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先日、厚生労働省の男性職員における育児休業取得率が3割を超えたという報道を目にした。

■厚労省男性職員の驚異の育休取得率とは

子育て支援や働き方改革を所管する厚生労働省で、男性職員の育児休業取得率が3割を超え、過去最高にのぼった。(中略)厚労省本省の男性職員の育児休業取得率は34.6%(昨年度暫定値)と民間平均の3.16%(昨年度)を大きく超えた。今後、省内の男性職員全員が育休を取ることで、民間企業のモデルになりたいとしている。
日本テレビ系NNN「厚労省 男性職員の育休取得率が3割超える」2017/6/28

率直に、大変画期的であるという感想を抱いた。言うまでも無く厚生労働省は「働くこと」を所掌する役所であるからだ。これまで各府省庁の中でも繁忙で知られ、「強制労働省」と揶揄されてきた同省で、「イクボス宣言」がなされたという背景からも、民間企業等への波及効果を考えれば、大歓迎すべきニュースであろう。

■短期間の育休に意味はあるのか?
民間企業における男性の育児休業(育休)取得率は平均3.16%というから、同省の34.6%は実に10倍強の数字だ。驚異的な取得率と言っても過言では無いだろう(ちなみに、民間企業における女性の育休取得率は81.8%に上る)。

しかしながら、上記の育休について、どの程度の期間取得したのかについて言及されてはいない。国家公務員の育休は最長3年(子が小学校に入学する前まで)まで取得可能であるが、ここまで急激な取得率の向上を考えれば、おそらく殆どの職員は短期間育休を取得したものと推察される。

このことについて、「仮に育休を1日だけ取得したって何の意味も無い。取得率向上を狙ったたんなる茶番だ」という意見もあるだろうし、「そもそも働く男性の育休取得率の低さが異常なのだから、啓発する意味でも取得すること自体に意義がある」とも解釈できるだろう。議論の分かれるところであるが、前述のとおり、筆者は厚生労働省の職員自身が育休取得を推進したという事実を評価したいと思う。

厚生労働省は、いわゆる「育児・介護休業法」をはじめ、労働関連法令等、働くこと全般の施策を所掌している。それらの政策立案や運用に携わる職員自身が、仮に短期間とは言え育休を取得することは、大変意義があることだというのが実感だ。

筆者自身も幼子を育てる立場であるが、育休自体は複数年取得が可能でも、保育園に入園させるには0歳児が一番可能性が高い(即ち、速やかな職場復帰のために育休は1年未満で切り上げざるを得ない)ことや、育休を取得することによる家計への影響など、実感してみて初めて気づくことばかりであった。それらに加え、例え短期間であろうとも職場を離れることや復帰時の不安など、当時者でないと体感できないものだ。政策を提言する者が当時者となることは、おおげさでなくプライスレスなのである。

上記のことから、男性職員の育休取得率向上を含む同省の「イクボス宣言」を、筆者は激しく支持したい。

■現状打破のためには極論も必要だ
前掲のように、働く男女の育休取得率には大きな偏りがある。働く男性と専業主婦として支える妻という家庭が一定数存在することを考慮しても、まだまだ男性にとって「育休取得」が高いハードルで有り、あり得ない選択肢となっていることがうかがえる数字だ。

別記事「男性の育休取得率、過去最高なのにたったの2.65%なのは何故?」にて言及したが、日経DUALの記事によると、日本労働組合総連合会の調査で、男性が育休をとれない理由の第1位は「仕事の代替要員がいない」となり、他にも「上司に理解がない」「元の職場に戻れるかどうかわからない」「昇進・昇給への悪影響がある」等、職場における理解不足や処遇面での不安に基づく回答が目立つ(2014/2/20 男性が育休をとれない理由1位は「代替要員がいない」)。

