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どんな人であれ、貴重な財産の一部を何らかの投資をする際には、慎重に検討するはずです。

そしてそれは中小企業であっても同じですし、むしろ中小企業こそ慎重に慎重を重ね、十分に計画を考えて投資に踏み切るはずです。

中小企業にとっては数千万に及ぶ設備投資等は、文字通り社運をかけた投資になる可能性が高いわけですから。

しかし、そのような一般的な考えを覆す様な報道がありました。

中小企業の設備投資を支援する「ものづくり補助金」に関して、資金回収できている企業の比率が1%に達していないことが分かった。財務省の調査で判明した。国の補助金で投資に必要なお金の3分の2を負担する仕組みのため、収益性を考えず安易に設備投資している可能性がある。

中略

たとえば14年度の投資実績は1万2319件だが、商品化できたのは4330件にとどまった。補助金を含めた「投資回収」に至った実績はわずか7件だった。財務省が2012年度からの3年間の状況を経済産業省の協力を得て調査した。

ものづくり補助金、投資回収1%にも未達 財務省調査 2017/11/22 日本経済新聞 電子版


筆者はこのことが、ものづくり補助金の意義を失わせる事実ではないと考えます。なお、ものづくり補助金は毎年のように正式名称が変わっていますが、混乱を避けるため、本稿ではものづくり補助金と表記します。

■投資の回収とは
資金回収できている企業の比率という指標で効果がないかのように言われていますが、そもそも投資資金の回収とは何を指すのでしょうか?

一般的に設備投資の意思決定を行う場合は、儲かったかどうかではなく、現金が回収できたかどうかで考えます。

この場合、1000万円の投資をしたタイミングで現金1000万円が出ていくので、儲かっているかどうかは別として、1000万円の現金が累計で回収できれば投資が回収できたとなるのです。

現金の回収ができているのに儲かったかどうかは別としてというと少しわかりにくいのですが、企業会計では現金と利益が完全にリンクするわけではないのでこのような言い方になります。

企業会計では、ちょっと難しい考え方なのですが、1000万円の機械が10年使えるとすれば、その機械への投資額は10年かけて費用化するとしています。

その場合、仮に100万円の粗利を現金としてその機械を使って回収したとしても、そこから100万円分の費用(1000万円の機械、1年分の費用)を計上しますので、儲けはプラスマイナス0になります。

こういった考え方を減価償却というのですが、投資の回収を考える際には前提として押さえておく必要がある知識になります。

なお、厳密に言えば、今年の100万円と未来の100万円の価値は金利分だけ異なるのですが、金利水準が極めて低い現状を踏まえ、議論を単純化するため、貨幣の時間価値については無視します。

■最長5年で設備投資を回収したかどうかが問われた
さて、再び調査結果に戻ります。

記事では2012年度から3年間分の実績を調べたという事ですから、現在が2017年度なので最長で5年で設備投資額が回収できた案件を調べたという事を言っていると考えられます。

また、投資資金の回収というわけですから、1500万円の工作機械を設備投資として購入し1000万円の補助金を受け取るような設備投資の場合であっても、1500万円を回収した場合を指していると考えられます。

■現実的な水準かどうか
では、投資の回収期間が5年以下というのは現実的な線なのでしょうか?

例えば、国税庁が出している「減価償却資産の耐用年数表」を見てみます。この表は、課税当局が「導入した設備はおおむねこの年数は持ちますので、この年数で減価償却してください。」としている表です。

つまり言い換えると、この表の年数でおおむね設備投資は回収できるという事を指しています。

その前提からこの表を見ていくと、ものづくり補助金の対象となりそうな設備で耐用年数が5年を下回っているのは数えるほどしかありません。

もちろん、補助金を支出するわけですから、一般的な水準よりも高い業績を上げてほしいという願いはわかります。しかし、課税当局の指針では耐用年数が5年以上としている設備が多いわけですから、5年以下というハードルは高すぎるのではないでしょうか?

■補助金の目的にも掲げられていません
また、ものづくり補助金の目的は以下のように掲げられています。

ものづくり中小企業・小規模事業者が実施する試作品の開発や設備投資等に要する経費の一部を補助することにより、ものづくり中小企業・小規模事業者の競争力強化を支援し、我が国製造業を支えるものづくり産業基盤の底上げを図るとともに、即効的な需要の喚起と好循環を促し、経済活性化を実現することを目的とします。
平成24年度ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金公募要領


このことから明らかなように、投資の回収は補助金の目的としては直接的に掲げられていません。

もちろん、投資するからには回収するのは当たり前の話なのですが、それを何年で回収するかは事業者の問題として委ねられているのです。

また、直近のものづくり補助金では、付加価値額を年率3%増加させるか、経常利益の額を年率1%増大させるという目標が、公表されている審査基準に盛り込まれているため、実質的に課せられています。しかし、調査対象となった2012年(平成24年度)段階のものづくり補助金募集時にはそのような条件はありませんでした。

そのため、当時言われていない切り口で効果検証を行い、その結果をもって補助金の効果が上がっていないと言われても後出しじゃんけんのような気がします。

■収益性を考えずに安易投資できる企業がどれだけあるか
また、本記事では

収益性を考えず安易に設備投資している可能性がある。
ものづくり補助金、投資回収1%にも未達 財務省調査 2017/11/22 日本経済新聞 電子版


としていますが、収益性を考えずに安易に設備投資を行っている可能性があるという分析には同意しかねます。

もちろん、投資した結果うまくいかないこともあるでしょう。しかし、当初掲げていない基準を持ち出してきて、その基準に達していないからと言って安易な設備投資を行っているなどというのはあまりにひどい言い草のように思われます。

ものづくり補助金は我が国の中小企業、小規模事業者が行う前向きな投資を後押しする数少ない補助金制度のひとつです。そして、生産性を改善し、働き方改革を成し遂げるためにも、必要な設備投資を補助していくことは有効であると考えられます。

そのため、もし効果検証を行うのであれば、当初の目的を達成したかどうかで検証をしていく必要があるのではないでしょうか。

このように、前提条件の設定に疑問がある以上、筆者は本調査結果はものづくり補助金の意義を失わせる事実ではないと考えます。


【参考記事】
■環境は変わるものですが商売を継続するためには基本がやっぱり大切です(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51978945-20170831.html
■翻訳アプリで接客時のデータを収集すれば、接客業で働く人が求められる能力が変わります。
http://okazakikeiei.com/2016/11/01/sekkyaku/
■ウォークマンの最上位モデルをあえて30万円といった高価格で販売するソニーの戦略とは
http://okazakikeiei.com/2016/09/09/sonywalk/
■江崎グリコ「カプリコのあたま」という一見すると奇抜な商品は、手堅く考えられたコンセプトで市場に投入されている。(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49426351-20160831.html
■自動運転技術が確立されたとき、中小企業にとってチャンスが訪れます(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48236024-20160331.html

岡崎よしひろ 中小企業診断士


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