つなひき

10/1に今年も一斉に行われた新卒入社予定者の内定式。しかし大学教員による、企業都合で大切な授業を1日つぶされることへの不満の声も上がり、賛成と反対、さまざまな意見が寄せられています。どちらが正しいのか、そもそも落としどころはあるのでしょうか?

■空前の売り手市場・採用地獄
「内定式」と一般に呼ばれる催しが、新卒学生を採用する企業ではほぼすべて10/1に行われます。内定式といっても中身は形式的だったり、何が何でもやらなければならないほど重大ともいえないものも多いようです。入社式は普通4/1ですし、内定自体はそもそも何カ月も前にもらっている学生が多いし、中身もたいしたことないのであれば、いったい何のために行われるのでしょう。

ストレートにいえば、入社予定学生を拘束して内定辞退をさせないためと考えるのが現実だといえます。空前の採用環境において、企業はいかにして自社の採用計画を満たすかに腐心しています。特にB2Bと呼ばれる企業間取引中心の企業は学生の知名度がないため、B2Cと呼ばれる一般消費者向け製品・サービス供給企業に比べ、一部上場企業ですらも採用には苦労しています。

そんなたいへんな採用環境でせっかく確保できた内定者です。入社前に逃げられたのでは、そこまでにつぎ込んだ採用経費が全部パーになり、さらに場合によっては追加採用を再開しなければならないなど、たいへんなコストと時間とエネルギーが必要になります。


■10/1の意味
2016年新卒採用に関する「マイナビ企業新卒内定状況調査」によれば、新卒採用には1人当たり約50万円かかるとのこと。10人なら5百万、千人以上採用する大企業ともなれば、採用はとてつもない経費のかかる一大事業です。

1人50万といっても、現在の採用は、就活ナビなどのインターネットサービス使用が欠かせませんので、あくまで一人当たりのコストは平均50万でも、基本費用として百万以上初期投資がかかるのが普通です。さらには今このタイミングで、追加採用をしたところで、満足いく学生を採用できる可能性は限りなく低く、内定辞退を補てんすることは事実上不可能といえます。

この内定辞退が企業にとってがいかに深刻かということが、内定式には強く影響します。つまり「各社一斉に10/1に行う」ことで、他社へ逃げる道を防ぐ効果があるのです。もちろん内定式を過ぎても採用をしている会社もあるし、法的には内定式に出ようが何だろうが辞退は可能です。それでも少しでも内定辞退を防ぎたいという企業の努力の一環が10/1内定式といえるでしょう。

大学側、特に指導教員からすればまだ働いてもいない企業から、大切な授業時間や研究時間をわずかでも浸食されるのは困るのもわかります。まだ大学生であることが本業であって、就職するのは来年の話ですから、正当性という点では大学の先生側にあるといえます。


■迷惑かけてもやめない企業の事情
文科省の「平成29年度就職問題懇談会申合せについて」によれば、「授業、試験、留学、教育実習等と採用選考活動が重複する場合は、学生からの求めに応じ、個別的な採用選考日時の変更など必要な対応を明示的に行うこと。」とあります。大学の先生側の主張は間違っていません。

ただし、経営環境は建前だけでは済みません。内定承諾書や宣誓書を提出した後でも内定辞退をする学生はいるのです。もちろん学生本人にとっては悩みぬいた選択なのだろうと思いますが、ここ数年顕著に企業を悩ませるものに無断バックレがあります。内定受諾後に、内定を辞退することを告げもせず音信不通になることです。

企業側もサイレントお祈り等、一方的に学生をほったらかしにしているのでどっちもどっち?に見えるかも知れませんが、採用選考中と正式な契約取り交わし後の無断辞退では比較になりません。企業側が無断バックレで内定を破棄すれば、確実に裁判で負けます。つまり企業が学業の邪魔をしてまで10/1に集中させて内定式を行う原因は学生にあると考えて良いでしょう。


■悪いのはどっち?
大学もここ10年で大きく変化しています。今管理職であろう40代50代の人たち、特に文系だった人が学生だった頃と、今の学生は大分違います。私も夜通しアルバイトをした後授業に行って、そのまま熟睡していたクチですが、私の講義などでも今の子たちは実によく出席し、また私語はほとんどなく、課題も真面目に取り組む学生が圧倒的です。偏差値序列に関わらず、今の学生のまじめさは全国のさまざまな大学で、文系理系芸術系など全体に共通しています。

そんな学生に、内定先から正式行事として呼び出しがかかれば授業に出てなどいられないのは、今の学生のまじめさから当然です。しかしまじめであっても、進路に悩めばそれを大学の指導教員やキャリアセンターに相談することなく、自分一人かあるいは周囲の同じ学生だけに話して決めてしまい、一気に無断バックレという極端な行動に飛び抜ける者が出てくるのです。

「学業こそ本道」は間違いないことだと思いますが、一方で無断バックレを食らわされる企業にしてみれば、きれいごとで済む話ではありません。大学側は正論を盾に企業を責めるだけでなく、無謀な辞退の予防に協力する。企業は企業で、先生のお墨付きをもらえば内定式欠席も受け入れる(実際にこうした例はある)など、お互いに柔軟な対応ができないでしょうか。

問題は内定式ではなく、現在の就活・採用環境にあるのです。解決には企業も大学も、もちろん学生も話をすることが基本。真のコミュニケーション能力を発揮すべき時だと思います。


【参考記事】
■内定辞退とビジネスセンス
http://shachosan.rm-london.com/?eid=368309
■アピールの誤解 土下座で交際してくれることはありません2017
http://shachosan.rm-london.com/?eid=850527
■就活学生は親の言うことを聞くべきなのか(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/51751714-20170724.html
■就活における「建前とウソ」の違い。(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/50892223-20170321.html
■内定辞退の作法(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/46036751-20150826.html


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