタク」ではなく、「仕事もできそうだし見た目も悪くない」人物で、キレイ好きで家の中も整理されたキャラクターとして描かれていました。

この漫画が人気を博した理由の一つが、登場人物たちのステレオタイプに陥らない人物造形にあったように思います。裏を返せば、世の人々はそれだけ、自分に対して貼られるレッテルに、嫌な思いや反発を抱いているのではないでしょうか。レッテルを貼ってきた相手と良好な人間関係を築くのは、言うまでもなく難しいことです。

■相手への固定観念が人間関係に影響する
「逃げ恥」は、登場人物たちがお互いに抱いた固定観念が、人間関係に以下に影響するかも描いています。

平匡さんは、女性に対し強い先入観を持った人物です。「若い女性は自分なんかに興味を抱くことはないだろう」「若い女性は、風見さんのようなイケメンに好意を持つに違いない」と考えています。

諸々の事情から、平匡より11歳年下のみくりは風見の家にも家事代行に通うことになります。平匡は、風見への嫉妬を覚え、さらに契約夫が乗り換えられるのではという不安を覚えます。そしてそれをみくりに悟られまいとして、必要以上にそっけない態度をとるようになるのです。

一方、徐々に平匡に対して恋愛感情を抱くようになったみくりは、彼のその態度を見て、「二人の距離が縮まったと思ったのは自分の勘違いだったのか?」と、また不安に駆られるようになります。

読者からすると、こうした二人のすれ違いにやきもきするのも楽しみの一つですが、もしこれが現実で当事者であったら、なかなか辛い状況です。

みくりは、平匡さんの心理状態もある程度は理解できることもあって、根気よく関係をよくするための努力を重ねます。しかし、あまりにそれが相手に届かないように思えたため、途中でそうした努力を放棄することを決意します。みくり自身もまた、自分の壁に閉じこもろうとしたのです。

漫画では、平匡さんがうっかり思いがけない行動に出たことをきっかけに、二人の距離は縮まるのですが、現実にはそううまくいくとは限りません。お互いが自分の壁に閉じこもったままという危険性も大いにありうるでしょう。

■相手への判断は、事実に基づいているか?
では、自分の持つ先入観や固定観念を脱却して、良好な人間関係を築くには、どうしたらよいのでしょうか?それには、まず相手に対し、その「属性」からではなく、個人の言動に基づいて判断しているかを検証する習慣をつける必要があると考えています。

相手に対し、先入観や偏見といった固定観念を持つのは、人間としては自然なことです。大量の情報を効率的に処理してスピーディーな判断をするため、過去の経験から固定観念を持つように脳は機能していると言われます。問題は、それが事実を見る目を曇らせ、判断をゆがめてしまうことです。

平匡さんの同僚である風見さんは、当初、百合ちゃんから「イケメンだから性格が悪い」と警戒されていました。

百合ちゃんの風見さんに対する感情は、以下のようなメカニズムで形成されています。
「過去に出会った顔のいい男は性格が悪かった」→「イケメンは、すべて『性格が悪い』」→「イケメンの風見さんは性格が悪いから警戒する必要がある」

百合ちゃんが、全世界のイケメンに会ったことがあるというのならともかく、「イケメンは全員が性格が悪い」というのは解釈を拡大しすぎです。たとえ、かつて出会ったイケメンが全員、性格が悪かったとしても、風見さんにもそれが当てはまるかというと、必ずしもそうは言い切れません。百合ちゃんの評価は、理不尽なものと言えるでしょう。

百合ちゃんは、風見さんの言動を目にするうちに、自分の理不尽さに気づきます。みくり夫婦や風見さんらといちご狩りに出かけた際、ドライバーの百合ちゃんに気を使って起きていてくれたのは風見さんでした。彼女が自宅の鍵を落とした時に親身になって探してくれたのも風見さんでした。決して嫌なやつではなかったのです。

風見さんがいつでも誠実であったことに気づいたのち、百合ちゃんは彼のことを評して「あなたのような男性は嫌いだけど、あなたのことは嫌いじゃない」と語ります。この言葉は、まさに属性から個人に観方そのものが変化したことがうかがえます。

もし、いまあなたが嫌な感情を抱いた相手がいるのであれば、その感情は、相手のどんな言動に基づいているのか、客観的事実をあげて検証してみてください。また、それが事実に基づいたものとしても、根拠として挙げた事実が、否定的なもの、肯定的なもののバランスがとれているか、注意が必要です。

■自分に対する「偏見」を乗り越える物語~百合ちゃんの場合
無意識の先入観は、他人に対して抱くものとは限りません。自分自身に対する先入観もあり、それは知らず知らずのうちに、自らの行動を限定してしまいます。そういった意味では「呪い」のようなものと言えるでしょう。

百合ちゃんは、自分の年齢への思い込みが、人生の新しいステージに進む妨げとなっていました。
飲み友達になった風見さんから、女性として意識していることを告白され、最初はこれを拒否します。理由は年の差でした。「閉経した処女がどんな顔して年下イケメンとつきあえばいいの?」という言葉から、自分の方が25歳年上ということに引け目を感じていることがわかります。

しかし、風見さんに思いを寄せる別の若い女性が、女性は年を取ると価値が下がるといったたぐいの発言をするのを聞いて、はっとします。自分自身にも年齢を重ねることに否定的な思いがあり、その思いが、風見さんへの自分の気持ちに向き合うことを妨げていたことに気づいたのです。

■無意識のバイアスに気づくことが自分を解放する第一歩
繰り返しになりますが、無意識のバイアス自体は誰もが持っています。それを否定してはいません。
ただ、もし、自分のバイアスが、良好な人間関係を築くハードルになっていたり、自身の行動を縛っているとしたら、そこから脱却することを考えたほうが良いかと思います。その第一歩になるのが、自分がどんなバイアスを持っていて、それが日々の判断にどう影響するかについて、自覚的になることなのです。

「逃げ恥」の物語は、そんなことを私たちに伝えてくれたのだなと、最終巻を読んで改めて感じています。

■ドラマ「逃げ恥」の主人公がキュレーションサイトのライターになったなら
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朝生容子/キャリアコンサルタント・産業カウンセラー


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