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豊田真由子議員が政策秘書に対する暴言があったと、「週刊新潮」6月29日号で報じられました。車で移動中、運転する政策秘書に対し、後ろから暴言を吐いたり、叩くといった暴行を働いたとのこと。

この事件、起こした当人が女子御三家の名門、桜蔭高から東大法学部を経て厚労省に入省し、ハーバード大大学院も修了という輝かしい経歴の持ち主であることも注目を集めています。加えて夫も国交省の官僚で、2児の子供にも恵まれているとのこと。人が欲しいと思うものをすべて持ち合わせているように見えるエリート議員に何があったのでしょうか?

この事件は、人の痛みがわからないエリートが起こした特別な事件ではなく、現状に強い物足りなさを感じている人間なら、誰もが起こしうるものに思えます。本稿ではこの事件が私たちに示唆するものは何かを考察します。

■暴言に見える不安と恐れ
「週刊新潮」によると、事の発端は、秘書のミスにあります。支持者に送ったバースデーカードのうちの47枚分に、あて先とカードの名前表記が異なっていたことが発覚し、支持者宅をおわび行脚しなくてはならなくなったのだそうです。

そのことに対し、豊田議員は怒りを爆発させ、報じられたように秘書に対し暴言を吐いたわけですが、その中で、私が特に気になったのが、記事で報じられた以下の部分です。

「お、お前はどれだけあたしの心をたたいてる!?おまえはどれだけあたしの心たたいてる!?」
「どーぞあたしもたたいてちょーだい! その代わり私の…私の痛い心をこれ以上痛めつけるの止めてくれ!あたしの支持者をこれ以上怒らせるのぉ止めてくれぇ! たたかれる方がよっぽど楽だよ!」
「よっぽど楽だよその方が!頼むから私の評判を下げるな!頼むから私に恥をかかせるな。
おまえが受けてる痛みがなんだぁ!あたしが受けてる痛みがどれだけあるか分かるかこの野郎!!」


ミスをした相手に対し、「なぜそんなミスをしたのか?」と理由や原因を追究するのではなく、また支持者が被った迷惑に言及するのでもない。繰り返し自分の辛さを主張し、自分に恥をかかせたことを責め立てています。ここから見えてくるのは、豊田議員にとって最も重要なものは、自分の議員としての評判であり、その評判が傷つけられたことに、非常な痛みを感じているということです。

「怒り」の感情は、不満や不安、疲れや辛さなど、ネガティブな感情があり、それが積み重なって一定の閾値を超えたときに引き起こされる二次感情と言われています。

豊田議員の度を越した怒りは、支持者に迷惑をかけたことで、自分自身の議員としての評判に瑕がつくことに対する不安や、支持者たちから「秘書の指導不行き届き」として非難されることへの恐れから引き起こされたと考えられます。

順調に政治家としてのキャリアを積んでいたかに見える豊田氏。その裏には、本人の並々ならぬ努力があったことでしょう。しかし、その努力を秘書のミスで台無しにされかねないのですから、怒り心頭に発する状況になったと想像されます。

■超エリートでも「幸せ」になれないリスク
では、秘書にも恵まれて、何の憂いもなくエリート議員としてキャリアを積んでいったとしたら、豊田氏は幸せになれたのでしょうか?度を越した怒りにつながるようなネガティブな感情は持たずに済んだのでしょうか?

その点は、私は疑問です。なぜなら、「幸せ」は、政治家としての評判だけでは成立しないからです。

経済学者のロバート・フランク氏の研究によると、人間の幸福感は、2つの要素で成立していると言います。一つが、周囲との比較で満足を得る「地位財」、もう一つは他人との相対比較とは関係な「非地位財」です。「地位財」の例としてあげられるのが、収入や役職などの社会的地位、車や家、ブランド品などの物的財です。「非地位財」は、健康、自由、愛情、社会への帰属意識などがあげられます。

同じ出来事でも、捉え方によっては、どちらにも受け取ることができます。たとえば「結婚」における地位財としての価値は、「自慢できる配偶者」「家庭を持っているという社会的ステータス」といったものがあげられます。一方で、「パートナーとの絆」「家族への愛情」という意味では非地位財になります。

前述の発言内容からすると、豊田議員が恐れていたのは、自分の評判や銀としての地位であるように思えます。だとすると、政治家としてのキャリアは、彼女にとって地位財と位置付けられます。

■地位財の獲得が、豊田氏の努力の源泉?
この件については、彼女と同じ東大法学部卒の弁護士の住田裕子氏が、日本テレビ系列の「情報ライブ ミヤネ屋」に出演した際に、興味深いコメントを残しています。「厚労省に(同期は女性)1人ですけど、本当にそこに入りたかったのか。本当に福祉をやりたかったのか私は疑問です」

