中嶋よしふみ0618

先日、下着メーカー大手ワコールが製作した広告が炎上し、謝罪・削除に追い込まれた。

広告では男性用のTシャツを「東北美人に後ろから抱かれているような感じ」と表現した。そして同様の内容をワコールの公式アカウントがツイートしたことから拡散され、女性をモノ扱いした差別ではないか? 偏見に満ちたセクハラのような内容だと批判を受け、結果としてツイートと広告の両方が削除された。

削除・謝罪については、この程度で文句を言うなんておかしいという意見も多数あったが、この広告が差別や偏見、セクハラにあたるかは一旦別にしても、問題のある広告であることは間違いない。そしてその「問題」が結果として批判・炎上につながった。

過去に炎上した広告として、サントリーのビール「頂」、キリンの「午後の紅茶」(午後ティー女子)、鹿児島県・志布志のウナギ少女の宣伝動画、そしてワコールと、いずれも共通点がある。女性をネタにしていること、そしてネット上で展開していることだ。

度重なる炎上を受けてトラブル防止のためにダイバーシティ(多様性)の観点からチェックした方が良いという意見もあり、すでにそのような仕組みを取り入れているケースもあると聞く。

ただ、これらの炎上している宣伝・広告を見て分かることは、ダイバーシティとかそんな「高度」な話をする以前の段階で、これらの広告が「手抜き」で作られているという問題だ。

ネット広告はテレビや雑誌の広告と比べて明らかに炎上数が多い。現在日本でインターネットに使われる広告費は急激に増加し、ラジオ、雑誌、新聞を超えテレビに次いで第二位となっている。一方でクオリティの低さから炎上するものは多く、ステルスマーケティングや違法サイトの広告配信など法的・倫理的に問題を抱えているケースも少なくない。そして炎上した広告はいずれも女性がらみだ。

なぜネット広告は炎上しやすいのか? なぜ女性をネタにすると炎上するのか? これは決して偶然ではない。

二つの共通点から浮かび上がるものは単純にこれらの広告や企業が炎上したとか、そこまで目くじらを立てる必要は無いといったレベルの話ではなく、企業が真剣に考えるべき、そして取り組むべき課題がある。FPとしてビジネスの観点から、そしてウェブメディア編集長として表現という観点から、複合的に考えたい。

■問題となったのは記事広告。
今回問題となったワコールの広告は、テレビCMや紙の雑誌に掲載される写真とコピーで構成される広告とは異なり「記事広告」と呼ばれるものだ。文字通り記事の体裁をとった広告であり、最近ではウェブメディアにとって重要な収入源となっている。

一時はステマとして問題になったものもあったが、現在はまともなメディアであれば広告・PR・AD・スポンサードといった表記が必ず付けられている。目にしたことがある人も多いだろう。記事広告はネイティブ広告とかスポンサードコンテンツ、ブランドコンテンツなど、様々な呼び名がある(細かな定義の違いもあるが割愛)。

ワコールの記事広告では、掲載したFORZASTYLEの編集長とワコールのMD(マーチャンダイザー・商品の企画から販売戦略まで担当する人)の対談形式となっている。

記事広告で取り扱っている男性用の下着は時期的なこともあり、通気性や速乾性などが強調されている機能性下着だ。

記事の内容はワコールのMDが商品の良さを編集長にプレゼンする形式でこれといって凝った作りではない。最初は商品の良さについて会話していたものが、段々肌触りがエロい、といったおかしな表現が紛れ込んでくる。

この程度であれば問題にならなかったと思うが、最後は「確かに触るとひんやり冷たくて、すごく気持ちいいですね。東北美人に後ろから抱かれているような感じ。」といった発言が出ている。

■ワコールの宣伝広告費は100億円以上。
これを手抜きと言わざるを得ないのは、テレビCMであればこのような表現が使われることは絶対にないからだ。ワコールは大手下着メーカーとして100億円以上の宣伝広告費を毎年のように支出している。上場企業としてこの金額は上位100位以内に入る。

ワコールの近年の売り上げは2000億円程度、おおよそ5%程度を広告につぎ込んでいる。宣伝広告はワコールにとって極めて大きな支出であり、同時に本来であればここまでしょうもない「ポカ」をやらかすようないい加減な企業ではないはずだ。それでもこのような質の低い広告が表に出てしまった理由は、ネットだから、そして予算が低いから、という以外に考えられない。

テレビCMであれば、人気タレント等を採用すれば制作費用だけで数千万円から億単位のコストがかかり、そしてCMを流すための枠にも多額の予算がかかる。一方でネット広告は単価が非常に低い。テレビCMと比べればケタが一つも二つも低いことはごく普通だろう。

