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かつては聞きなれなかった「ママ起業」に関する話題を目にすることが増えてきた。

日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」によれば、女性の起業家の割合は過去20年間およそ12%~15%で推移している。

筆者も県や市の起業相談員を務めたことがあり、そこでも多くの女性起業家の事例を見聞きしてきた。

■ママ起業とは
結婚・出産を機に企業を退職した女性が、忙しい家事と育児の合間に仕事をしたいと考えたとき、そこには時間的な制約が立ちはだかる。

日常の家事と育児に加えて、子供が病気になったりしたときには、女性の側のみに負担がかかってしまいがちなのが現状である。職場に迷惑がかかることを考えると、育児中の女性は企業にはなかなか就職出来ない。

そこで、自分の自由なスタイルで仕事ができる(と思われる)自営業を選択することになり、これがいわゆる「ママ起業」である。

ママ起業というと首都圏の比較的若い女性に多そうな華やかなイメージかもしれないが、実際には地方であっても多くの事例が見られる。

5〜6年前まではあまり知られていなかったママ起業が現在ほど認知されたのには、FacebookなどのSNSの普及が情報拡散の面で一役買っているといえよう。

■ママ起業にはどんな業種が多いのか
ママ起業の業種としては、大きな設備投資が伴うようなものは少なく、アイデアや個人のスキルを活用した小規模なものが多い。

首都圏の場合であれば、企業やビジネスマンに対するサービスや研修の講師をつとめる提案が多く見られるが、地方ではそれらのマーケットが小さくなかなか成立しづらい。

そのため地方のママ起業は、以下のような業種が多い。
①人間関係、健康、結婚、出産、子育てなど、かつて自らも悩んできたことを解決するためのサービス業など。
②女性のための起業支援・研修・資格教室などの提案。
③健康、美容、おしゃれに関わる仕事。

ちなみに筆者は、積極的にママ起業を勧めるものではなく、むしろ安易な起業は避けるべきだと考えている。商売はそれほどに厳しいわけだが、あえてチャレンジする方がいるのであれば、それを収益化するための考察をしてみたい。

■ママ起業家の経営相談先
実際に地方のママ起業家で自分自身の結婚前の収入程度の収益を挙げている事例はまだまだ少ない。

会社員としての経験はあるものの、自営業者としての経験はほとんど無いに等しいママ起業家たちが、事業の収益化に悩んだときに相談する先には様々なものがある。
・市町の担当課や商工会議所の相談員
・士業とかコンサルタント
・先輩ママ起業家
・経営者

どの相談相手にも当然ながら一長一短ある上に、相談員個人の能力差も大きい。波長が合い、携わる業種の収益化に明るい方にたまたま当たればラッキーだろうが、そういうケースは希だ。

では本気で収益化しようと考えるママ起業家としては、どのようなところに相談するのが最適なのだろうか。

■ママ起業家の事業計画
ところで筆者が起業相談を受けていて感じたことは、ママ起業家には数値的な目標をもたない人が多い。「お金は困らない程度あればいいんです」という言葉も何度も聞いた。

その「困らない程度」が、数値として一体いくらなのか決めなければならない。経営計画では、“どの期間に何をいくつ売りたいのか”を決めないと、投資計画も経費計画も組めないのだが、実際には商品やサービスのブラッシュアップに対する細かい相談が、起業相談のほとんどを占める。

簡単な例として、年間に100万円の手取り収入が欲しいママ起業家がいたとして、大まかな数値目標を立ててみるとする。細かい条件は全て概算とする。

・年間に100万円の手取り収入が欲しい。
・ということは税引き前所得で105万円が必要。
・広告費や交通費、通信費などで年間50万円の経費がかかる。
・1回の客単価@5000円のサービスを提供していて、材料などの原価率は20%(粗利益率80%)である。

