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セブン―イレブン・ジャパンが都内店舗にセミセルフレジを試験導入すると報道されています。

セブン―イレブン・ジャパンは利用客が専用の支払機に代金を入れて精算する「セミセルフレジ」を都内の直営店に導入した。初期のテスト段階で、今後の拡大計画などは未定という。利用客の待ち時間削減や従業員の作業負荷の軽減につながるかを検証するとみられる。
都内店舗に「セミセルフ」 セブン、レジを試験導入  2018/08/17 日本経済新聞


狙いは利用客の待ち時間削減と、従業員の作業負荷の軽減です。セブンイレブンに行って、レジに並ぶと、品出し等の作業をされている店員さんが作業の手を止めてレジを打ってくれます。

作業中断は業務上かなりの負荷となっているはずなので、顧客自身がレジを打ってくれれば作業負荷が減ると考えられます。また、少量の買い物であれば、わざわざ店員さんがレジを打ってくれるのを待つ必要は無く、サッと短時間で買い物ができるメリットも生まれます。

結果として商品の補充がスムーズになれば店員さんが楽になるだけでなく、お客さんにとっても棚に商品がしっかり並んでいることは当然メリットであり、それは売上アップにもつながるはずです。一言で説明すれば「生産性の向上」です。

■生産性向上が叫ばれている理由は
では、なぜセミセルフレジ設置のような対応が必要になったのでしょうか?

現在、生産性の向上があちこちで叫ばれています。生産性の向上自体は新しい概念ではありませんが、近年特に話題になっています。

企業が労働人口の減少という社会全体の課題を解決するために、生産性向上に目覚めたわけではありません。そうではなく、企業自身の足元の問題に対処するための取り組みとして生産性向上に取り組んでいると考えられます。

具体的には、求人難によって人を雇用するのが難しくなっており、また人を雇うためのコストが上昇傾向を続けているため、労働生産性の向上を図って同じ成果をより少人数で出せるようにする必要があるからです

■人を雇うのは難しい時代になった
厚生労働省の資料によれば、平成21年に有効求人倍率が底を打った後、一貫してその数字は上昇していて、平成30年7月時点では1.63倍になっています。企業が求人を出せば働く人を簡単に集めることができたのは昔の話です。

企業を取り巻く環境の変化に対応するためにより少ない人数・労働時間でより多くの成果を生み出す必要が出てきているのです。

■設備投資は労働生産性向上の本命ですが……
では、どのようにして労働生産性を高めていけばいいのでしょうか。

一般に、設備投資を行えば労働生産性が高まります。例えば、建設現場に油圧ショベルカーを導入する、工場において自動選別機を導入する等、うまく業務に当てはまる設備投資ができれば、抜本的な省力化が可能となります。

今回取り上げたようなセミセルフレジの導入も、うまくいけば抜本的な省力化につながります。

このような対策を積み重ねることで、大きな生産性向上を果たせると考えられます。

では経営資源が比較的少ない中小企業ではどうでしょうか。経営資源が少ないため、新たな設備投資は難しいかもしれません。このような設備投資は大企業だからできるとも言えます。

■設備投資以外にもできることはある
しかし、あきらめてしまったら何の改善も生まれません。筆者は中小企業でもできることはあり、必ずしも大規模な設備投資は必要ないと考えます。

その理由は今回のセブンイレブンの報道にヒントがあります。冒頭で取り上げた報道では、利用客の待ち時間削減や従業員の作業負荷の軽減につながるかを検証するとされています。

当たり前のことが報道されているようですが、レジでの接客を無くすことで、顧客の待ち時間削減を果たす。つまり、仕事を減らしつつ、顧客に対しての価値の向上も狙っていると報道されているのです。

小売業においてレジでの接客の品質は、顧客への提供価値で大きな部分を占めていると考えられています。そのため、丁寧な接客、笑顔での接客が大切だと多くの小売業で言われます。いわば一つの常識になっているわけです。

しかし、セブン―イレブン・ジャパンはレジの接客をしないことがむしろ顧客の価値を高める可能性があると考えたわけです。

実際に結果を見てみないと何とも言えませんが、このような当たり前のことを省く発想を持てれば、大きな改善が生まれる可能性があるのです。

これはどのような業種であっても当てはまる発想法です。思い切ってやらないことを決めるということですから。

あなたの会社でお客様のためになると考えられている常識はありますか。ひょっとしたらその常識は有効性を失っているかもしれません。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。

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