0212_後藤かずや

アルバイト従業員による不適切動画が相次いで問題となっている。ある企業では解雇にとどまらず損害賠償請求などの法的措置を検討するという。

こうした行為は「バカッター」や「バイトテロ」などと呼ばれ、アルバイト従業員個人のモラルやネットリテラシーの低下が原因とされがちだ。しかし、問題の所在を個人にのみ結び付けるような議論はやや矮小化しすぎではないだろうか。

■バカッター騒動とは
バカッター騒動の例は、次のようなものだ。

『調理中の魚をゴミ箱に捨てるなどの様子を撮影した、いわゆる「不適切動画」を投稿したアルバイト従業員2人に対して、雇用主だった「くら寿司」を運営するくらコーポレーションが法的措置をとると高らかに宣言した。
~中略~
おでんのしらたきを口に入れて出すなどの動画を投稿した従業員2人に対して、セブン-イレブンも「法的措置を含む厳正な処分」を検討することを明らかにした。
「バイトテロ」は訴えても抑止できない、3つの理由 IT mediaビジネスonline 2019/02/12』

報道された動画を見ると、確かにアルバイト従業員が調理場や深夜帯の勤務中に問題行動をとる様子がうかがえる。楽しそうにはしゃぐ様子からは、問題行動をしている意識は感じられない。

■人手不足の業種でバカッターが発生している
人手不足に関する調査では飲食業のうち53.1%の企業が正社員が不足していると回答。非正社員については84.4%が不足していると回答した(帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2018 年 10 月))。非正社員の不足している上位10業種にはコンビニ等の「小売業」がランクインしている。飲食店やコンビニでアルバイト従業員を採用すること自体が困難であることがうかがえる。

また、求職者にとって「売り手市場」になっていることもこれらの業種の人手不足に拍車をかけている。厚生労働省によれば昨年12月の有効求人倍率は1.63倍と依然高い数値であり、就職すること自体が困難な状況にはない。筆者は短大でキャリア支援を行っているが、売り手市場ではあえて不人気の飲食業などを選択しない学生が多いのが実感だ。休日や深夜も仕事に追われるイメージが強く、学生が敬遠するのも無理はない。

このように、今回問題となった職場では、アルバイト従業員はもちろんのこと、彼らを指導育成する立場の正社員を確保するのもままならない状況であるといえる。適当な表現ではないかもしれないが、「優秀な人材」を配置する以前に、配置する人が足りないというのが現状なのだ。

■アルバイトに依存している労働環境
ファミリーレストランを利用すれば、正社員である店長が、大勢のアルバイト従業員の手を借りながらあらゆる業務に忙殺されている様子を見かける。深夜のコンビニを訪れれば、アルバイト従業員が数人で店を切り盛りしている。いずれもアルバイト従業員の労働力に依存しなければ回らない仕事だ。

人手不足を反映してか、コンビニオーナーの労働時間は「1日10時間以上、週1日程度の休日が基本」と過酷な状況もあるようだ(コンビニFC本部「オーナーは経営者、長時間労働は努力不足」労働者性を主張するユニオンとバトル 弁護士ドットコム 2018/02/16)。

多忙を極める状況下で、アルバイト従業員に対する日常の指導すらままならない可能性がある。退職を恐れて毅然とした教育を行うことも難しい状況もあるかもしれない。

■不適切動画投稿は個人だけではなく組織全体の課題
総務省の調査では「ソーシャルメディア利用のリテラシー教育・研修」の受講経験について、日本は「ある」が2割程度にとどまっている。10代20代の若年層に限定しても4割に満たないという結果だ(総務省「平成26年版情報通信白書」)。

もちろん、不適切な動画を投稿することは「リテラシー教育など受けていなくても常識的にNG」という批判も想定される。しかし、売り手市場で採用の選抜性が低い上に十分な従業員教育がなされていなければ、問題の責任を個人だけに帰結する妥当性については再考の余地はあるだろう。

数年来同様の問題が頻発している以上、各企業は事後的な罰則を強化するだけでなく人材育成施策を強化すべきだ。短期的には、採用時に勤務中のスマホ利用を禁止する旨の徹底や、不適切な動画を投稿した場合の損害賠償についての説明をすることが必要だ。

中長期的には、優秀なマネジメントを行える人材の確保や育成を行い、アルバイト従業員に対するネットリテラシーをはじめとする研修プログラムを実行するなど、組織的な対応が必要なのではないか。

優秀な人材を育成・配置できてこそ労働生産性が向上し職場環境が改善される。そして職場環境が改善されることにより優秀な人材が確保しやすくなるのである。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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