1128_塚崎公義

2018年11月28日、参議院で出入国管理法の改正法案が審議入りしました。政府はこの改正法案を通じ、外国人の単純労働者の受け入れを拡大しようとしています。これは日本人労働者にとって大問題です。広く日本人労働者が自分の問題と捉えて真剣に議論する事が必要とされているのです。加えて、日本のマクロ経済にとっても悪影響が懸念されます。


■バブル崩壊後の日本経済の諸問題を労働力不足が解決しつつある
冒頭で明確にしておきたいことは、労働力不足は労働者にとっては素晴らしい状況だという事です。「不足」というと困ったことのようなイメージですが、労働力不足が困るのは経営者です。労働者にとっては、少ない労働力を多くの企業が奪い合って、賃金が吊り上がっていくと期待できます。「労働力不足」と呼ばずに「仕事潤沢」とでも呼びたい気分です。

外国人労働者の受け入れについては、研究者や技術者などの「高度人材」に限るべきで、単純労働者の受け入れは認めるべきではありません。

バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は失業問題に悩まされて来ました。失業者が不幸である事は言うまでもありません。所得の問題だけではなく、自分が世の中に必要とされていないといった尊厳の問題まで生じかねません。

失業者が多いから企業は労働力を囲い込む必要がなく、正社員を非正規労働者に置き換える事が出来ました。それにより大量のワーキング・プア(正社員になれずに非正規労働者として生計を立てざるを得ない人々)が発生しました。

ブラック企業も失業者が大勢いるから存続できていたのです。学生は「失業者や非正規労働者よりはブラック企業の正社員」を選択し、ブラック企業の正社員は「辞めれば失業者か非正規労働者だから辞めない」ので、企業は好きなだけ労働者を酷使できたのです。

少子高齢化と景気回復により、ようやく労働力の需給が引き締まって来たため、失業者がほとんどいなくなり、高齢者や子育て中の主婦でも仕事が見つかるようになりました。労働力需給の逼迫を反映して非正規労働者の時給が上がり、ワーキング・プアの生活が少しずつマシなものとなりつつあります。

ブラック企業もホワイト化を迫られています。ブラックのままでは学生が入社せず社員も退職していくからです。

■外国人の単純労働者を受け入れると、良い流れが逆転してしまう
外国人の単純労働者を受け入れると、せっかく改善しはじめた諸問題が逆回転してしまいます。ちなみに、本稿は「外国人の賃金は日本人並みである」との前提で論じます。外国人の単純労働者が日本人より安い賃金で働くならば、彼らが日本人労働者を貧しくする事は論じるまでもないからです。

ブラック企業は、社員が退職しようとすると「君が辞めても、我が社は外国人の単純労働者を雇うから構わないよ。それより、君は失業しても良いのか?」と脅す事が可能になります。そうなれば、ブラック企業は再び労働者を好きなだけ酷使するようになるでしょう。

ワーキング・プアの時給も上がらなくなり、もしかすると下がるかも知れません。求人が100人、求職者が50人ならば、企業が競い合う事で賃金が上がるでしょう。しかしそこに外国人の単純労働者が50人求職してしまうと、現状の給料のまま上がらなくなってしまうからです。もしかして外国人の単純労働者が60人加わると、日本人の賃金は下がってしまうかも知れません。

1日4時間しか働けないような高齢者や子育て中の主婦は仕事を失うでしょう。企業はフルタイムで働ける外国人の単純労働者を優先的に雇うからです。次の不況期には日本人の若手男性労働者の中からも失業者が出るでしょう。

そう考えると、外国人の単純労働者を受け入れると日本人労働者が不幸になりそうです。

■マクロ経済にも悪影響
労働力不足であれば、企業は省力化投資をせざるを得ないので、日本経済が効率化します。しかし外国人の単純労働者を受け入れてしまうと、企業は「省力化投資より外国人の単純労働者を雇う方が安い」と考えるので日本経済が効率化するチャンスを失ってしまいます。

外国人の単純労働者を大勢受け入れると、次の不況期に失業が増えるので、景気対策の公共投資をしなければなりません。財政赤字が増えてしまうでしょう。財政に与える悪影響はそれだけではありません。

少子高齢化による労働力不足が深刻化すれば「増税して景気が悪化しても失業者が増えないから、気楽に増税できる」といった時代が来るかも知れないのに、外国人の単純労働者を受け入れてしまうと「増税して景気が悪くなると失業者が増えてしまうから、増税はあきらめよう」という事になりかねないのです。

■農産物は輸入し、介護保険料は引き上げよう
農業が労働者不足なら、外国人の単純労働者を受け入れるのではなく、農産物を輸入すれば済む話です。日本より土地が広い国で安く作った農産物を輸入することで、日本人は農産物を安く食べられますし、外国人もわざわざ日本まで働きに行かず自国で農業に従事できます。

介護は、介護士の給料が安すぎる事が労働力不足の根本原因なので、介護士の給料を上げる必要があります。そのための費用は、国民が広く介護保険料の引き上げを受け入れる事によって賄うしかありません。介護保険料の値上げが嫌だからと言って介護労働者を低賃金で「搾取」するのは一般国民のエゴだと言うべきでしょう。

それ以外の業種については、労働力需給の逼迫を映じて非正規労働者の時給が上昇を続け、同一労働同一賃金に近づいていく事を期待しましょう。

きっとバブル崩壊後の長期低迷期に日本経済が悩んできた諸問題が解決して、素晴らしい世界が待っているはずです。入管法改正案が通らなければ、ですが。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】
日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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