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公取は、第四銀行と北越銀行(いずれも本店は新潟県)の統合を認めました。これはホッとしました。しかし、長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかFGと同県最大の十八銀行の統合計画に対しては、競争制限効果が大きすぎるとして許可を出していません。公取の仕事は、独占禁止法の遵守を求める事ですから、それが組織としては「正しい判断」なのかも知れませんが、政府の一員として日本経済全体を高い見地から眺め、今少し大局的な判断が欲しい所です。

■低成長で貸出量が伸びず、金利引下競争で地銀は疲弊
景気は回復していますが、低成長は続いています。これが地銀にとっては非常に苦しいのです。ゼロ成長だと、普通の企業にとっては「売り上げも利益も前年並み」なのですが、地銀はゼロ成長だとビジネスが縮んでしまうのです。ゼロ成長だと、企業は減価償却の範囲でしか設備投資をしませんから、設備投資資金を銀行から借りる必要がありません。そればかりか、利益のうちで配当されなかった部分は銀行借り入れの返済に使われてしまうのです。

借り手が銀行借入を返済するので、銀行は融資残高を維持しようとして、貸出金利を引下げます。他行の客を奪おう、というわけです。しかし、他行も同様に金利を引き下げるので、貸出は思ったほど増えません。貸出金利を1%から0.5%に下げたとすると、銀行にとっては「売値を半分にした」わけですが、借り手にとっては「設備投資全体のコストが僅かに下がった」程度の話ですから、資金需要が激増する事は考えにくいのです。

業界の外から資金需要を持ってくる事も考えにくいでしょう。牛丼屋の安売り競争であれば、客をラーメン屋から奪ってくる事が出来ますが、資金調達を銀行借入以外で行っている企業がほとんど無いので、銀行同士が貸出金利引下競争をしても、業界全体として銀行貸出が増えるわけでは無いのです。これは、銀行にとって辛い話です。

■ゼロ金利政策も地銀には大いに痛手
多くの銀行では、預金部門と貸出部門の収益を管理しています。預金部門が集めた資金を市場金利(銀行間金利、国債利回り等)で経理部に貸し、貸出部門は貸出に必要な資金を経理部から市場金利で借りる、というわけです。市場金利が下がると、預金部門は大変苦しくなります。預金を集めて経理部に貸してもゼロ金利(最近ではマイナス金利)しか受け取れないからです。そうなると、人件費等々のコスト分だけ自動的に赤字になってしまうのです。

貸出部門が儲けていれば良いのですが、上記のように貸出金利引下競争を繰り広げているので、市場金利に僅かな金利を上乗せして貸出を行っており、利益は決して大きくありません。

景気が比較的好調な今でさえも儲かっていない、というのは由々しき事です。銀行は、好況時に大いに儲けて利益を溜め込み、次の不況時に不良債権が増加しても大丈夫なだけ体力を蓄えておくビジネスなのに、それが出来ていないからです。

■独占利潤を貪れる状況は考えにくい
県内の地銀が合併して高いシェアを持ったとしても、せいぜい金利引下の過当競争が沈静化する程度でしょう。独占利潤を貪ろうとすれば、隣県の地銀やメガバンク、信金等々が融資攻勢をかけてくるに決まっているからです。

将来、景気が本格的に盛り上がり、メガバンクや信金なども資金需要が十分あるので、県内で合併地銀が独占利潤を貪っても融資攻勢に出てこないようになれば、独占の弊害が生じるでしょう。しかし、そのような状況は、予想可能な将来には来そうもありません。

そうこうしている間にフィンテックなどが発達し、遠隔地の金融機関でも容易に県内の借り手に融資が出来るようになるかも知れません。そうなれば、独占利潤など夢のまた夢です。

それでも独占利潤が心配なのであれば、こう考えましょう。「合併地銀が独占利潤を貪れるほど日本経済が活況を呈している事は、大変にメデタイ事である。合併地銀に高い金利を支払っても借金して設備投資をしたいのだから、借り手もハッピーに違いない」と。

■合併を認めない弊害は深刻かも
合併による弊害は、それほど深刻ではなさそうですが、一方で合併を認めないと深刻な弊害が生じるかも知れません。銀行が赤字を続けていると、資金仲介機能が衰えてくるからです。「金融は経済の血液なのだ」という事を人々が思い知るような事態に陥る可能性があるのです。

銀行には、自己資本比率規制がかけられています。複雑な規制ですが、単純化すれば、銀行は自己資本(バランスシートの右下部分。株主資本とも純資産とも呼ばれる)の25倍までしか貸してはいけない、という規制です。

銀行が赤字になると、自己資本が減りますから、貸しても良い金額がその25倍減ります。その分は、銀行が貸し渋り(または貸し剝がし)をすることになるのです。借り手としては、材料を仕入れる資金や給料を支払う資金が借りられずに苦境に陥るかも知れません。バブル崩壊後の金融危機時に全国的に発生した事が、地銀の過当競争による疲弊で再び大規模に発生するかも知れないのです。

そうなれば、決算状況の悪い企業から順番に貸し渋りを受けて倒産していくかも知れません。そうなれば、「銀行が独占利潤を貪って、業容が拡大していく成長企業が高い金利を払って設備投資をする」よりも遥かに影響は深刻でしょう。

合併を認めても認めなくても問題は生じ得ます。政府としては、どちらの可能性が高く、どちらの場合に影響が深刻になりそうかを考えた上で、地銀の合併を認めるか否かを判断すべきです。そして、筆者の結論は、「地銀の合併は原則としてすべて認めるべき」です。

【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■老後の生活は1億円必用だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49185650-20160728.html
■銀行という職場の体験記: 銀行員というもの (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12149822107.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html
■国債暴落シミュレーション:Xデーのパニック(塚崎公義 大学教授)
https://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12323525543.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授


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