gahag-0055494595

 大企業の「中期経営戦略」が発表されると、戦略として売上高○○億円、営業利益率○%、を達成することのみが声高々に謳われるケースがある。しかしながら、これらはある人為的に区切られた会計年度における単なる目標値にすぎず戦略ではない。このように売上高等のみを戦略と謳うケースは往々にして経営陣の無戦略ぶりを露呈していることが多い。ではなぜこのような単なる目標を戦略と呼ぶのであろうか。また、なぜ本当の戦略を描けない(または描かない)のであろうか。

■戦略の勘違い

 その背景の一つは、日本の大企業は創発戦略のもとで企業活動を進めているケースが多く、トップが企業の行く末を描いていない、または各事業の戦略を熟知していないことが考えられる。つまり、経営トップはこれまでの実績に対し、今期の動向や変化による影響を加減し、ある程度ストレッチした目標値が記された内容を承認することが主な役割となってしまっており、その背後に本来潜んでいるはずの複数の因果関係に基づく明確な戦略を詳しく認識できていない、または描いていない可能性がある。

 そもそも意図する・しないに関わらず、創発戦略とは事前に経営者が戦略を策定するものではなく、各事業部におけるミドル層が日々の業務の中で環境に適応するために様々な判断を下した結果、事後的にできあがった軌跡を戦略としているものであるため、創発戦略を取る限り経営者に事前の明確な戦略がないことは明白である。

 また、事業の多角化を進めてきた企業の場合、事業間の複数の構成要素のつながりが複雑に絡みすぎており、その実態を経営者が把握できていないため、戦略を語ることができないという可能性が考えられる。前述の単なる目標数値を羅列しただけのものを戦略と呼ぶのは、数字上の分析を行うことで、戦略を立てた気になってしまうからではないだろうか。これは戦略の大いなる勘違いであると言わざるを得ない。

一方で、中期経営戦略に戦略の中身を記載することで、競合他社に手の内を知られるため、あえて戦略を明記しないというケースも考えられる。このケースの場合は、意図的に戦略を煙に巻いており、その裏には有効かどうかは別にして、他社に知られたくない戦略が潜んでいることは明白である(=無戦略ではない)。

■戦略とは差別化である

 それでは、戦略とはどのようなものであろうか。戦略とは他社との違いを作る=差別化であり、それらをつなげた集合体を指す。その違い=差別化にはシステムの差別化と商品の差別化が存在するが、イメージしやすい簡易な例に挙げると、以下の通りである。

 他社よりもおいしいコーヒーを提供する=商品の差別化
 他社よりも短時間でコーヒーを提供する=システムの差別化

 スターバックスの第3の場の提供は、このシステムの差別化を洗練させたものであった。このようなシステムの差別化は、競合他社からは何が違うのかがわかりにくく、コーヒーの品質や価格等の単純競争を避け、模倣を困難にさせるため、企業の長期利益につながる好例である。

 また、アパレル業界を例にあげると、どのようなデザインが流行るか(流行らせるか)、先を読むことが非常に困難なこの業界において、たくさんのデザインをリリースし、当たったデザインを即座に生産する体制を整えるファストファッションの雄であるZARA。それに対し、デザインの流行廃りに対応することをやめ、外れのないベーシックデザインに特化することで、材料調達、商品企画、製造、販売までを全て自社で手掛け、商品の低価格化と高品質化を実現したユニクロは、どちらも複数の構成要素を組み合わせたシステムの差別化によって、最終製品であるアパレル商品の大きな差別化を実現している。この2社はどちらも同じ業界でありながら、大きく異なる戦略を展開している。

■戦略への共感

 前述の例は、創発戦略により自然発生的に生まれたものとしてはできすぎている。つまり、創業者または経営者による明確な意思のもとで生まれた計画的な戦略であると言える。これらの企業で、企業規模が大きくなった今でも一貫したこだわりの姿勢を感じるのは、差別化の集合体である戦略が明確に描かれているからである。

戦略とは、強い意思を持つ経営者にしかないものである。投資家や消費者の立場としては、明確な意思なく作られた数値のみの無戦略企業ではなく、企業姿勢に一貫した強いこだわりを持ち、ユニークな差別化を実現させる戦略を展開する企業に共感を覚えるのではないだろうか。

【参考記事】
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■優秀が故のジレンマ「大企業のイノベーションへの挑戦」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50115391-20161130.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html



この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加




関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール


トラックバック