さらに、豊田氏の経歴について、留学や金融庁や在ジュネーブ国際機関で働いていたことに触れ、「その道のりを見ても、次官コースの超エリートではない」「事務次官には行けないコースだと思う。最初から外でてますから」と指摘。官僚の最高ポジションである事務次官にはなれない物足りなさを、政界転身によって埋めようとしたと持論を展開したといいます。(「【豊田真由子議員の暴言】東大の先輩著名人は「超じゃない、準エリートぐらい」と指摘 高木美保氏らも持論」ハフィントンポスト・ジャパン 6/22)

本当のところは、豊田氏本人に確かめてみないとわかりません。ただ、もし住田氏の言う通りであるとしたら、そもそも官僚としての豊田氏のキャリアも、社会的地位や評価獲得が目的であり、内発的な動機といった非地位財的要素はなかったと言えます。

政界転身後もその地位の維持のため、豊田氏は最大の努力を積んできたのでしょう。実際にその努力は実りつつありました。第三次安倍内閣で、文部科学大臣政務官、東京オリンピック・パラリンピック大臣政務官、復興大臣政務官を務め、順調に出世をしてきました。

しかし、議員というのは選挙に落ちれば「ただの人」です。議員であり続けるには、有権者からの支持が欠かせません。そうした状況で、支持者に迷惑をかけるような行為を秘書が働いたとしたら、豊田氏が自らの地位を失いかねないと、強い不安に陥ってしまったことも無理のないことと思われますまた、社会的地位へのこだわりが強ければ強いほど、その不安も高まったことでしょう(かといって彼女の行為は擁護できるものではありませんが)。

心理学者のダニエル・ネトル氏の研究によれば、非地位財による幸福は長続きするのに対し、地位財による幸福は長続きしないのだそうです。だとすると、もし豊田議員が、政治家として、エリートとして、社会的評価を追い求めているのだとしたら、たとえそれが獲得できたとしても、そのことによる幸せは、長続きしないということになります。


■「女性」として過度なプレッシャーがあった?
議員としての豊田氏の立場を考えると、その地位を維持するプレッシャーは、男性の日ではなかったように思えます。

「あれ女性ですよ、女性。男と書き間違えているんじゃないか」と、現職の副総理兼財務相である麻生氏が述べたと報じられました(共同通信 2017/6/25)。また、すぐに発言を撤回しましたが、河村建夫元官房長官は、「男性の衆院議員なら、あんなのはいっぱいいる」とコメントしてします。

こうした発言から、豊田氏が行ったような行為は、男性であれば、許容範囲と考える人が、政界には少なからずいると推測できます。

政界以外でも、同様の論調が見られます。暴行を告発した当の週刊新潮では、「いくら政策秘書は豊田氏が雇った『部下』であるとはいえ、仮にも年上の男性に対して発言する言葉ではない」と、その記事の中で論じています。まるで、豊田議員が秘書よりも年下で女性であるから許されないような論調です。

憶測をたくましくすると、豊田氏は、議員としてのふるまいに加え、女性として年長の政治家や有権者が求められる期待役割を強いられてきたのではないでしょうか。あるいは、女性だからという理由で、欲しかった何かを阻まれた経験が重なってきたこともあったのではないでしょうか。そのプレッシャーや不満が、豊田氏の努力に拍車をかけ、その反動がさらに怒りを嵩じさせる結果となったと考えられます。

■他山の石として学ぶこと
他人との相対比較による幸せは、自分より上位と思われる人の存在がある限り、満たされることはありません。豊田氏が、エリートとしての社会的地位を追い求める限り、その満たされなさを埋めるべく、自らを駆り立て、他人に怒りをぶつけ続けなくてはならなくなります。それを断ち切るには、他人との比較によらない、自分らしい満足が何かを改めて考えてみることが必要なのではないでしょうか。

同様のことは誰もが陥りうることです。私たちも自分が本当に求めているものは何かを、周囲との比較ではない基準で見つめなおすことが必要なのではないか?豊田議員の事件から、そんなことを考えたのでした。

朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)

【参考記事】
■「2017世界女性サミット」で感じた日本の女性問題における失望と希望http://sharescafe.net/51428789-20170605.html
■オスカルという生き方。~ベルサイユのばらが半世紀経っても新しい理由~
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■英国首相選ではなぜ「子供を持つ母親」が不戦敗したのか?
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■「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣?
http://sharescafe.net/48120829-20160322.html
■辞任閣僚に学ぶ、女性リーダーの生き残りの心得
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