ボクシング

ボクシングWBO世界スーパーフライ級王者の「モンスター」こと井上尚弥は21日、指名挑戦者の同級2位リカルド・ロドリゲス(米国)を3回TKOで破り、5度目の防衛を果たしました。井上は初回からスピードとパワーで挑戦者を終始圧倒、3回には2度のダウンを奪い、挑戦者をキャンパスに沈めました。また試合後に、井上が所属する大橋ジムの大橋会長は、井上が9月に米国で試合を行うことを明らかにしました

■日本のボクシング界の「ガラパゴス化」と井上尚弥の今後の可能性
井上尚弥は、「日本ボクシング界が生んだ最高傑作」とも言われており、スピード、パワー、テクニックを高次元で、かつバランス良く兼ね備えた選手です。日本のボクシング界は今まで、数多くの名チャンピオンを輩出してきました。白井義男、ファイティング原田、西城正三、小林弘、大場政夫、輪島功一、具志堅用高、辰吉丈一郎、川島郭志、西岡利晃、長谷川穂積、内山高志などは、日本ボクシング界の歴史を創ってきた名王者達です。しかし筆者はその中でも、パワー、スピード、テクニックの全ての要素がバランス良く傑出している点においては、井上尚弥が歴代NO.1ではないかと思っています。

一方で以前から、日本のボクシング界は「ガラパゴス化」しているとも指摘されてきました。興行面等の理由から、日本の世界王者の多くは、日本国内での試合開催を余儀なくされ、これが欧米諸国の強豪等を日本に招いて試合を行うことを難しくすると同時に、日本人世界王者が、海外での評価が低い一因になっている、とも指摘されていました。

このような状況に風穴を開けたのは、元2階級制覇王者で、現在はボクシングの解説者などを務める西岡利晃氏です。西岡氏は米国で2度防衛戦を行った後、2012年に世界4階級制覇王者であり、軽量級のスーパースターであったノニト・ドネア(比)と米国でスーパーバンタム級の統一戦を行い、残念ながら敗北を喫しました。

しかしながら、西岡氏の海外で行った2度の防衛戦やノニト・ドネアへの挑戦は、海外でも高い評価を獲得し、日本のボクシングを世界に知らしめたという点で、西岡氏の功績は極めて大きいと言えるでしょう。しかし残念ながら、西岡氏の後に続いて、米国でビッグマッチを行う選手が殆ど出て来ていません。以前、元WBAスーパーフェザー級王者内山高志や現WBCバンタム級王者山中慎介などが、米国でのビッグマッチ開催を熱望していましたが、実現には至っていません。

一方で、5階級制覇王者のフロイド・メイウェザーが昨年引退し、また現WBO世界ウェルター級王者で6階級を制覇したマニー・パッキャオや、前述のノニト・ドネアなどが高齢による衰えが目立ち、ボクシングの本場米国でのボクシング人気は、やや沈静化しています。残念ながら彼らに匹敵するような選手は、本場米国でも少数に留まり、彼らの全盛期が過ぎた現在、米国ではケーブルテレビのPPV(ペイ・パー・ビュー)の販売も、苦戦しているようです。

そのような状況下、マニー・パッキャオやノニト・ドネアなどの後継者となりうる選手は、世界広しといえども、軽量級では井上尚弥だけだと思います。よって、井上の今年9月の米国での試合は、井上個人の今後のみならず、日本ボクシング界の将来を占う意味でも大きな意味を持つと考えられます。

■日本のボクシング人気復活のための条件
現在、日本人の世界チャンピオンは11人にも上り、日本は一大ボクシング大国になりつつあります。しかし日本のボクシング人口は減少傾向にあり、プロボクサーの数もピーク時の1/3程度にまで減少しています。数年前に、亀田三兄弟の登場でボクシングが注目された時期もありましたが、残念ながらブームは一過性のもので終わってしまいました。

しかし世界に目を向けると、例えば英国では、WBA,IBF世界ヘビー級チャンピオン アンソニー・ジョシュアやWBO世界ミドル級チャンピオン ビリー・ジョー・サンダースを初め、多くの世界チャンピオンが誕生したことでボクシング人気が過熱し、ボクシングの一大ブームが起きています。

4月に行われたアンソニー・ジョシュアと元3団体統一ヘビー級チャンピオン ウラジミール・クリチコとの一戦は、ロンドンのウェンブレースタジアムに9万人の大観客を集めて行われ、アンソニー・ジョシュアがTKOで勝利を収めたのですが、アンソニー・ジョシュアのように、実力とスター性を併せ持つ選手が数多く現れたことが、英国のボクシング人気復興の一因となっているようです。

