接客

キレる中高年などで話題になるクレーマーはあらゆる場面、あらゆる産業で対応が必要な問題です。接客講座など従業員教育は対症療法でしかなく、本質的な対応が必要ですが、しかしその最大の壁として立ちふさがるのは身内です。特に現場から離れた経営層に大きな課題があります。

■お客様は神様ではない
サービス・小売業界はじめ、今企業の幹部クラスにいる多くが中高年であり、昭和の接客教育を受けた人です。私は新卒で流通業界に入りましたが、事務職だったため、志願してわざわざ店舗研修に行きました。そこで学んだ接客の教えは、昭和のサービス業の基本だったと思います。

「店はお客様のためにある」
この言葉は当時のチェーンストアのほとんどが社訓や教育で取り入れていました。また店舗では毎日こうした言葉の唱和を義務付ける企業も多数見かけました。しかしヒネクレていた私は「お客さんのためにあるなら、タダで商品をあげるのか?」と反発を感じたのを覚えています。

後に教育担当になった時には、フレンドリーサービス(店舗4原則などとよばれるものの一つで接客の理念)研修で、この言葉を繰り返し教える側になりました。あくまでその精神的理念であって、当然「お客様のため」はお客さんのいいなりになるという意味ではありません。お客様が神様でないことは誰が見ても明らかです。しかし理念と実践の間にはぽっかりと空間がありました。責任を取る人がいないのです。

■クレーマーは客ではない
商品や接客上のトラブルは必ずあるもので、これをゼロにするということは科学的にあり得ないゼロリスク幻想です。よりトラブルを減らす努力は企業として常に心掛ける必要があるのは当然です。しかしその責任の第一は経営者にあって、現場のスタッフではありません。先の教育研修のように、現場が会社の指示に従って動くことを求められる以上、基本方針を決められるのは会社=経営陣ということになります。

現場スタッフが何も考えなくて良いという意味でもちろんありませんが、運用の実効を図るのはまず第一に経営責任です。多くの場合、なぜか責任ごと現場に丸投げされている実態が多いのですが、こうした意思決定と責任分担と報酬のバランスが取れていません。サービス業の低い労働生産性と、その結果の低待遇という悪循環の原因は、こうした経営責任の現場丸投げが一因と考えます。

等しくすべてのお客様にサービスを提供したいという理念はもちろん間違いではありません。ただし、クレーマーのような威力による業務を妨害するような行為は犯罪であって、客ではありません。犯罪者とお客には明確な線一が引かれるべきです。この線引きがきちんとできていないことがクレーマー対処の最大の問題です。

線引き自体はシンプルです。「対価に合わない商売はしない」ことに尽きます。高価な対価の製品やサービスにおいて、高度な接客や特別サービスを付加するのは理にかないます。しかし対価以上の理不尽な要求を求めるクレーマーに、スタッフを屈服させるようなことは会社が防ぎ、守らなければなりません。クレーマー対処を誤ることによる重大な損害を、もっと経営者は真剣に考えるべきでしょう。


■対価に合う商売、合わない商売
接客などの業務に就く以上、シンプルにモノや代金を受け渡すだけであればもはや人は不要です。ネット通販で済んでしまう商売では、販売員を完全に不要にしました。店頭にジワジワと広がっているペッパーなど接客ロボットは、これから確実に販売スタッフの仕事を収奪していくでしょう。ロボットなら外国語もできるし、無限の記憶容量があり、機器操作ができるお客に関しては限りなくそのニーズに応えられる以上、「対価に合う」ものであり、接客ロボットへの投資は増えることはあっても減るとは考えられません。

これに対し、高級店など対人接客を売り物にする商売であれば、重厚で行き届いたサービスの対価としての高価格プライシングになります。ハイペイ・ハイサービスは理にかなった経営方針ですから、こうしたサービス形態は当然生き残りますが、もちろん対象顧客は世間一般ではありません。それだけの高い価格を支払える高所得者だけが対象となります。そこまで付加価値に対価を払えない客層には、接客ロボットはきわめて現実的ソリューションとなってきました。ローペイ・ローサービスも同様に理にかなっています。

問題はローペイなのにハイサービスを要求するクレーマー対応です。その商売における単価・利益で、提供できるサービスは自ずと決まります。しかしそれ以上のサービスを勝手に求める客に応えてしまう限り、店がクレーマーを育てることにつながってしまいます。

「どんな人もお客」ではありません。設定した対価を適正に支払ってくれる人がお客です。カネさえ払えば何をやっても、言っても良いというのは「適正に」払ったことになりませんから、お客ではないのです。


■従業員教育のアップデート
私は「謝罪の専門家」として(本当はコミュニケーションの専門家なのですが)企業研修をすることが増えていますが、従前の接遇研修は根本的な考え方を変えなければならない今の環境を説明しています。価格と利益を指標として「すべきこと・すべきでないこと」の線を引くことは決して難しくありません。かつての価値観とは違った社会にすでになっていることを、経営者がまず認識し、その上で従業員教育もアップデートしなければなりません。

かつての「お客様のため」教育では全く適合できず、そのツケはスタッフ疲弊を通じて、企業利益を減損します。クレーマーは「上を出せ」「責任者、社長を出せ」と要求をエスカレートさせますが、こんな手に易々と乗ってしまい、「上」が謝ってしまうという最悪の結末を迎える限り、その企業は環境適合が出来ていないのです。

迷惑客は客ではなく、ただのクレーマーです。トラブルが起こった際に、とにかく現場スタッフが謝るとか叱るような思考停止接遇はやめなければなりません。それはクレーマーの大勝利です。お客ではないクレーマーを育て、大事な従業員を疲弊させ、退職に追い込むようなバカなまねをしないよう、戦略的接客指導がますます求められる時代になりました。


【参考記事】
■気付いたら仕事が無い!時代への対処法意
http://shachosan.rm-london.com/?eid=676925
■スキルって?
http://shachosan.rm-london.com/?eid=648457
■本当に必要?就活用マナー講座 (増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/48109814-20160317.html
■「風通しの良い社風」という、いまそこにある危機 (増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/48419202-20160421.html
■キラキラキャリアの罠 「てるみくらぶ事件」から山ほど学べること (増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/50963225-20170330.html

増沢隆太 人事コンサルタント


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