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■一時金受取か、年金受取か
退職金のもらい方の損得については、すでに税金面などでいろいろ言われている。ここでは、それも含めてほかの要素からも考えてみたい。

一般的に退職金のもらい方には、一時金でもらう方法と年金でもらう方法、そしてこの2つを併せた方法がある。「一時金受取」では、定年退職時に一括で退職金をもらう。「年金受取」では、10年とか20年に分けて退職年金としてもらう(終身もある)。いずれも受取額は所得税等を引かれた後の金額となる。そこでまずは、税金面で両者を比較してみる。

簡単な例として、勤続30年の会社員が60歳定年で2000万円の退職金をもらう場合を考えてみる。退職一時金でもらう場合は退職時点で支給、退職年金でもらう場合は5年据置きの65歳から15年に分割しての支給とする。一時金受取は退職所得となり、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」の算式による退職所得控除がある(20年以下は「勤続年数×40万円」)。煩雑になるので計算結果のみ出すと、所得税額は15万2500円、手取額は1984万7500円となる。

一方、退職年金にも雑所得として公的年金等控除がある。控除額は年齢別(65歳未満か65歳以上か)と年金収入額によって変わる。65歳以上で年金収入額が120万円までなら控除後の税金はかからない。上記例で運用率を考えずに65歳からの退職年金が15年あると、所得税額は合計で10万円、手取額は1990万円である。もっとも、これはあくまで退職年金のみの計算なので、公的年金(国民年金、厚生年金等)を含めると収入・控除とも増え、結果は違ってくる。

■運用面についても考えてみる
一時金受取方式の方が一度に多く控除されて得するように見えるが、この試算に限って言えば、年金収入が退職金分だけなら年金受取方式の方が手取額は多くなる。ただし勤続年数、退職金額、受取年数、さらに再雇用などの給与や公的年金も絡めると、一概にどちらが有利とは言えず、個々のケースによって変わってくる。手取額の差のみをもって有利不利とするかは本人次第である。それよりも、自分にとっての効用の面から考えてみたらどうだろう。

受取額の比較では、税金面のほかに運用面についても考えておきたい。一時金受取では、その全額または一部を自分で運用しながら、元本(退職金)と運用益を合わせた金額から年金月額を引き落としていけばいい。うまくすれば(?)この運用益だけで年金分を賄い、元本を減らさないことも可能ではある。単純計算で元本2000万円なら6%運用で年120万円の年金額分が引き出せ、元本にあまり手を付けずにおくことができる。

もちろん運用は本人がするので、運用益を出すこともできるが、運用損を出して元本を早く減らす羽目になることもある。それを避けるために金融機関の誘いでそれなりの運用手数料を払ってファンドラップなどのお任せ運用に頼ったり、「6%運用なら、ファンドのポートフォリオ運用で十分可能ですよ」と言われて、投資経験がさほどないのに多額の退職金を預けてしまったりすることもありうる。

その行為自体は無碍に責められないが、損失が出た時の心構えが十分にできているかということが大事になる。損失額だけでは済まず、悪質な投資詐欺の口車に乗って、投資額全部持っていかれる例も後を絶たない。そういう点を考えれば、年金受取では退職金の元手を低率ではあるが支給元で運用しながら支給してくれるので、安心ではある。個人の運用では、低率運用でも難しいことがあるからだ。

■現実生活面でも考えてみる
とはいえ、一時金受取も現実生活的なメリットがある。住宅ローンや子の教育費が残っていたり、家のリフォームや親の介護費用など、一度に多額の支出が必要な場合は一時金の方が助かる。まさに遠く(将来)のお金より、近く(目先)のお金である。しかしこの場合も、一度に出る支出によって老後の生活費がその分ひっ迫する可能性があるので注意すべきである。

一方、年金受取では、高額なお金が一度に振り込まれて舞い上がって、見る間に散在してしまうこともない。その代わり、これまでのようにつましく、派手ではないが安心して老後の生活を考えていくこともできる。15年なら15年、その期間の退職年金額は保証されているわけだし、終身年金なら前の会社が破綻でもしない限り(これとて最近は確約できないが)、死ぬまで受取金額について心配しないですむ。このように一時金受取にせよ、年金受取にせよ、双方にメリットがあるわけで、どのようにもらうかは、本人のライフスタイルにかかっている。

■「今」もらうか、「後」でもらうか
ところで、退職金についてはもう一つ別のもらい方がある。勤続中に「今」もらうか、「後」でもらうかの選択である。「後」でもらうというのは、現役中から見ての将来、つまりこれまでの定年退職時点にもらう方法である。「今」というのは、勤続中における現在、つまり毎月の給与時に上乗せしてもらう方法、いわゆる退職金の「前払い」である。

毎月の生活費、個人的な趣味代、資格取得費や学術費などにお金がかかる人にとっては、この前払方式の方がメリットがある。しかし、目先の飲食や遊興費、単なる嗜好品費用に多額を当て込んでしまうと、将来の老後生活費が形成されにくいというデメリットも大いにある。人は、目の前の「おやつ」の誘惑に弱いのは、行動経済学により実証済みである。

ただし、前払方式には別の大きな効用がある。確定拠出年金の拠出額を会社が社員の給与に上乗せする方式で、いわゆる「選択型」の確定拠出年金と言われるものである。同じ退職金の前払いでも、前記のように単に給与の上乗せ形式でもらってしまうと、つい目先のお金として使ってしまう。ところが同じ前払いでも、これを会社が退職給付の積立として社員に上乗せ支給することで、その前払額は確定拠出年金の拠出額として、各社員の口座に積み立てられていく。だから前払いと言っても、厳密には給与ではなく、社員にとっては退職積立金であり、退職金のための運用元金なのである。

■前払方式で退職金をつくる
「選択型」と言われるのは、この前払退職金を「給与」として受け取るか、「積立」(拠出金)とするか選択できるからだ。「給与」であれば、もらったそばから好きなように使うことができるが、「積立」であれば原則60歳まで使うことはできない。その代わり、この積立額を自分で運用することが可能となる。それに給与扱いと違って、将来の受取時には税金の優遇がある。

ただし、注意すべきこともある。「積立」(拠出金)方式では、前払額は報酬扱いとはならないので、その額には厚生年金保険料はかからない分、将来の厚生年金の給付額がそれだけ減額されてしまう。それでも差引計算すると、年金保険料の削減分の方が大きいのでトータルでは手取額が多くなる。なにより自分で自分の退職金を運用する、言ってみれば自分の退職金を決められるという自覚と責任が出てくる。確かに、運用益も出れば運用損も出るかもしれない。目減りが嫌なら、預貯金での積立てもできる。いずれにしても、ライフプランをつくることの一歩となる。

このように、もらうのは「今」(前払い)ではあるが、使うのは「後」(老後)という形式での選択がこれから増えるのではないかと思う。

【参考記事】
■ノーベル経済学者に学ぶ年金のもらい方 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/52512579-20171126.html
■目先の損得にとらわれない これからの年金、早くもらう方法と多くもらう方法 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/41566040-20141026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■税の優遇だけでは語れない確定拠出年金のメリット(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49633037-20160929.html
■老後の年金格差をなくすために(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/51567662-20170628.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表




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