では日本でも英国のように、ボクシング人気を復興させることはできるのでしょうか?そのためには、以下についても検討する必要があると考えられます。

1.選手の海外進出を積極的に支援
 日本のボクシング界は従来、日本人選手が主に日本国内で試合(興行)を行うことを前提として活動してきましたが、現在ではスポーツのグローバル化が加速しており、ボクシング界も例外ではありません。かつては、海外で日本ボクシングコミッション(JBC)が認定していない団体のチャンピオンに挑戦するために、JBCを脱退した選手も散見されました。今後は逆に、彼らの海外進出を積極的にサポートするためのシステムの構築が必要になるだろうと思います。

2.「複数階級制覇」「王座統一」等へのチャレンジを支援
フロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオ、ノニト・ドネアなどのスーパースターの多くは、複数階級を制覇しています。日本の場合には、「防衛回数」を重んじる傾向が強いですが、世界では現在、防衛回数よりも複数階級の制覇や、他団体との王座統一のほうが認められる傾向が強いため、日本人選手も「複数階級制覇」等にチャレンジしてもらいたいと思います。

仮に井上尚弥がバンタム級に上げて、9月の米国での試合でタイトル奪取に成功したとしたら、「3階級制覇チャンピオン」ということになり、海外での評価がより高まることが期待されます。

3.強者同士が戦う「マッチメイク」の拡充
かつての日本では、防衛回数を重ねることが「強い王者」の証のように考えられていた時代があり、王座の防衛を目的化してしまい、それにより海外から「噛ませ犬」的な弱い挑戦者を連れてきて国内で防衛戦を行い、いたずらに防衛を重ねていたチャンピオンが過去存在したことは事実です。

しかしながら現在、海外ではタイトルがかかっていなくても、「強い者同士」がキャッチウェイトで戦う試合が増えており、このように「強い者同士のガチンコ対決」でないと、評価を得られない時代へと変化しつつあります。よって日本のボクシング関係者も、日本人選手の敗北を恐れずに、海外の強豪に積極的にチャレンジさせていく方向に、意識を変えてほしいと思います。

4.野球のイチローやダルビッシュに匹敵する、スーパースターの計画的な育成
野球人気が底堅い理由の一つとして、イチローやダルビッシュのような日本人メジャーリーガーが、本場米国で活躍していることが挙げられます。同様に、今年の9月に井上尚弥が米国でのタイトルマッチに勝利するだけではなく、今後本場米国に活動拠点を移して、バンタム級、スーパーバンタム級と階級を上げていく中で、WBOバンタム級王者ソラニ・テテやWBAスーパーバンタム級スーパー王者ギレルモ・リゴンドーなどの強豪と戦い勝利したとしたら、井上尚弥は日本のみならず、世界的な評価も得て、米国で第二のマニー・パッキャオ的な地位を確立できるかもしれません。

井上以外にも、先日の試合で惜敗したものの、その実力を証明したミドル級の村田諒太なども、今後世界が注目するスーパースター候補の一人だと言えるでしょう。このように井上や村田の今後の活躍が、現在低迷しているボクシング人気復活のための起爆剤になる可能性が高いため、日本のボクシング関係者は、中長期的な視点に立って、彼らの世界へのチャレンジを、しっかりと支援して欲しいと思います。

■グローバルな視点に立った「日本のボクシング活性化策」の策定
現在日本政府は、スポーツ振興を日本の成長戦略のひとつとして位置付けています。その中でも、海外で人気が高いボクシング人気を復活できれば、日本経済の活性化にも繋がることが期待されます。

井上尚弥や村田諒太などの活躍により、日本でもボクシングファンが増え、その結果世界のビッグファイトが日本でも開催されるようになれば、インバウンド効果も期待できるでしょう。日本のボクシング関係者には、英国での成功事例等を参考にし、グローバルな視点に立った「日本ボクシングの活性化策」を策定し、それを着実に実行してほしいと思います。

【参考記事】
■企業の成長・発展のために活かしたい、若手社員の発想力
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-45.html
■静かに進む若手人材の早期選抜とシニア人材の流動化
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-44.html
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■中小企業を宝の山に変える「起業家人材」の活用
http://sharescafe.net/50518502-20170126.html
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株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 


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