今回の記事広告は男性二人の対談を会議室のような場所で行っている。なおかつ対談の一方が自社の社員ということであれば、カメラマンやライターのギャラを考慮しても制作コストだけを考えると100万円もかかっているかどうか、といったところか(記事広告ではなく「記事」ならば10万円でもおつりが来る)。

そして問題となった「確かに触るとひんやり冷たくて、すごく気持ちいいですね。東北美人に後ろから抱かれているような感じ」という表現については、はっきり言って何を言いたいのか全く意味が分からない。ワコールの広告が炎上して削除・謝罪につながったと報じるニュースには、この程度で炎上なんておかしいといった多数のコメントに混ざって「意味が分からない」というコメントも散見された。

■トンチンカンなコメントはなぜ放置されたのか?
「ひんやり冷たい」ものを「女性に抱かれている」と表現するのは極めて違和感がある。間違っていると言っても良いレベルだ。これが百歩譲ってユニクロのヒートテックのように温かさを感じる下着であれば人間に例えることはまだ理解出来なくもないが、さらっとした通気性や速乾性がウリであれば、商品の内容とあまりに齟齬がある。テレビCMのコピーであれば、候補にすらあがらないだろう。

短いコピーであれば機能を強調するのか、イメージ・感覚に訴えるのか、徹底的に吟味される(複数のCMを作るなら使い分けを考えるだろう)。「~ような」と何かに例えるのであれば何に例えるのが最も商品の特性を伝えて、なおかつ売り上げにつながるか、広告代理店のコピーライターと企業が必死になって考えるだろう。

「東北美人に後ろから抱かれているような感じ」という表現を使うなら、なぜ北海道でも九州でもなく東北なのか、なぜ男性でなく女性なのか、「東北美人」にはどんな意味を込めているのか、と突き詰めて考えればおかしな点が大量に浮かぶ。

おそらく対談の最中に、東北美人→秋田美人→肌がキレイ→肌触りが良い、といった関連性でとっさに思い付いただけだと思われるが、あまりに遠回りで意味が分からない。あえて遠回りにすることで「どういう意味?」と立ち止まらせることも一つのテクニックではあるが、そこまで考えて作られた表現とも思えない。

今回の表現はレトリック(修辞技法)で言えば、比喩(ひゆ)とか擬人法にあたる。比喩の中でも「~のような」という表現は直喩(ちょくゆ)と言う。こういった表現の選択についても、この商品の表現に最適かどうか、多額のコストをかけた宣伝であれば当然のことながら検討されただろう。

ライブ感と言えば格好良く聞こえるが、対談のその場のノリでなんとなく出て来た話をそのまま文字に起こし、チェックした人も特に気にせずそのまま載せ、SNSで話題になりそうなのでその部分を抜き出して公式アカウントでつぶやいた……と一体どこで誰がどのような基準でチェックしているのか、よく分からないまま表に出てきてしまったのが今回問題になった表現だ。ワコールのエライ人も社員も、これは本当にウチが作ったのか?と炎上してから広告を見てずっこけたに違いない。

この記事広告がまともな手間とコストをかけて制作されていれば、東北美人というワードは商品にそぐわないコメントとして真っ先に削除されたはずだ。

結局この広告が問題になった理由は、表現に問題があったからというのは表面的な話でしかなく、手間もコストもかけずに手を抜いて作っているから、というのが根本的な原因だろう。

■「手抜き」は必ず炎上する。
先日、西日本鉄道が社内に掲示した「無防備力も、女子力なんだと思います。」というコピーと女児の写真を組み合わせたポスターが多数の批判を受けた。同社は内容に問題があったとしてポスターを撤去・謝罪した。一般的な意味ではもちろん、痴漢の被害が多数発生する車内に貼られたことを考えれば確かにありえない表現だろう(さすがにこのニュースには撤去は当然というコメントが多数付いていた)。

報道によれば設立110周年記念としてポスターが144種類も作られたうちの1枚だという。媒体はネットではないが、これも多数のポスターが作られたことによって1枚1枚にあてられる労力が大幅に削られた、つまり結果として制作やチェック体制に手抜きがあったのと同じ状態になっていたと思われる。

広告ではないが、同じく「女性ネタ」に関する記事で、「フラれたという理由で有給を取得するのは非常識」「体調を崩したり風邪薬を飲んで生理を遅らせる方法」といった内容のネット記事が炎上し、謝罪・削除に至ったこともある。いずれも専門家が書いたものではなく下請けの編集プロダクションが作成した記事だ。

