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「バブル前と比べると、企業の自己資本比率は2倍になる一方、ROEが上がっておらず、企業が資本を有効に活用できていない」といった批判も聞かれます。企業にとって、ROEが高い方が望ましい面もあるでしょうが、企業の目的はそれ以外にもあるはずです。今回は企業の目的について考えてみましょう。なお、前半は初心者向け解説なので、一般の方は後半をお読み頂ければ幸いです。


■ROEは利益を株主資本で割った値(初心者向け解説)
同じ1億円の利益でも、10億円出資して1億円儲かった場合と、100億円出資して1億円儲かった場合では、社長の有能さの評価は違いますね。そこで、出資した金額を上手に利益に結びつけている会社か否かを測る指標として重視されているのがROEと言われるものです。これは、Return on Equityで、利益を株主資本の額で割った値です。

株主資本の額というのは、会社設立時に出資された資本金に加えて、増資で払い込まれた金額、本来は株主に配当すべきであった利益を配当せずに「内部留保」してきた金額、などの合計で、具体的にはバランスシート(貸借対照表)の右下部分(株主資本とか自己資本とか純資産とか呼ばれる部分)の金額を指します。

ROEと並ぶ指標にROAがあります。これは、Return on Assetで、利益を総資産(バランスシートの左側部分)の金額で割った値です。多くの金額を用いて資産(工場、店舗等)を購入し、その資産で1億円の利益を稼いだ場合はROAが低くなり、少ない金額で購入した資産で1億円の利益を稼いだ場合はROAは大きくなります。

■日本企業のROAは大幅に上昇している(初心者用解説)
仮に「バブル前と比べると、企業の自己資本比率は2倍になる一方、ROEが上がっていない」として、企業収益の姿を紐解いてみましょう。バブル前、自己資本比率が20%でROEが10%だったとしましょう。資産が100億円だったとすると、株主資本が20億円(ということは、資産=負債+資本なので、差額の80億円は負債)、利益が20億円の10%だから2億円だった、という事になります。

企業規模が仮に同じだとすると、現在は、資産が100億円、株主資本が40億円(差額の60億円は負債)、利益は40億円の10%である4億円という事になります。

同じ100億円を使って利益が2億円から4億円に増えたという事は、ROAは2%から4%になった、という事です。これは素晴らしいことです。「儲かったなら、もっと賃金を上げろ」という声は聞こえて来そうですが、その話は後ほど。

■配当されなかった利益が借入返済に使われた模様(初心者向け解説)
バブル前から最近まで、企業は100億円規模の資産を使って利益を稼いで来ました。その一部は配当され、残りは内部留保されてきました。といっても、現金が企業の金庫に積み上げられたわけでは有りません。もしも現金が積み上がっているなら、それは会社の資産ですから、バランスシートの左側に現金が増えていくはずですが、資産規模は一貫して100億円のままだからです。

という事は、儲かった分は一部は株主に配当され、残りは銀行への借金返済に使われた、ということを示唆しています。利益のうちで配当されなかった部分は、一度は金庫に入りましたが、直ちに金庫から取り出され、銀行に送られたのです。

■ROEを上げるだけなら自己資本比率を下げれば良いので簡単
以下では、簡単のため、税金と借入金利はゼロと仮定してありますので、あしからず。

以下の3社があるとします。いずれも資産は100億円、利益は4億円です。自己資本はそれぞれA社が40億円、B社が20億円、C社が1億円だとすると、ROEはA社が10%、B社が20%、C社が400%ですが、C社が一番良い会社でしょうか?そうだとすれば、簡単な話です。A社の財務部長が銀行から20億円借りて、それを配当として株主に配ればB社になり、更に19億円借りてそれを配当すればC社になるのですから、何の経営努力も才能も要りません。まあ、B社に19億円貸してくれる銀行があれば、の話ですが(笑)。

C社は、ROEが高いので、株主にとっては素晴らしい会社です。しかし、2億円赤字を計上したら債務超過で倒産しかねないわけですから、社員にとっては非常に問題のある会社です。銀行にとってもそうでしょう。株主と社員、銀行の利害は真正面から対立しているのです。