また、ユーキャンラボによる「男性の育児休暇に関する意識調査」によれば、会社の制度面以外の障壁としては、取得経験者・未取得者共に「職場の理解が足りない」が最も多い結果となっている(育休取得者51.4%、未取得者57.7%)。「仕事を引き継げる人がいない」「取得することで出世に響いてしまう」「復職後の役職が下がりそう」等の回答が続くのは上記調査と同じ傾向である。

さらには、(株)インテージリサーチによる「平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(厚生労働省委託調査研究)」によれば、男性正社員に対し育児休業を取得できた理由を尋ねたところ、1位が「日頃から休暇を取りやすい環境だったから(22.0%)」、2位が「職場が育児休業制度を取得しやすい雰囲気だったから(17.6%)」となっており、男性の育休取得促進には職場環境等の要因がキーとなることが裏付けられている。

これらの調査結果から、例え調整すれば育休が取得可能であったとしても、職場の雰囲気や環境で取得を断念してしまう男性社員の姿が浮き彫りになる。子どもを授かった男性が、期間の長短は別としても、一定の期間子どもや妻のそばにいたいと考えるのは自然なことだ。しかしながら、現状の取得率は、業務上のことなど本人の調整さえつけば、どんどん育休を取得しても良い、という環境はほど遠いものなのだ。そのような環境を変革するためには、少々強引かつ極端な施策も打つ必要があるのだろう。「育休は当然取り得る選択肢としてあるべき」なのだ。

■男性育休取得率100%は良いことなのか
しかしながら、前掲記事には気になる点もある。それは「省内の男性職員全員が育休を取ることで、民間企業のモデルになりたい」というくだりだ。

「これまで育休の取得そのものに意義がある、と言っていたじゃないか」との突っ込み想定されるが、筆者のもう一つの主張は「育休は個人(夫婦)の選択によるべきもの」だ。

単純に子どもを授かった男性が100%育休を取得すればよいか、と問われれば、そうではない、というのが筆者の考えである。夫婦の役割分担として「夫は懸命に働き、子が小さい内は妻がメインで子育てをする」と考える夫婦もいるだろうし、「妻がキャリアを積んでいき、その間夫が育休を取得して妻をサポートする」という夫婦もあるだろう。要は、これからどのように働いていきたいのですかか、という家族の問題に収れんされるのだ。

短期間の取得も想定されるとは言え、仮に子どもを授かった男性職員が必ず育休を取得するとすれば、働き方に多大な影響を与える可能性がある。「●●さんは子どもが生まれるからあの部署には異動させられない」などが容易に想定されるのだ。さらには、それを先読みして「今はこどもを作らないでおこう」と考える男性職員が出てきてもおかしくはない。結果、仕事と子育ての両立を応援するはずが、少子化や過重労働を生む結果となってしまう。

先に「現状を打破するには極端な施策も必要」と述べたが、何事もやり過ぎは弊害が出るのだ。育休取得率100%は理想かも知れないが、徹底すればするほど、ゆがみが生じる可能性は否定できない。厚労省においては男性職員の育休取得率向上を図ると同時に、何故民間企業において男性の育休が促進されないのか、育休取得率促進の先には何が見えるのか、冷静に分析する必要がある。

むろん、上記の弊害はマミートラックやマタニティ・ハラスメント等の形で、働く女性の問題として既に顕在化しているものだ。それらの問題が発生する要因として、現状の偏った育休取得の分担があるのではないか、というのは、おそらく言い過ぎではないだろう。男女とも働きやすい環境をつくるためには、頭をもうひとひねりする必要がありそうだ。

【参考記事】
■「給料より休暇が大事」は「自分ファースト」なのか。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/21650519.html
■「親子就活」が非常識でない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/19939501.html
■「新入社員が2日で辞めた」を防ぐ術は、NHK歌のお兄さん交代に学べ。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/51056896-20170412.html
■「就活に有利な資格ってありますか?」と問われたら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50823928-20170310.html
■「我が社が求める人材像」をどや顔で語る企業を疑うべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/51161433-20170427.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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