FullSizeRender
 フルサービスキャリア(航空会社)に搭載されているビジネスクラスシートは、いまやフルフラットが前提となり、ドア付きの個室タイプまで登場する時代となった。特に中東系のエアラインはオイルマネーで潤い、多くの人口を抱えるアジアとヨーロッパを結ぶ地理的要因も相まって、機内座席の差別化競争は留まるところを知らない。
 
 世界中のフルサービスキャリアにとって、ビジネスクラスは収益の柱であり、欠かすことのできない存在である。各エアラインがしのぎを削るビジネスクラスシートにフォーカスし、その製造・調達・価格の背景を解き明かしてみる。

■ビジネスクラス1席でポルシェが買える?
 まず、長距離線を運行するフルサービスキャリア(日本でいえばJALやANA)の長距離線ビジネスクラスの多くはフルフラット化が可能な電動シートが搭載されている。このビジネスクラスシート自体の値段は、購入数やシートモデル、開発工数にもよるが一般的には1席あたりポルシェが1台買える程度(数百万円から1千万円超)と言われている。

 仮に1席あたり1,000万円として、長距離線向けのため、搭載される機材は777、座席数は50席とすると、1機あたりのビジネスクラス購入価格は5億円。フルサービスキャリアの規模にもよるが、整備や機材の運航効率を高めるため、同種の機体15機に導入すると仮定すると、ビジネスクラスシートのみ75億円の巨額投資となる。

■航空機の座席が高い理由
 航空機の座席は、航空会社が作るのではなく、ボーイングやエアバスなどの機体メーカーが作るものでもない。欧米を中心に航空座席を製造するシートメーカーが存在しており、航空会社各社はそのメーカーから座席を購入し、自社の機体へ取り付けている。

 シートメーカーは、世界にも数えるほどしか存在しておらず、有名どころとしては、Zodiac、Sogerma、Rockwell Collins(旧BE)等があり、日本でもジャムコ社が近年ビジネスクラス以上のシート製造に注力している。しかしながら、各国の航空局の許認可、大きな設備投資や開発ノウハウ、そして長期開発による投資回収スパンの長さなどが障害となり、航空機シート製造の参入障壁は非常に高い。そのため、シートメーカー市場のプレーヤーが限られることで競争原理があまり働かず座席の価格は高額となる傾向にある。

 また、シートメーカーは単純にベースとなるモデルを製造し、納入するのみではなく、各航空会社が他社との差別化のために、既存モデルにオリジナリティーを加えることが多い。そのため、シートメーカーは開発した製品の製造・納入が、航空会社1社のみになるということも珍しいことではない。そうなると、大きな設備投資と開発費を投じたにも関わらず、数年間に渡り製造する座席数は前述の750席程度(1機50席×15機)となると考えると、規模の経済効果は見込めず、1席あたりの価格が巨額になることも想像に難くない。(蛇足であるが、高級車であるポルシェ911でさえ、2016年度の販売台数は3万台を超えているため、航空シートメーカーよりは規模の経済の恩恵にあずかることができるはずである)

■航空会社の差別化
 航空会社とは、調達した機体を使用して安全に運航することが彼らの役割であるため、機体や安全性、移動スピードに独自性を打ち出すことは難しい。また、それらは一定の基準を満たしさえすれば、顧客の選好性に大きな影響は与えないであろう。そのため、大きな差別化の源泉としてシートに独自性を求めることになったのである。(その他、ソフト面等の差別化も存在するが、今回は割愛する)
 
 しかしながら、前述の通り機内座席に関しても、航空会社が製造を行う能力を保持しているわけではないため、シートメーカーに要望を実現してもらうことでエアラインの違いを作り出している。そのため、航空会社としてはビジネスクラスシートの調達に少しでもコストダウンを図りたいのが本音ではあろうが、前述のシートメーカーの競争環境に加え、差別化を行えば行うほどシートの調達コストが高騰し、自分自身の首を絞めるというジレンマを抱える結果となる。

 それでも、フルサービスキャリアがシートに独自性を求めるのは、シートが彼らの考える差別化の源泉であり、その中でも収益の柱であるビジネスクラスは、航空会社の商品の中でも最重要と言っても過言ではないと認識しているからであろう。そのため、更なる快適性と洗練されたデザインのビジネスクラスシートを追及すべく、大きな痛みを伴いながらも積極的な投資を行っているのである。

【参考記事】
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■優秀が故のジレンマ「大企業のイノベーションへの挑戦」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50115391-20161130.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html



この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加




関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール