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 レジャー白書によると、日本のスキー・スノーボード人口は、1998年のおよそ1,800万人から、2016年には580万人まで激減している。その利用者数の減少と共に、栄華を誇った志賀高原が、凋落の道を辿っている。バブル期の誰もが憧れたスキー場の名門は復活できるのか。凋落の原因から、復活の狼煙をあげるための道を探ってみたい。

■志賀高原の現状
 志賀高原は日本最大のリフト数、コース数、面積を誇り、2,000mを超すゲレンデを持ち、良質な天然のパウダースノーを有する一大リゾートである。しかし、バブル時代のスキー場の象徴も例外ではなく、全国のスキー・スノーボード人口の減少と共に利用者の減少に見舞われている。

 近年も利用者の減少に歯止めはかからず、2007年のおよそ1,151万人から2016年には980万人へ低下し、ますます低迷の一途を辿っている。それに合わせ、リフト基数もピーク時のおよそ79%(1992年75基→2015年59基)となり、スキー場には椅子を外されたリフトの残骸が残されている。リフトが減らされても、シーズン中の週末でさえリフト待ちはほぼ皆無に等しく、ゲレンデにいる人はまばらで、駐車場にも余裕がある。栄華を誇ったあの混雑は見る影もない。

また、ホテルの閉鎖も相次いでいる。名門志賀高原ホテルの閉鎖に始まり、リフト発祥の地、志賀高原の玄関口の丸池の象徴でもあった丸池観光ホテルは2010年に閉館。その他にも、志賀プリンスホテル、笠岳ホテル、あめやホテル、サンライズ法坂等、解体費用が捻出できないのか、風雪にさらされて無残な姿が残されている。

■凋落の原因
 志賀高原の凋落の原因は、第一に、利用者ニーズの変化に対応できなかったことにある。志賀高原は、スキー場の収容人数が大きいため、比較的規模が大きなホテルが多い。大きなホテルの効率を高めようとすると、営業戦略としては団体客を取り込み、サービスオペレーションもそれに合わせることになる。

顧客ニーズは時代と共に変化しており、これまでは修学旅行やツアーなどの団体客向けのオペレーションノウハウが蓄積されてきた。そのため、夕食時間が決められた大食堂で、大人数に提供ができるメニューが選ばれ、一度に多くの数をさばくことに磨きをかけてきた。しかし、個々人のニーズが変化する時代に、このような画一的なサービスは時代遅れと言わざるを得ない。加えて、ハード面(施設)が団体客用に作られているため、ニーズの変化にソフトのみならずハード面でも容易に対応ができないジレンマを抱えている。

 第二の原因は、明確なターゲットの不在である。日本のスキー・スノーボード人口が激減する中でも、同じ長野県の白馬や野沢温泉エリアは多くの外国人をターゲットに、利用者数の減少に歯止めをかけ、近年の利用者は増加傾向にある。白馬や野沢温泉では、オーストラリアをはじめとする外国人利用客をターゲットとして定め、積極的な誘致活動や彼らの好むサービスの構築やゲレンデ作りを進めた。
 
その他、長野県内でも、ブランシュたかやまスキーリゾートでは、平日も利用できるシニア層にターゲットを絞り、シニアの集まる場所作りを行うことで集客効果を高めるという他では見られない非常にユニークな戦略をとるスキー場も存在する。隣県の新潟県では、今シーズンオープンしたロッテのアライリゾートが、1日券を8,000円に設定し、高級ホテルと共に一大リゾート地として富裕層をターゲットとして定めている。

このようにそれぞれの戦略に基づいて明確なターゲットを定めることで、そのターゲットに向けた適切な投資や誘致活動、サービスの構築を行うことが競争戦略の基本であるが、志賀高原には明確なターゲットが定められてはいないように思える。単価の低い団体客の受け入ればかりを行うホテルがある一方で、リフト券は長野県内でも高水準であるという矛盾も抱えている。

 第三の原因は、市場ニーズの変化に対応するための利害関係者達の利権問題である。志賀高原は、志賀高原は集落全体で山を共有する入会地である。地元の人たちが苦労して入植し、水を引いてきた歴史があり、水の利用権などで約2,000万円の初期費用を求め、1億~2億円という廃屋の処理費用も新規参入業者に求めるなど、地元以外を拒絶する姿勢が存在してきた。

2016年にようやく地元以外の外部資本(地域経済活性化支援機構(REVIC))を受け入れることが決まったが、それも30年ぶりであるという。外部の力を受け入れ、耳を傾ける姿勢がなければ、人口の減少が著しい地元山ノ内町の人材と資本では、新しい変化へ対応ができないことは明白である。ましてや、日本最大級の規模を誇るスノーリゾートの復権には、非常に大きな資本が必要となるはずである。

■復権の狼煙
 志賀高原が、以前のように日本を代表するスキーリゾートとなるためには、個別の利害に耳を傾けるのではなく、将来の志賀高原全体の行く末を考えた、スキー場と宿泊施設、街づくりが一体化した戦略が求められる。特に、スキー場全体としてどのような利用者をターゲットとするのかは、ターゲットとしない利用者を「捨てる」ことが必要となる。

また、ホテルや旅館の経営においても、自社はどのような顧客をターゲットにし、ターゲットのための専門サービスを、ハードとソフトの両面において洗練させる必要がある。高単価を求めて個人客をターゲットと定めれば、個々人のニーズに合った食事の提供(例えば部屋食、メニューの選択など)や、個別の送迎、スキーのプライベートレッスン、広大な志賀高原のスノーガイド等、画一的なサービスや人員では対応できないため、既存のオペレーションからは大きな改革が必要となる。

 先日、山ノ内町はアメリカコドラド州のベイルとの友好協定を結んだことを発表したが、ベイルのようなスノーリゾートに学ぶべきは、リゾート経営における覚悟の在り方である。ベイルのリフト券は$100をゆうに越え、明確に富裕層をターゲットとして定めることで、富裕層が求める高級ホテル、ショッピング施設などを兼ね備え、世界中からスキー客を集めている。これは、富裕層以外の利用客を「捨てた」ということでもある。

もし、志賀高原がベイルと同様に世界中の富裕層をターゲットとするのであれば、サービスや利用客の質を担保するために、リフト券や宿泊施設を高額にせざるを得なくなるため、地元利用客を「捨てる」という覚悟が必要となる。他方、地元民に優しいスキー場を目指すのであれば、高級路線は捨てざるを得ない。志賀高原が昔の栄華を取り戻し、復活の狼煙をあげるために学ぶべきは、何を捨てるかの覚悟ではないだろうか。未来の日本のスノーリゾートに、明るい志賀高原の姿が残されることを願っている。

【参考記事】
■スキー場の競争戦略~生き残りをかけた戦い~(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/52532940-20171130.html
■ロッテアライリゾートの挑戦 ~最高のプレミアムマウンテンリゾート~(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/52881665-20180131.html
■アメリカン航空に学ぶ「捨てる」勇気(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50552975-20170131.html
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html



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