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何気なしにニュースを見ていたら、小型無人機ドローンが社内を飛行し、残業している社員のチェックや帰宅を促す、というニュースが目に入った。何かのジョークかと思ったのだが、どうやら真剣そのもののようだ。

■ドローンが職場を飛ぶ?!

NTT東日本などは7日、屋内用の小型無人機「ドローン」を使った社員の健康管理サービス「Tフレンド」を来年4月から試行提供し、10月から本格提供すると発表した。(中略)試験飛行ではドローンが「蛍の光」を流しながら設定ルートを飛行した。「カメラがついているので誰が残っているかが一目瞭然だ。人が言うよりもドローンの(飛ぶ)あの音で早く帰る雰囲気が作れたら」
Sankei Biz「ドローン使い「働き方改革」 NTT東など4月から提供」2017/12/08

「衛星利用測位システム(GPS)が使えない屋内で自律飛行するドローンを使った商用サービスは国内初」(上記記事)とのことであるが、ねんでも「初」であれば良いわけじゃないのにな・・・というのが率直な感想だ。くそ忙しい中ドローンが蛍の光を流しながら飛んできても、社員の感情を逆なでこそすれ、生産性はこれっぽっちも向上しないのではないだろうか。

■会社が残業削減に躍起になる理由
こうしたサービスが導入されるということは、相応のニーズを踏まえてのことであろう。近年の働き方改革の議論、またその前提にある過労自死が社会問題化したことにより、特に過重労働の問題については、かつて無いほど社会から非難の目が向けられている。

会社における働き方改革については、就活生においても重大な関心事だ。(株)マイナビが就職意識について行った調査によれば、就職観に最も近いものという問いに対して「楽しき働きたい」が29.7%、「個人の生活と仕事を両立したい」が26.2%という一方、「出世したい」が1.1%、「収入さえあれば良い」が0%という結果であった((株)マイナビ「2018年卒マイナビ大学生就職意識調査」2017年4月)。

また、行きたくない会社はどのような会社かというというという問いに対しては、「休日・休暇が取れない(少ない)会社」が25.7%、「残業が多い会社」が14.5%と、就活生がライフに悪影響を及ぼす環境を敬遠する傾向がうかがえる(前掲調査)。

さらには、2017年度新入社員を対象とした調査によれば、1月の残業時間について「30時間以上は許容できない」と男性62.7%、女性79.8%が回答している(産業能率大学「2017年度新入社員の会社生活調査」2017年6月)。自社の人材確保のためには、もはや無制限な残業を放置できない状況なのだ。

■残業撲滅のためにはドローンを飛ばすしかないのだろうか
とはいえ、残業を撲滅させるためにはドローンを飛ばすほかないのであろうか。ほかに有効な手立てはないのか。

働き方評論家で千葉商科大学教員の常見陽平氏は、残業がなくならない要因について、「そもそも仕事の絶対量が多いこと、突発的な仕事が発生すること、業務の繁閑が激しいことの3点」であると指摘し、「結局のところ、残業は経営者と労働者双方にとって「合理的である」という側面があるから」と述べる(Voice「常見陽平『なぜ、残業はなくならないのか』~著者に聞く」2017/12/6)。

仮に仕事量や業務フロー等の分析・見直しに着手せずドローンを飛ばしたとすれば、社員は渋々帰宅するかもしれないが業務自体が減るわけではない。結果として風呂敷(持ち帰り)残業が発生するなどの弊害が容易に予想される。業務資料の持ち帰りには情報漏洩のリスクもある他、残業代の不払い等の問題にも発生することとなるのだ。

勿論、中には残業代欲しさに居残る社員や、単にアウトプットが劣る社員もいるだろう。しかしながら、しかるべき上司からの声掛けや指導をカットしてドローンを飛ばすという方法は、管理監督者や人事担当者の怠慢とも解釈されかねない行為ではないだろうか。

■ドローンの前に上司が声掛けする効果
平成29年版過労死等防止対策白書によれば、『労働時間を正確に把握すること』が、「残業時間の減少」、「年休取得日数の増加」、「メンタルヘルスの状態の良好化」に資するという。加えて、残業を行う場合に『所属長が残業を承認する』ことが、「残業時間の減少」、「メンタルヘルスの状態の良好化」に資するとともに、『所属長の指示による残業』は、「残業時間の減少」により寄与することを指摘する(厚生労働省「平成29年版過労死等防止対策白書」2017年10月)。

これは、残業について、労働者が自分の裁量で勝手に行うのでなく、上司が業務の状況を把握し適切に残業を命じ承認する方が、生産性が上がるということを示唆している。もちろん現実問題として、一人の上司が複数の部下の進捗の細部までを逐一把握することは困難であるが、上司が「特定の部下のみ連日残業している」「ある部下について最近パフォーマンスが下がっているようだ」等の状況をつぶさに発見し、適切な指導を行うことは効果的なのだ。

ドローンの飛行が労働時間の正確な把握に資するということなのかもしれないが、地道に上司が声掛けや気遣いを行い、部下の体調面を含めた状態を把握するという一見非効率な行為には、社員のメンタルヘルスを守る意味もある。

2016年のサラリーマン川柳対象は「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」であった。熟年離婚の悲哀をうたったものだが、終業時間後にドローンが飛行することで、「社員ドローン」と人材不足にならないといいのだが。

【参考記事】
■「給料より休暇が大事」は「自分ファースト」なのか。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/21650519.html
■「男性の育休取得率100%」は良いことなのか。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/23246014.html
■「新入社員が2日で辞めた」を防ぐ術は、NHK歌のお兄さん交代に学べ。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/51056896-20170412.html
■「就活に有利な資格ってありますか?」と問われたら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50823928-20170310.html
■国会議員の皆さん。朝5時から国会前に並ばなくて良いので、しっかり睡眠を取っていい仕事してください。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/52366900-20171102.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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