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あなたは、いまお勤めの会社を辞めて起業することを考えたことがあるだろうか。

中小企業庁の資料によると、実際に起業した「起業家」の数は1980年代から毎年20〜30万人、さらに起業したいと考えている「起業希望者」は、その4〜7倍いるとされている。

つまり、起業することを望みながらも実際に起業に踏み切る人は5〜8人に一人ということである。

■なぜ起業を希望するのか
筆者は現在、地方(静岡県)で自分の会社を経営する傍ら、行政と連携して起業支援活動をしている。

最も長く続いている活動は、成功した起業家をゲストに招いて起業のエピソードを聞き出す対談企画もので、毎月1回の開催でもう7年間継続している。ちなみに自主開催の期間を経て、現在は隣り合った藤枝市と島田市の二市共催でおこなわれている。

聴衆のほとんどは前述の起業希望者であり、月によって異なるが100名規模の動員がかかる回もあり、地方の企画としては盛況といえる。

起業を希望する動機は様々で、ポジティブなものでは自分の考えたビジネスモデルを実現したいとか、あるいは自分の能力に自信がある人がより高額な報酬を手にする為に独立起業する場合もある。

ネガティブなものとしては、組織に属するのが苦手だとか、中には会社をリストラされて再就職も出来そうもないので起業でもしようか、と考えるような人もいる。

いずれにしろ給料をもらっている立場から独立するにあたっては、当然に悩むことも多く、その答えを求めて起業支援の企画に足を運ぶ起業希望者は多い。そしてその方達がみなさん答えを見つけて起業に踏み切るかというとそんな事はないのは、冒頭のデータが示す通りである。

■起業希望者が悩む最大のリスク
言うまでもなく、起業はかなり高い確率で失敗する。国税庁調査によると、会社生存率は5年で約15%、つまり新しく設立された会社の85%は起業後5年以内に破たんしている。(これは会社のデータであり、会社設立に至らなかった個人レベルの破たんは今回は考慮しない。)

さて、脱サラした起業家がチャレンジに失敗した場合、その起業家は大きな負債を抱える可能性が高い。

設立したばかりの会社では、金融機関からの借入れにはほとんどの場合で経営者本人が個人保証している。そのため返済不能に陥った会社の破綻と個人の破産はほぼイコールといっていい。

また、起業が個人であっても会社であっても、そもそも収益がなければ自分の所得はゼロになる。起業後には会社勤めの時には必要なかった様々な支払い経費があり、自分の収入を後回しにしなければならない時もある。

もちろん会社に勤めていても倒産すれば収入がゼロになるが、ゼロからの再スタートが可能だ。しかし起業家は再起できないほど大きなマイナスを背負う場合がある。起業は、そのような経済面でのリスクを抜きには語れない。

■先輩起業家はどのようにしてリスクを克服して起業したか
起業希望者が破綻リスクを心配するのは当然のことながら、起業支援する側としては、それに対してどう答えればいいのだろうか。

現在52歳の筆者は26歳で自営業のキャリアをスタートしており、自ら若い起業希望者に答えるには少々鮮度が低下しており、そもそも当時と今とでは経済環境が異なりすぎる。そこで、毎月の対談企画のゲストに事前の質問シートを送る際に、必ず以下の質問を入れている。

Q.「起業するにあたって、最も悩んだことは何ですか?」

起業希望者たちが悩むリスクを考えれば、収入面の心配や借入金のリスクが挙げられそうだが、実際にはそういう回答が戻ってきたことはない。

この質問に対するもっとも多い回答は、大づかみに言って「特に悩まなかった」というものだ。その内容としては、夢中でやっていて考える間もなく、気がついたら嵐のような日々が始まっていた、というニュアンスのものが多い。

成功した起業家のほとんどは立ち止まることなく、起業希望者がもっとも心配する経済的なリスクを実は特に克服することもなく起業をスタートさせて、そして(筆者が対談した方達に限って言えば)そのまま破綻すること無く事業を継続させている。

■起業しない起業希望者にだけ見える河とは
実際の起業希望者の中には、何年も起業したいと言い続けながら、いつまでも起業しない人が少なくない。

筆者の印象では、その人たちにとっての起業家は、リスクという濁流が流れる河の向こう岸にいる人に見えているようだ。

しかし起業家は、リスクを克服して河を超えたわけではない。それどころか対談企画で話すほとんどの起業家は「河なんてどこにも無かった」と語る。

誤解を避ける為に付け加えると、これは障害がなかったという意味ではない。それどころか起業家には、起業前から想定外の様々な障害が間断なく襲いかかってくる。なにしろ想定外なので事前の準備が役に立たないことも多い。

それらを乗り越えて起業にこぎ着け、起業後も必死で困難に立ち向かう中では、過去に考えていた様々なリスク回避のためのプランは役に立たない。

つまり破綻の原因は、なにも事前の準備不足にあるわけではないということだ。準備が役に立たないような難局をどう乗り越えていくかで決まるのだ。

■起業希望者はどうすればいいのか
筆者は起業支援活動をしているが、そこで出会った人たちの誰にでも起業をすすめるような無責任なことはできない。何しろデータ上では会社設立後に85%も失敗するのだから。

しかし実際に起業する人は、他人のすすめなど必要とせず、いやむしろあらゆる反対を押し切って起業していく。

さて、もしもあなたが独立起業になかなか踏み切れないでいる起業希望者だとしたら、同じ起業希望者と情報交換することは避けた方がいい。同じような立場の人同士が、河をさらに深く険しいものに感じる会話をしているのを、実際によく見かける。それよりも実際に起業して成功している人と接してみてほしい。

成功している起業家にはきっと河なんて見えていなかったはずだが、想定外の障害を乗り越えてきているはずだ。できればそれを聞いた上で、その困難さに躊躇するようであれば、自分はまだ河の向こう岸に行く時期ではないと考えてみてはどうか。

ところで、残念ながら失敗してしまった起業家に対して河があったかどうかを訊いたことはない。つまり河が見えないかどうかは成功要因と言うわけではない。

起業に踏み切るところまではあくまでスタートであり、その後は起業希望者の5〜8人に一人の割合で起業した起業家の中から、更にわずか15%だけが生き残るデス・レースであることを理解した上で決断して頂きたい。

《参考記事》
■ドラマ「家売るオンナ」の三軒家万智にも売れない これからの地方の中古住宅 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49574910-20160919.html
■ポストSMAP争奪戦から考える 企業の価値創造 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49970392-20161110.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■「チェーン店の地方出店にはFC制導入を義務化してしまえ」という暴論をまじめに書いてみる (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49736835-20161010.html
■映画「LA LA LAND」に見る、夢の実現と経済的成功(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/50853160-20170314.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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