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道徳の先生は、「欲張りはいけません」と教えるかも知れませんが、経済の先生は、そうではありません。「欲張りは良い事です」と教えるか否かはわかりませが(笑)、人々が欲張りである方が経済がうまく行くのは確かでしょう。今回は、「欲張りの効用」について、考えてみましょう。


■コンビニでパンが買えるのは、コンビニが欲張りだから
筆者が大学近くのコンビニで昼食用のパンを買う事が出来るのは、コンビニが欲張りだからですね。コンビニの店長が欲張りでなかったら、「パンが売り切れている。仕入れれば儲かるだろうが、面倒だから、やめておこう」と考えて、空の棚を放置しておくかも知れません。そうなると、筆者がコンビニへ行っても「パンは売り切れです」と言われるだけで、筆者はパンを買う事が出来ません。

それ以前に、コンビニの社長が欲張りでなかったら、大学近くにコンビニの店が出来ないかも知れません。「大学の近くに店を出せば、儲かるだろうが、面倒だからやめておこう」と思えば、そもそも店が出来ないからです。

筆者がランチのパンにありつけるのは、コンビニが親切だからではなく、欲張りだからなのです。当然ですが、パン工場も小麦農家も、欲張りである必要があります。コンビニがパンを仕入れたくても売り切れだったら困りますから。

欲張りが素晴らしいのは、それだけではありません。人々の好みが変化し、パンを食べずに米飯を食べるようになったとします。コンビニの棚からはパンが減り米飯が増えるでしょう。すると、農家は小麦を作るのをやめてコメを作るようになるでしょう。人々の好みの変化に応じて、農家の生産物も変化するのです。欲張りって素晴らしいですね(笑)。

もっとも、欲張りは良い事だとしても、欲張りすぎるのは良くないことです。それは、欲張りすぎて、あまりに高い値段をつけると、客がライバル店に逃げてしまうからです。何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如し、ですね。

■江戸時代の強欲商人も、人々の役に立っていた
江戸時代、何度も不作による飢饉がありました。そうした時に、強欲商人たちがコメを買い占めて値を吊り上げ、庶民を泣かせていました。そのように歴史の時間に習った人も多いでしょう。しかし、そうでは無いのです。強欲商人がいたから、人々は助かったのです。

ある年、コメが例年の半分しか取れなかったとします。強欲商人がいなければ、コメの値段は例年通りですから、人々は例年通りにコメを買って食べる事が出来ます。そうなると、収穫期から半年過ぎたころ、コメの在庫が底を突き、人々は残りの半年間、食べるものがありません。多くの人が飢え死にしてしまうかも知れません。

強欲商人がコメを買い占めてくれれば、コメの値段が値上がりします。たとえばコメの値段が3倍になり、人々が強欲商人を恨みながら例年の半分のコメを食べて暮らしたとします。収穫期までに、人々の体も財布の中身も痩せ細るでしょうが、何とか命だけは保つ事が出来たはずです。

重要な事は、強欲商人がいてもいなくても、庶民が食べたコメの量は同じであった、という事です。「強欲商人が食欲旺盛で、庶民が食べるはずのコメを食べてしまった」わけではありませんし、次の収穫期までには買い占めたコメを高値で売り切ったはずです。次の収穫期にはコメの値段が暴落する事は容易に予想ができますから。

■欲張りである事を否定して失敗したのが共産主義
「貧富の差は悪だから、全員平等にしよう」と考えたのが共産主義ですね。全員の給料を同じにしたわけです。その際、「欲張りである事は悪いことだから、自分のためではなく、人々のために精一杯働きましょう」と言ったのが失敗でした。「真面目に働いてもサボっても給料が同じなら、サボろう」と全員が考えたので、国全体の生産力が減り、それを平等に分けた結果、「全員が等しく貧しい国」となってしまったのです。人々は欲張りだから、自分のためなら働きますが、他人のためには働かないのです(例外的に、倒れている人を助けたりしますが)。

結局、人々が欲張りである事を認めて、「たくさんパンを焼いた人には褒美を上げます」と言ったのですね。余談ですが、それも間違いで、全く美味しくない手抜きのパンが大量に作られる事になったのです(笑)。結局、資本主義で「美味しいパンを焼けば、たくさん売れて儲かる」というシステムが一番うまくいくのですね。資本主義、素晴らしいです。「人々の、欲張り心を最も上手に刺激する」からですね(笑)。

【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■銀行が東芝を支える理由を考える (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/50723476-20170224.html
■トランプ新大統領の経済政策は日本にプラスと期待 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/50455343-20170120.html
■国債暴落シミュレーション:Xデーのパニック(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199602230.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授


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