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司法書士である私の事務所には、住宅に関する相談が事務所に持ち込まれる。長年住んでいた賃貸マンションを退去したところ、高額なリフォーム費用の請求を受け困っているという相談はとても多い。

その賃貸マンションにどれくらいの家賃を支払ったかざっと計算をすることもある。家賃が10万円のマンションに15年住んでいれば、1800万円にもなる。

相談中にこのような計算をしてみると、相談者からは必ずと言っていいほど「あぁ…これなら買っておけばよかったのになぁ」という声が漏れる。これは不動産業者のセースルトークと同じだが、賃料の支払いを続けていくのはバカバカしいと思うのは当然だろう。

持ち家と賃貸はどちらが得か。昔から頻繁に議論されているテーマだ。ここでは「物件の修繕」という観点から持ち家のケース、賃貸のケースを比較して考えてみたい。

■持ち家の修繕は誰がする?
「持ち家と賃貸はどちらが得か」という議論では、単純に家賃とローンの支払額だけで語られることも多い。しかし、実際に生活を続けるなかで、「損得」の計算には含まれていなかった想定外のトラブルに見舞われることもある。いったんトラブルに見舞われると、一生懸命計算した損得シュミュレーションがご破産となってしまう。

家を買う、家を借りることは、頻繁に行うことでなく経験値が絶対的に低い。さらに一回当たりの取引に必要な額も高額だ。この「トラブルについてどう考えるか」という視点は、損得の計算をすることと同じくらい、実は重要な視点である。

契約をする前にしっかりとした準備を行うことで回避できるトラブルもある。


持ち家は自分自身で修繕を行っていかねばならない。給湯器でいえば、使い方にもよるだろうが、10年から15年もすれば寿命となるケースが多く、その度に数十万円の出費を強いられることになる。給湯器以外でも自宅の設備関係は長年住んでいけば古くなっていくわけで、屋根や外壁などの修繕費用の負担が出てくることになる。

一軒家の場合は、マンションと異なり、自分自身で修繕計画を立てていかなければならない。月々の支払額のほか、修繕にかかる費用はしっかり確認をしておく必要がある。

■マンションの修繕積立金は足りているか?
マンションでは共用部分については所有者が加入する管理組合にて修繕計画を立てて修繕を行っていく。

「マンションの修繕積立金は値上がりするべきである」という記事でも書いたが、マンション建築当時の修繕計画が甘く、いざ修繕を行いたくても費用が不足しているケースも多い。修繕時に不足する資金を一時金として徴収を検討するところもある。

マンションを購入した時点では20代・30代であったとしても、所有者層は年々高齢化していくわけで、いざ修繕が目前に迫った時点で不足する資金を何とかしようとしても、修繕積立金の値上げや一時金の支払いに反対する住民が多くて苦労する……ということもある。

こうなると、持ち家とは言いつつ、自分一人では解決できない問題にも発展していく。十分な修繕ができなければ資産価値も損なわれる。修繕積立金の設定については購入時点では少なければ少ないほど嬉しいものだが、どれほどしっかりとした根拠に基づいて設定されているか、事前にしっかり確認をしておく必要がある。

少し古い資料にはなるが、国土交通省では修繕積立金のガイドラインを公表している(国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。あくまで一つの指針であって、マンションの設備によっても大きく異なることもある。購入予定のマンションについては、個別のケースとして専門家のアドバイスを求めるなどして確認をしてみるとよいだろう。

■賃貸物件の修繕は家主がしてくれるか?
では一方で賃貸ではどうか。これは原則的に家主負担となる。一般的な賃貸住宅の契約では小規模な修繕(電球などの消耗品)については入居者負担とされていることが多いが、建物自体や設備関係については家主負担となる。家賃収入を得ている代わりに居住に適した物件を提供する義務を負っているわけである。

法律的には家主が修繕義務を負っているのだが、実は賃貸住宅の修繕をめぐるトラブルというのは少なくない。本来家主が修繕すべきものであっても、多額の費用負担が発生するものについては「修繕をしてほしい」と、何度となく訴えても修繕に応じてくれないこともある。なかには「入居者の使い方が悪かった」と修繕義務をめぐってトラブルとなるケースまである。

修繕をめぐるトラブルは、私も多数の相談を受けてきたが、解決まで長期化してしまう傾向にある。

例えば、水漏れの事故があったとしよう。上階の部屋の契約者が水漏れを起こしたものか、建物の設備(配管など)から漏水しているのか、実は特定するのは容易ではない。こうなると、誰に責任があるのか特定するだけでも一苦労で、簡単に家主が修繕してくれるものと考えていたのになかなか話が進まない……といった形でトラブルになってしまう。賃貸住宅であるからといって、修繕をめぐるトラブルとは無縁ではないのだ。

■賃貸住宅の修繕トラブルの難しさ
賃貸住宅の修繕をめぐって適切な対応があるかどうかは、管理状況によるのだが、問題の所在は様々だ。管理会社の対応が悪いケースもあれば、管理会社としては適切な処理をしたいと考えてもオーナーが修繕についてウンと言わないケースもあるので厄介だ。

賃貸住宅の場合は、法的な義務があったとしても、それを実現するための諸手続きがうまくいかない、時間と費用がかかるという問題に直面することがある。これ自体は法制度の不備といえる。何ら落ち度のない入居者からすると釈然としない思いは残るが、トラブルを長期化させるよりも早急に引っ越しなどを検討する方が現実的な解決となることもある。

このあたりは、物件探しの段階ではなかなか見えにくく、住んでみないとわからないという難しさがある。

■賃貸住宅ではトラブルの回避がしやすいともいえる
とはいえ、持ち家と賃貸住宅の比較という面からみれば、賃貸住宅についていえば、仮にトラブルに巻き込まれたとしても引っ越しさえしてしまえばよいという、割り切りができれば解決できるともいえる。持ち家を購入しているとこうはいかない。このように考えるとリスクを回避しやすいのは賃貸住宅だともいえる。

もちろん、これだけをもって賃貸住宅の方がいいですよ、というわけではないが、持ち家を選択する場合は、リスクとなりえることは何かをしっかり考え、できる限りの備えを検討することが大切だ。

持ち家にするか、賃貸にするか、これから住宅を選ぶ際の一つの視点にして頂ければ幸いである。

【関連記事】
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及川修平 司法書士

【プロフィール】
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件にも取り組む。そのほか、地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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