0828_野口俊晴

平成29年の簡易生命表(厚生労働省 平成30年7月発表)によると、日本人の平均寿命は男81.09歳、女87.26歳で過去最高となり、国際比較でも男女とも世界3位以内に入った。

同資料によれば、今85歳の人は男女とも90歳を超えても生きられる(男91.26歳、女93.39歳)。女性の平均寿命が85歳となって(平成17年)まだ10年余、それがあと7年も8年も生きられるのだ。現在20代、30代の人にとって「100歳プラン」は現実味を帯びてきている。

そうなると今の平均寿命による「85歳プラン」とは生き方が変わってきてしまう。「85歳プラン」と「100歳プラン」では何が違うのか。

■寿命とお金の「帳尻合わせ」ではないプランが必要
ファイナンシャル・プランナー(FP)のアドバイスで、85歳になって寿命と同時に資金がゼロとなる「帳尻合わせプラン」で安心する人はいない。「ところで平均寿命が来た時、あといくらお金が必要ですか」となる。死ぬその時にいくらのお金があればいいか、という一見奇妙な問いかけである。

決して財産を遺したいという気持ちだけではない。自分の生が尽きていくのと同時進行でお金がゼロに近づくのを見ていて、平静でいられる人はいない。何億、何十億の資産を持つ人でも同じだ。

「85歳プラン」も「100歳プラン」もそのことは変わらない。寿命に向かって1秒1秒落ちる砂時計の砂がお金に見えて、心の中で通帳残高を数えている。だから命とお金の帳尻合わせでいくらお金があればいいかと心配する。これはまったく自然な心理である。今や90歳を超えても死なないとなると、帳尻合わせではない「100歳プラン」の資産設計が必要となる。

普通のサラリーマンが余生30年、40年を年金のほかでまかなうとしたら、早い時期からの資産運用が必要となる。引退後に働かない選択をする場合は、ある程度の運用リスクを取ることになる。必要以上にリスクを取りたくなければ、そのぶん働く期間を長くすることで安定的な収入確保となる。

ただし働くといっても貯蓄に余裕がないと、60歳以降は特に不本意で低賃金、肉体的にも精神的にもきつい仕事で死ぬまで働かざるを得ないことになる。お金がなくなる、老骨無残に働き続ける、病気になれば食べるものも住むところもない、これが老後のリスクである。

■猛獣と漂流した少年の話
では、寿命85歳と100歳とでは、リスクと付き合う期間と働く期間が単純に長くなるというだけだろうか。

それを考える前に、何年か前に公開された映画の話をしたい。猛獣と少年が同じライフボートで7~8カ月も漂流する話だ。動物園経営の両親と乗船した少年が嵐で荒海にひとり投げ出された。幸運にも縋りついたライフボートの船倉にはわずかだが食糧と水がある。だが、とてつもないリスクが潜んでいた。動物園のトラが流されて乗っていたのだ。食われてしまえば、その時に死は訪れる。

少年ははじめ、備蓄の食糧と水をトラに与えた。食糧はすぐ尽き、手作りの銛と筏で海の獲物を捕らえ、トラに分けた。トラがエサに食らいついているうちは安全だ。やがて密林の海岸に漂着し、猛獣は人間(少年)に仲間意識のようなまなざしを向け、密林に消えて行った。少年は、そこの地元民に救出された。

漂流少年はなぜ生き永らえたか。リスクが可視化(トラと同居)される中、それを排除するのではなく(到底排除できる相手ではない)、いかに共存しようかと対処したからだろう。それを諦めれば食われるか、ともに餓死する。

■老後のリスクを目の前に可視化する
例えば老後リスクの可視化といっても、「貧窮老人」という文字や絵を部屋に貼っておくことではない。30代40代から定年、そしてその後の期間まで、まずはキャッシュフロー表(お金の収支予測の流れ)を作ってみるのがよい。自分でやるのが無理なら、FPなどに依頼してもいい。その中に病気や介護、生活破綻などの非常時のリスク要素を加えていく。

どこでリスクが現実化し、いつ資金が枯渇し生活が破綻するかを金額で把握する。これがリスクの可視化の一歩である。いわば、リスク(トラ)との同居である。数字は生き物。表の上では単なる赤い文字だが、現実的にはお金がない、食えない、住めないという血肉のある数字である。そこから抜け出る対策を中長期に向けて考えていかなければならない。

では「100歳プラン」だとリスクと同居する期間が長くなるのだろうか。トラと少年のことを思い出してほしい。猛獣と同居なんて精神的にも肉体的にも、そう長くはもたない。

■リスクと同居する期間がカギとなる
「100歳プラン」でも、「85歳プラン」とリスク同居期間は変わらない。一般にはどちらも現役時代から引退(定年退職)する60歳までと考える。この期間でリスクを見つめ、リスクを回避する対策を練る。この期間の長さは同じでも、「100歳プラン」では密度が断然違ってくるはずだ。リスクと一緒にいればいるほど、積極的に生きる術を探るようになる。

「85歳プラン」では、引退から70歳くらいまで再雇用(再就職)で働くのも珍しくなくなった。そうすることで生活資金が急激に減るリスクを緩和できる。「100年プラン」では、この期間の長さが伸びるのだ。公的年金の受給開始が将来70歳になるとして、70歳はおろか75歳以上まで働くのは普通になるだろう。60歳からあと15年以上も働くことになる。

働かない選択肢は別として、60歳からは従来のように「生活資金の足し」という受動的な雇用でなく、スキルを維持した積極的な労働(独立も含めて)がもっと可能になる。思いのほか低賃金にもならず、お金だけを気にせずに充実した期間が過ごせるようになる。この期間が充実すれば、残り25年(75歳~100歳)は資金にも余裕ができ、孤独や病気をむやみに恐れなくなる。100歳になるまで毎日、「あといくらお金がある?」と気にすることもなくなるだろう。

こんなにうまくいくかは、将来のことだから正直わからない。ただ言えるのは、「100年プラン」を生きるには、20代、30代の早い段階で自分のライフプランを意識することにかかっているということだ。運用にしろ、働き方にしろ、人生が伸びるほど早めにリスクと付き合った方がよい。そうすればリスクも飼いならされ、いずれ凪ぐ時が来るかもしれない。

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野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

【プロフィール】
個別の金融資産の推奨・販売をしないアドバイザリー型のFP。個人のリタイアメントプランを実現するための運用設計およびトータルなライフプランの提案。ほかに働き方、お金に関するアドバイスの提供。

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