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 スキー・スノーボードの2017/2018シーズンが早くも開幕した。近年の雪不足からこれほどまでに早くスキー場をオープンできるとは思ってもみなかったのか、長野県のあるスキー場では、雪はあるが平日の従業員確保が間に合わず、いくつかのコースをクローズするという事態も発生した。
 近年のスキー・スノーボード業界は急激な需要減に喘いでいたが、その中でも活路を見出し、なんとか踏みとどまるケースも現れ始めている。本稿では、日本のスキー・スノーボード文化の将来を担う可能性を秘めた、スキー場の生き残りをかけた競争戦略にフォーカスしてみたい。

 レジャー白書によると、スキー・スノーボード人口*1のピークは、1998年のおよそ1,800万人であったが、2016年には580万人まで低下している。18年間で68%も低下(=ピーク時のおよそ32%)したことになり、非常に大きな減少率を記録している。
 また、国内有数のスノーリゾートを抱える長野県に目を向けてみると、長野県内のスキー場延べ利用者数は、1992年の2,119万千人をピークに2016年には661万人となり、長野県全体としてもその減少率はおよそ69%と全国のスキー・スノーボード人口と同様の傾向であった。
一方、この利用者数の低下に対し、長野県のスキー場数を見てみると、1992年の110ヶ所から、2016年 85ヶ所に減少しているものの、その減少率はおよそ23%と、利用者数の減少率との比べ大きな乖離がある結果となった。

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出典:長野県観光部データより筆者作成

この需給バランスの大きな変化により、国内のスキー場経営は、少ないスキー・スノーボード人口を奪い合う非常に苦しい状況となり、平成27年1月より観光庁を中心に、スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会が行われ、官民連携をはじめとしたアクションプログラムの策定が進められている。このように、国内のスキー場経営は待ったなしの状態であるが、いくつかのスキー場からは、新しい試みと明るい話題も生まれ始めている。
*1:スキー・スノーボードを1年間に1回以上行った全国の人口


■長野県の主要スキー場の状況
 全国のスキー場の約20%を占めるスノーリゾート大国である長野県には、全国にも名だたるスキー場が数多く存在する。その中でも、多くの利用客数を誇る志賀高原、白馬八方尾根、野沢温泉にフォーカスしてみると、近年その状況が異なることがわかる。

 長野県全体のスキー場利用者数は、全国の動向と同様にここ10年間を見てみても減少傾向にある。また、バブル時代のスキーブームの火付け役ともいわれる映画「私をスキーに連れてって」の舞台にもなった、長野県の志賀高原は、利用者数が2007年のおよそ1,151万人から2016年には980万人へ低下し、リフト基数もピーク時のおよそ79%(1992年75基→2015年59基)となっている。志賀高原は日本最大のリフト数、コース数、面積を誇り、2,000mを超すゲレンデを持ち、良質な天然のパウダースノーを有する一大リゾートであるが、近年の利用状況は、長野県全体のスキー場利用者数の減少とほぼ同様に低迷の一途を辿っている。

 一方、白馬八方と野沢温泉は、ここ10年間で利用者数は増加傾向にあり、2007年から2016年の増加・減少率を比較すると、長野県と志賀高原は大きなマイナスである一方で、白馬八方と野沢温泉はプラスであった。同じ長野県北部に位置するこれらのスキー場の差はどこから来るのであろうか。

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出典:長野県観光部データより筆者作成

■白馬・野沢温泉の取り組み
 白馬村は、国内のスキー・スノーボード人口の低迷を補うため、外国人旅行客を積極的に取り込む戦略を選択した。人口約9千人の村に、冬シーズン宿泊客およそ10万人の外国人旅行客を受け入れ、北海道のニセコに匹敵する一大リゾートを築いている。また、白馬村自体も外国籍の住民を積極的に受け入れており、村の人口の6.2%(2017/1時点 長野県情報統計課)が外国籍であり、その割合は長野県内の市町村で最大である。

 加えて、外国籍住民と共に外国資本を積極的に受け入れることで、ペンション等の宿泊施設や旅行会社を経営する外国人も増加し、白馬の街並みにも変化が見られている。その他、国内資本としても、日本スキー場開発(株)が白馬八方をはじめとして白馬エリアの複数スキー場の運営を担い、海外の展示会への出展によるインバウンド集客、運営の効率化や大都市圏、メディアでの積極的な宣伝活動、スキー場のレストラン品質の向上、パウダーコースの新設、レンタル用品の品質向上など、上場企業による効率的な運営とサービス品質を高める活動を積極的に行っている。

 一方の野沢温泉は、その名が示す通り、スノーリゾートであるとともに温泉の街である。小さな民宿や旅館が軒を連ね、外湯が並ぶ情緒あふれる温泉街がその最大の特徴である。白馬村同様にこの野沢温泉においても、外国人旅行客の存在は大きく、人口はわずか3600人ほどの村に年数万人の外国人旅行客が訪れる。その中の大多数を占めるのが、ニセコや白馬同様にオーストラリアからの旅行客である。

 野沢温泉の魅力といえば、源泉の湧き出る麻釜(おがま)、外湯巡り、情緒あふれる温泉街、日本三大火祭りの一つである野沢温泉道祖神祭りなど、日本の伝統文化がその主な特徴である。外国人旅行客も、これら野沢温泉の街並みや温泉に惹かれて野沢温泉を訪れており、欧米系外国人の特徴である「泊食分離」のニーズにもスノーリゾートと街が一体となって対応している。また、小さな温泉街であるがゆえに、地元住民がスキー場運営や民宿・旅館経営、飲食店・土産店、温泉施設の管理・運営などを行っており、旅行客が地元住民との触れ合う機会も自然と多くなっている。同じ外国人旅行客を取り込む戦略は似通るが、北海道のニセコや白馬のような大きな資本による開発ではなく、日本の伝統文化を大切に保持し、その文化とともに築き上げたスノーリゾートが野沢温泉の魅力を支えている。

■志賀高原の将来展望
 前述の通り、志賀高原は日本最大のスノーリゾートであり、良質なパウダースノーを誇る、素晴らしいフィールドである。しかしながら、時代の流れとともに志賀高原ブランドとその競争力の低下は利用者データからも明らかになっている。全国のスキー・スノーボード需要が低迷する中において、同業界・同県に位置する日本を代表するスキー場の明暗を分けるのは、紛れもない戦略である。白馬八方尾根や野沢温泉など、長野県の有力スノーリゾートが独自の戦略を柱に需要低迷の中でもなんとか踏みとどまっている状況を傍目に、これからの志賀高原はどのような戦略を描き、復活の道を辿ることになるのだろうか。その昔、皆の憧れであった志賀高原が、また大きく羽ばたく姿を待たずにはいられない。


【参考記事】
■新規事業推進に経営者のイノベーションリテラシーが必要な理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51979260-20170831.html
■ANA・LCCのピーチ子会社化でますます進む独占。森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50741428-20170228.html
■アメリカン航空に学ぶ「捨てる」勇気(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50552975-20170131.html
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html

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