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ソフトバンクグループは2018年4~6月期の決算発表会で、定型作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI(人工知能)の社内における取り組みを紹介し、「約2000件ものRPA、AI関連プロジェクトを並行して走らせている」と説明した。

RPAは、これまで人間が手作業で行ってきたルーティン業務をシステム(ロボット)に代行処理してもらうことにより、自動化や効率化を図る取り組みを指す。「ロボット」と呼称しているが、ペッパー君のような実際のロボットではなく、システム内部で稼働するものを指す。

たとえば「Excelの企業一覧をもとに、毎日株価を取得して一覧表を更新する」といったWebやExcelなどをまたいで行う単純な作業を、登録した手順通りに自動で処理してくれるものだ。人間が繰り返し行っていた作業をシステムが代替することで、大幅な効率化が図れる。

ソフトバンクをはじめとしてRPA領域に参入するプレイヤーも増え、三井住友銀行や第一生命保険などの大手企業も導入して大幅な業務時間の削減に成功した。これまで工場などと比べると自動化や効率化が遅れていたオフィス業務の領域でも、本格的に人間の仕事の一部がシステムに代替される時代に突入したといえる。

働き方改革の一環として注目を集めるRPAであるが、現段階では定型的な作業をシステムで代替する仕組みにすぎないため、その活用領域は思ったほど広くはない。全体のフローを見ながら戦略的に導入しなければ、人間よりも融通の利かない処理工程を抱えるだけでかえって効率化を妨げる。システムは決められた作業をこなすことには強いが、人間のように柔軟に判断してやり方を変えることはできないからだ。

業務改善コンサルタントとして、多数の企業の現場を見てきた筆者の視点からRPA導入時のポイントを挙げてみたい。

■業務フローの整理
バックオフィスの業務を整理することができていない企業は驚くほど多い。工場のラインのような目に見える処理工程ではないため、業務を1つの流れとしてではなく点で捉えてしまうのである。規模が大きくなればなるほど業務は細分化されてしまうため、その傾向は強い。

たとえば請求書の発行という業務1つをとっても「発注・受注→役務の提供→検収→請求金額の確定→請求書の発行→着金確認→経理記帳」という大きな流れの中の1つである。この前後の流れを意識せずにRPAを導入しようとすると、例外処理ばかりが膨らみ、自動化は遅々として進まない。

■属人化の排除
ベテランスタッフによる職人芸のような処理に依存している企業も多い。優秀で周りからも頼りにされているが、言語化が苦手という人もバックオフィスには多い。その人に聞かなければ何も分からないという状態では属人化がどんどんと進行していく。

ある大企業の経理部では20年以上在籍するAさんがすべての処理に関わり、Aさんがいなければ何も進まない状態にあった。Aさんは満足に休暇を取ることもできないし、残業時間も突出してAさんだけが多い。ある日Aさんが体調を崩して倒れてしまい、経理部はもちろんのこと会社全体が大混乱に陥ってしまった。

これは誰でも名前を知っているような大手企業の話であるが、どこの企業のバックオフィスも多かれ少なかれ属人化された処理は存在する。その人にしか分からない・できない業務が存在する状態には大きなリスクがある。このような状態でRPAの導入を模索したとしても、Aさんの業務の大半はRPAに代替することはできないため、業務の一部が自動化されるだけで大した効果は発揮できないだろう。

どんなに高価で優秀なRPAツールを導入したとしても業務フロー全体を整備してくれるわけでもなければ、人間のように柔軟に処理をしてくれるわけでもない。業務フロー全体を整備しながら属人化を排除していくことが、RPA導入の前の地ならしとして非常に重要である。

■RPAを導入する前に業務の仕組み化
トヨタ自動車では、生産ラインの脇で担当者がストップウォッチを片手に、常に生産性を高めるために知恵を絞っているというのは有名な話であるが、バックオフィスではこのような話はほとんど聞いたことがない。マニュアルも業務フローも改善されずに放置されているようでは、生産性も高まらず、RPAもまともに導入することはできない。

RPAはこれまで人間が対応するしかなかった業務プロセスの一部を自動化してくれる素晴らしいツールであるが、どんな企業にも即座に導入できるわけではない。

業務フローやマニュアルの整備が後回しになっていると属人化がどんどん進行し、RPAも導入できず、毎日忙しいのに利益が全く上がらず給料も上がらないというヤバイ職場になってしまう。RPAや自動化という言葉に踊らされる前に、まずは目の前の業務をきちんと改善していける仕組みを整える方が重要である。

2014年、英オックスフォード大学のAI研究者マイケル・A・オズボーン准教授らによる論文『雇用の未来 コンピュータ化によって仕事は失われるのか(THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?)』では、今後10〜20年程度で米国労働省が定めた702の仕事のうち約47%がなくなる可能性が高いと指摘し、世界中に衝撃を与えた。

しかし今ある仕事の半分がなくなったとしても、新しい技術の普及は新たな仕事や雇用も生み出す。一方でAIやロボットを活用することができない企業は競争に敗れて消滅してしまうだろう。本当に心配すべきは効率化によって雇用が減ることよりも、AIやロボットを導入する下地としての仕組み化ができないことである、と考えるべきだ。

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武内俊介 税理士、業務改善コンサルタント

【プロフィール】
ベンチャーでの管理本部の経験が長く、ITビジネスに強い税理士・コンサルタント。ITの活用と業務フロー再設計でバックオフィスを効率化するコンサルティングをメインで提供している。ほぼ全てをリモート対応中。

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