対立の根本原因は、「株主有限責任」にあります。自己資本比率が下がるほど倒産リスク(社員や銀行が損する可能性)が高まるのに、株主はリスクが減っていく(配当で受け取った分は返済する必要が無いから)のです。

株主の幸せだけを考えている論者は「ROEが高い事は素晴らしい事だ」と言いますが、そうとは限らないのです。日本的経営が大好きな筆者は、C社は嫌いです(笑)。A社の自己資本比率が高すぎるのか否かは、筆者にはよくわかりませんが、金融危機やリーマン・ショックで貸し渋りの目に遭った企業としては、それがトラウマになっていて、「とにかく銀行からの借金は返したい」という事なのかもしれませんね。

■倒産の社会的損失を避けるべき
誰かが損をするとき、それと同じだけ誰かが得をするならば、基本的には部外者が口を出す必要はありませんが、誰かが損をして誰も得をしないならば、それは社会的損失ですから、問題でしょう。日本経済の発展を願う筆者としては黙ってはいられません(笑)。倒産は、多大な社会的損失をもたらすので、倒産が増えそうな事には筆者は基本的に反対です。

企業が倒産すると、失業者が出ます。働きたいのに働けない人がいるという事自体、当事者にとって大きな損失です。日本経済にとっても、労働力が活用出来ずに無駄になるわけですから、大きな損失です。

それだけではありません。企業が使っている設備機械がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれる場合も多いでしょう。まだ使える機械がスクラップになってしまうのも、勿体ないことです。

加えて、企業の持つノウハウや顧客リストといった「財産」も散逸してしまいます。多くの企業の株価は一株当たり純資産よりも高くなっていますが、その理由の一つがこうした「財産」の存在だと言われています。別の見方をすると、操業間もない企業は赤字ですが、それはノウハウや顧客リストを獲得するためのコストだというわけです。コストをかけて獲得した財産が散逸してしまうのは、何とも惜しいことでしょう。

■現金の持ち過ぎ批判との混同に注意
投資家は、多額の現金を保有している企業を批判します。現金は利益を産まないので、必要以上の現金を抱えているとROAが下がってしまうからです。この点については、筆者も賛成します。

しかし、実際の企業経営者は現金を積み上げているわけではありません。ROAは高まっているのであって、株主と銀行から調達した100億円を有効に利益に結びつけているのです。企業が多額の現金を持っている時に、ROAを高めるためには「設備投資をして儲ける」「借金を返して資産を減らす」「配当をして資産を減らす」という選択肢があります。儲かりそうな設備投資の案件が見当たらなければ、返済か配当かを選ぶわけです。投資家たちは「配当を選べ」と言いますが、筆者は「返済を選べ」と言っているのです。投資家の味方ではなく日本経済の味方ですから(笑)。

■ROAの上昇は、基本的には望ましいことだが・・・
ROAの上昇は、基本的には素晴らしいことです。経営者が頑張らないと、財務部長の小手先の対策ではROAは上げられませんから。冒頭、バブル前と比べると、企業の自己資本比率は2倍になる一方、ROEが上がっておらず、「企業が資本を有効に活用できていない」といった批判があると紹介しましたが、そのとおりだとすると、ROAは倍増しているわけで、日本の経営者は頑張っているという事になります。

もっとも、企業の利益が社員の犠牲の上に成り立っている面もあるように思われます。バブル以前の日本企業は「会社は社員の共同体」であったのが、最近は「会社は株主が儲けるための道具」になっていて、「会社が儲かっても給料は上げない」傾向があります。これは、日本的経営が大好きな筆者にとって、悲しい事です。これからは、労働力不足の時代になり、経営者が上げたくなくても給料を上げないと労働力が確保出来ない時代が来て、給料が上がることを期待しています!

【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■人々が欲張りな方が、経済はうまく行く (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/51371141-20170602.html
■大学新入生よ、自由と責任を自覚せよ (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/51153361-20170427.html
■統計使いは統計を使って嘘をつく (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49305346-20160814.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授


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