ざっくりではあるが以上のような条件だとすると、このママ起業家は(所得105万円+経費50万円)÷80%=約194万円/年間の売り上げが必要であることがわかる。

では、このママ起業家は数量としてどれだけのサービスを販売できればいいのか。

・年間194万円を売り上げるには、194万円÷@5000円=延388個の販売。一ヶ月に約32個。
・このママ起業家は、10名に説明(商談)すれば2人が購入してくれる営業力だと仮定する。
・このサービスは、購入した10人のうち5人が1年以内にリピートしてくれる商品力だと仮定する。
・上記の条件から、もし年間に1293人と商談ができれば、その内259人が購入してくれて、さらにその内の130人がリピートしてくれるので、延388個の販売となる。
・年間1293人との商談ということは、1ヶ月に107人との商談が必要。
・1ヶ月に20日間仕事をするとして、1日に商談するノルマは5名強。

紙面の都合上乱暴な計算だが、この「1日に5名強と商談できる集客が可能か」「月に32個売るだけのオペレーションが構築できるか」という点がクリアできなければ、商品やサービスの細部をいくら一所懸命に磨いても、この計画の良否の判断はできないことになる。

あるいはそれだけの仕事量で100万円を稼ぐことが、いくら自由が利くからといって果たして会社勤めよりも自分と家族にとって価値があるのかも判断しなければならない。

なお、2年目からのリピート率など、経営に重要なその他の周辺問題はここでは考慮しない。

■ママ起業家が相談すべき相手
さて、具体的な数値目標を立てられたら、それを記載した事業計画を作成して金融機関へ持ち込みたい。

事業計画書の雛形はウェブ上にいくらでもあるし、相談する金融機関は普段から積立預金や住宅ローンを組んでいる地元の信用金庫などでいい。

事業計画の中には、開業時の資金計画が盛り込まれる。例えば自己資金50万円と、融資で調達した200万円で事業を開始するとして、相談相手の金融機関は、200万円の融資を検討するリアルな利害関係者である。先に出てきたような公共の相談窓口や先輩起業家は、そのような利害関係者ではない。

住宅ローンなどで従来から付き合いのある金融機関なら、少なくとも門前払いにあう事はなかろう。だが事業の成否に対しては、プロの厳しい目で見てくれるはずである。返済のために必要な収益がいくらで、月々のキャッシュフロー、担保や保証人など、よりリアルに事業リスクを検討できるだろう。

■本物のユーザーの声を聴く
さらには、金融機関に相談に行く前に、できればユーザーの声を拾っておくと良い。借り入れなどせずにさらに小さく事業のスタートを切りたい場合も同様である。

ユーザーは単なる相談相手と違って、実際にお金を出して商品やサービスを買う人達である。もっとも有益な情報をもたらしてくれる人達であるが、ここでひとつ注意しなければならないのが、「ユーザー候補」と「本物のユーザー」との混同である。

本物のユーザーの声を聞くことは、実際にお金を払ってもらった人の厳しい意見である。おざなりな感想を聞くだけのリサーチとはそこが根本的に異なる点であり、商品やサービスの見直しの材料になり得る。

また実際に売ることで、経営計画によりリアリティを持たせることができる。

例えば10人に声をかけたらそのうちの2人が設定した価格で買ってくれた、という場合には、そのデータをもとに前述のような販売計画を立て、販促費や広告宣伝費を経費として事業計画に盛り込めばいい。

■ママ起業家の活躍
起業は、そして経営はそんなに甘くない。そもそも収入がゼロになるどころか、マイナスになるケースだって高い確率で起こり得る。

それでもチャレンジする場合には、ぜひ撤退すべきラインをきっちり定めた上で取り組んでいただきたい。

しかし一部には、ママ起業から育てた事業が花開き、立派な企業へと育った例もこれまでいくつも見てきている。それでママ起業家の家族やまわりの人が幸福になれば結構なことだし、もしそこに雇用と納税が生まれれば、社会にとっても素晴らしいことだろう。

《参考記事》
■ドラマ「家売るオンナ」の三軒家万智にも売れない これからの地方の中古住宅 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49574910-20160919.html
■ポストSMAP争奪戦から考える 企業の価値創造 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49970392-20161110.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■「チェーン店の地方出店にはFC制導入を義務化してしまえ」という暴論をまじめに書いてみる (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49736835-20161010.html
■映画「LA LA LAND」に見る、夢の実現と経済的成功(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/50853160-20170314.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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