このトラブルも「有給休暇は常識・非常識の問題ではなく法律に基づくもので弁護士や社労士に取材すべき」「生理の話は産婦人科医に聞くべき」といった常識的な判断すら出来ないライターに記事を書かせていた(あるいは専門家への確認をおこたった)、つまり根っこに「手抜き」の問題がある。

手抜き問題のさらに根本には、ネットはお金をかけなくてもいいという無意識の勘違いが潜んでいる。一言でいえば「手抜きやめて手間とお金をかけろ」というだけの話だ。

■女性ネタで炎上する理由。
もう一つの共通点としてあげた「女性ネタ」はどこで関係しているのか? これもまた手抜きの一部ともいえるかもしれない。

女性はそれだけで一つのコンテンツになりうる。コンビニに並ぶ雑誌の多くは表紙が女性になっている。ネットのバナー広告でも明らかに男性より女性が使われているケースは多い。いずれも目にとまりやすいからだ。

最初にあげた、サントリーのビール「頂」、キリンの「午後の紅茶」(午後ティー女子)、鹿児島県・志布志市のウナギ少女の宣伝動画、そしてワコールの東北美女と、なぜ広告では女性がネタにされやすいのか。理由はごく単純で、その方が目に付けきやすいからだ。そしてそのような効果自体は全く否定しない。しかしそれが炎上する理由は、「必然性」が全く無いからだ。

ワコールの東北美人がウンヌンという表現は意味不明でトンチンカンだと指摘したが、対談による言葉のやり取りだけで女性差別とかモノ扱いしているとまで批判されている。しかし、もしワコールの主力商品である女性用下着の広告であれば下着姿の女性が出てもなんら問題にならないだろう。なぜなら下着の宣伝に下着姿の女性が出ることには「必然性」があるからだ。

「頂」では性的な印象を想起させるとしてその表現が批判されたが、恋愛や不倫を扱ったドラマならば性的な表現も(よっぽど酷いものでなければ)批判はされないだろう。なぜならそこには必然性があるからだ。

志布志市の広告動画は、養殖ウナギが特産であることを表現するためにスクール水着の少女を登場させ、その子をプールで育て、最後にはこの子はウナギでした、というストーリーになっている。この動画も「まるで女性監禁を思わせるおぞましい内容」と批判を受けた。自分が見た限り映像自体は非常にキレイで問題があるとは思わなかったが、とても食欲のわくような内容ではない。つまりウチの市で養殖したウナギをたくさん食べて欲しい、ウナギ養殖のメッカであることを知って欲しいという意図と、ウナギを少女として表現することは明らかにズレが生じている。

キリンの午後ティー女子については自社の顧客をバカにしているとして炎上したが、なぜ自社の大切な顧客の、しかも男子ではなく女子をコケにするような表現をしたのか意味不明であるとして批判を受けた。意味不明、つまりあえて女性を批判する必然性が全く無い。

※企業の広告が炎上するたびに「これは狙い通りの炎上マーケティング」などと指摘する人もいるが、まともな企業がコストをかけて作った広告を短期間で取り下げ、リリースで謝罪するような事態を狙うわけが無い。上場企業であれば株価にも影響が出かねない。トラブル発生後に担当社員が実は炎上マーケティングで狙い通りなんですよ、などと経営者に説明したら、良くて懲戒免職、場合によっては損害賠償請求を食らうだろう。

■「つまらない」から炎上する。
結局はどれもこれもが必然性を考慮せず、不自然、つまらない、表現としてレベルが低い……と、女性をネタにすれば手間もコストもかけずにアクセスを集められるという安易な発想で作られている。あえて違和感のある組み合わせで注目を集めることも表現方法の一つだが、いずれもそこまで考えて作られたものとも思えない。要するに手抜きだ。そしてその手抜きが不要な批判を招いている。

テレビCMを流す、新聞に全面広告をうつといった場合は多かれ少なかれ企業のブランディングも含めていると思うが、一部のネット広告はブランディングどころか企業価値を毀損しても良いから目立ってやろうという意図すら感じさせる。

女性をネタにするから炎上するのでなく、「女性をネタにすれば楽にアクセスを集められるだろう」という安易な発想が炎上の元、ということになる。

炎上を防ぐためにダイバーシティの観点からチェックを云々……などと考える前に、まずはネット広告に手間とコストをかけてテレビや雑誌、新聞に掲載するものと同等以上のクオリティのコンテンツを作る必要がある。

その上で広告・記事など分野を問わず表現に関わる以上、多少の批判を受けようとも軽々しく謝罪や削除をしないという覚悟とプライドが今後は企業にも制作者に求められる。

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