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7月に入り、いくつもの新しいテレビ番組が始まった。特有の制約条件下で、その面白さが低減しているとの指摘もある中で、比較的強いオリジナリティを打ち出しているタイトルが多く見られるのが刑事ドラマだ。

■刑事ドラマはテレビ朝日のほぼ一人勝ち
刑事ドラマの製作本数は多い。直近3年間、つまり2015年以降だけで区切ってみてもその数は30タイトル近くにも及ぶ。刑事ドラマの安定した根強い人気ぶりを伺わせる。(民放5局ホームページより。いわゆる単発の2時間ドラマは除き、3ヶ月〜半年間放映されるいわゆる連続ドラマでSeason2以降は同一としてカウントしない)

とはいえ、そのすべてが人気を維持し続け、複数年に渡って放映されてるわけではない。Season2以上製作されたタイトルに限るとわずか8タイトルしか残らないが、なんとそのうち7本がテレビ朝日の番組であり、この占有率は87.5%になる。しかもそれらすべてが現在もシリーズとして続いており、昨年または今年に入っても継続的に放映されているというまさに圧倒的な状態だ。

■なぜ、テレビ朝日の刑事ドラマは強いのか
テレビ朝日は、刑事ドラマにおいてもはや「一人勝ち」と言っても指しつかえない。それを支える理由は一体何なのだろうか。テレビ番組というものをわかりやすく一般的な「ソフトウェア」として捉え直すと少なくとも3つほど理由が浮かび上がってくる。

1つめは品質、クオリティだ。ソフトウェアでいえば、バグやセキュリティーホールだらけではどれほど機能が優れていたとしても市場に受け入れられることはない。ドラマでは脚本や、役者陣がそれにあてはまるだろう。

特に長期に渡ってSeasonを重ねるようなタイトルでは、そのメインキャストにおいてほとんど例外無く、劇団などでの長年に渡って蓄積された高い経験値を持つ専業の、いわゆるプロの俳優・女優陣で固められている。少なくとも、パラシュート人事のように人気アイドルグループなどから主役に抜擢されたようなケースは見受けられない。

2つめは「コンセプト」だ。ドラマ全体を貫く他の番組にはない独自性だ。一般的なソフトウェアにおいても必ず、パッケージなどとしてソフト全体で形成される総合的な差別化要素がある。特徴的な機能だけで勝負に挑めば、ソフトウェアにかぎらずその土俵に残り続けることが難しいのは言明するまでもない。

継続的に続くタイトルにはやはりそれぞれ異なったコンセプトが存在している。例えば、15年以上に渡って続く「科捜研の女」と今年7月からSeason4が始まった「遺留捜査」。一見するといずれのタイトルも事件現場にある証拠を元に事件を追うストーリー展開だが、事件の解決手段にその違いがある。

「科捜研の女」はそのタイトルどおり、文書鑑定や指紋認証、物理実験などまさに科学捜査によって、犯人や事件の全貌を明らかにする。一方の「遺留捜査」では、一部科捜研との連携によって鑑定などのプロセスを経るものの、展開の大半は「遺留品」に残された事件関係者の感情を起点に事件全体を明らかにしていくことが中心だ。端的にいえば、前者は「デジタル」であり、後者は「アナログ」の解決手段というコントラストがある。

こうした明確なコンセプトの存在が、ある種のカニバリゼーションや、既視感といったものを極力発生させず、刑事ドラマという同一カテゴリー内でいくつもタイトルを並列的にかつ長年にわたって継続させていくことを可能にし、「住み分け」を実現している。

3つめは、テーマの絞り込みだ。ビジネスでいう「市場」に相当する。ドラマのテーマは非常に多く、オフィスドラマ、ホームコメディー、ラブコメディー、医療サスペンス、学園ドラマなど多岐にわたる。医療+恋愛、学園+サスペンスなど異なる組み合わせをすれば、その種類はさらに増える。

そうした選択肢が溢れる中で、あえて絞り込む。これは一般的なビジネスの世界でも結果を出していく方法として王道の1つだ。ソフトウェアの世界であれば、例えば中小企業向けの会計ソフト専業といった立ち位置だ。

この手段が生み出す効果は、2つある。1つは選んだテーマ(市場)によって、高級ブランドなどにもよく見られるとおり、❍❍といえばA社、といった安定した認知を獲得することと経験曲線効果だ。

この言葉は本来、ノウハウや経験値の蓄積によって、結果として生産性が高まることを意味するが、そこにはトライアンドエラーを行ないやすくするメリットも包含している。予め絞り込まれた「テーマ」の中で、細分化されたテストによって、その結果の予測や、未着手範囲の明確化などが容易に得られる点だ。

刑事ドラマのケースで換言すれば、主人公を現場の警察官にするか、警察官僚にするかなどある程度までテストケースの組み合わせを作成し、シーケンシャルに、網羅的に確認していくことが可能になり、仮に今作の結果が芳しくなくとも検討すべきポイントなどを次回作以降へ反映させることが可能になる。

■テレビ朝日の独走は続くか
絞り込み戦略によって形成されたポジションはそう簡単には崩せない。ところがここにきて、後発で挑むプレイヤーがいる。「開運!なんでも鑑定団」、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」などバラエティ番組ではその独特の切り口やコンセプトで一定の評価を獲得し、年間平均視聴率では民放4位のフジテレビに肉薄しつつあるテレビ東京だ。

そのテレビ東京がこの7月から放映しているのが、小泉孝太郎主演の「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~」だ。空気の読めないKYキャリア警視と現場たたき上げの刑事が織りなす、ドタバタ感の中で非常に難解な事件を解き明かしていく刑事ドラマだ。2016年からの第2期になる。

放映されたばかりで、結論的に成功か否かはまだ未明だが、このタイトルには少なくとも先程述べた成功要因のうち2つを満たしている。小泉孝太郎、松下由樹、大杉漣といった高い経験値を誇る役者陣と、KYキャリア警視と現場たたき上げ刑事の組み合わせという明確なコンセプトの存在である。

他局の刑事ドラマが低く推移する中、バラエティ番組等で培った独自性を活かし、後発で乗り込むテレビ東京がどこまで食い込めるか、引き続きビジネスの観点から目を向けておきたい。


【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/six-view-point-new-business-model/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/japanet-style-in-real-estate-business/
■【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表



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