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夏の全国高校野球大会の地方予選も大詰めを迎えています。今年の目玉は何といっても、超高校級スラッガーの呼び声高い早稲田実業の清宮幸太郎選手です。3年生になり、甲子園に出場できる最後のチャンスを生かせるかどうか、注目が集まっています。本稿執筆時点で早実は西東京大会の決勝戦に残っており、清宮選手をめぐる報道も過熱の度を増しています。

この“清宮フィーバー”だけを見ると、相変わらず高校野球の人気は高いように思えます。また、筆者の個人的印象ですが、全国大会のテレビ中継を見ると平日でも観客席が満員になっていることが多く、高校野球の人気が回復しているようにも見えます。実際のところはどうなのでしょうか。データと数字から考えてみましょう。

■お客さんが増えたことは確かだが…。
高校野球全国大会の大会ごとの総入場者数は、公益財団法人日本高校野球連盟のホームページで確認することができます。これを見ると、近年で最も入場者数が少なかったのは、春の選抜は平成18年の第78回大会で39万人、夏の選手権は平成15年の第85回大会で68万2,000人となっています。これらに比べると、春の選抜は直近2大会で50万人を超え、夏の選手権は9年連続で80万人を超えていますから、入場者数は回復していることが分かります。

しかし、入場者数ではなく、収益というお金の推移を確認すると、少し違った見方ができます。同じくホームページで確認できる、過去11年間の高野連の収益推移をグラフ化したものが下の表です。

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矢印で示した通り、入場者数の回復基調が定着した平成18年以降でも、平成24年までは収益が減少傾向にあったことが分かります。増加に転じたのは平成25年からですが、この要因として考えられるのは、入場料の値上げです。夏の選手権大会は平成25年から、春の選抜大会は平成26年から、席種によって違いはありますが、ネット裏自由席が1,600円から2,000円になるなど、内野席は20%~25%の値上げになりました。(ちなみに、甲子園大会は外野席無料です。)

春夏とも値上げの効果が反映された平成26年の入場料収益は約7億2,000万円で、値上げ前の平成24年に比べ21.9%の増加となっています。また、同じ期間の総入場者数も10.9%増加しています。

単純に考えれば、入場料(客単価)が20%強上がって、なおかつ入場者数(客数)も約11%増えているのですから、収益(売上)は30%以上増えていなければいけないはずです。それがそうなっていないということは、増えているのは無料で見られる外野席の観客だけ、という可能性が高いと考えられます。これは冒頭に書いた筆者の印象とも合致します。

逆に、値上げ率と収益の増加率がほぼ同じということは、「お金を払ってでも高校野球を間近で見たい」というコアな客層は、値上げによってそれほど逃げていない、という分析もできます。

■高校野球が収益性を維持するには。
そう考えると、今後高野連が収益性の維持向上を図る上で、考えられる方策が浮かび上がってきます。

手っ取り早いのは、外野席の有料化でしょう。現在は無料なのですから、数百円でも料金を取れば収益は純増になります。利益面で考えても、仮に入場料金1人300円、チケットの印刷代を1枚100円として、1日15,000人入れば粗利益は(300円-100円)×15,000人で300万円。それが春夏合わせて27日間の開催で300万円×27日=8,100万円。人件費等を差し引いても十分利益は残りそうです。

無料だったものを有料にすることに抵抗があるなら、内野席のさらなる値上げが検討されます。ただそうなると、無料である外野席との格差がつきすぎますので、割引通し券のバリエーションを増やすなど、料金設定に工夫が必要かもしれません。

筆者がぜひやってほしいのは、外野席の観客に対するアンケートです。近年の観客増の要因が、外野席という“無料会員”の増加にあるとしたら、このライトなファン層がどのような理由で高校野球を見に来ているのかをリサーチするのは、有益な作業になるはずです。もちろん、内野席という“有料会員”にシフトしてもらうための方策を考える上でも重要なデータになるでしょう。

■高校野球を“娯楽コンテンツ”として考えれば。
非営利組織で、非商業性を徹底している高校野球を、お金の観点で論じるのは不謹慎かもしれません。しかし、4年前に入場料の値上げに踏み切ったのは収益性の悪化が顕著になったからだと思いますし、これだけの国民的イベントをお金の話抜きで論じるのは逆に不自然です。

高校野球をひとつの娯楽コンテンツとして見た場合、その価値が理解できるのは日本人だけですので、高校野球のマーケティングは国内の人口動態や消費者心理の影響をまともに受けます。少子高齢化や人口減少、レジャーの多様化といった外部環境を考えれば、今後、高校野球の運営には一層のマーケティング的視点が必要になるでしょう。

これからも、清宮選手のようなスター選手は一定の割合で現れるでしょうが、それは高校野球の課題を一時的に糊塗するものでしかないと考えます。

【参考記事】
■カールは、「売上が落ちた」から販売終了するのではない。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51389349-20170530.html
■東京ディズニーランドが客数減少で苦戦中という勘違い。そして「本当の課題」は? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51009026-20170405.html
■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49986760-20161112.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■2018年開幕予定の「卓球プロリーグ」が本当に儲かるか計算してみた。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50185951-20161209.html


多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表



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