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サラリーマンは60歳定年の次に2段目の「定年」がある。65歳の退職である。今や90%以上の会社では定年を65歳に引き上げたり、定年そのものを廃止している。60歳の定年はある意味形式的なものとなっている。

いずれにしても、いったん定年退職した社員は65歳まで働けるにしろ、また新たな定年という壁(こちらが実質的な壁)にぶつかるわけだ。65歳以上でも働く人を前提にすると、離職にあたって2つの雇用保険の制度がある。どちらにメリットがあるかということではなく、どういう辞め方に適っているかということについて書いてみたい。現役サラリーマンの転職にも参考になると思う。

■65歳になる前に辞めると得か
65歳前になると、無職(引退)になるか働き続けるか、働くにしろどんな仕事をするか、そもそも仕事はあるか、とさまざまな悩みと不安が襲ってくる。これらの不安や悩みは、公的年金だけで生活できるのか、お金があっても一日中会話もなくすることもなく過ごすのが精神的に耐えられるか、というところからくるようだ。

そこで多くの人は雇用の形はどうあれ、65歳以上も働くことを考える。そうなると、雇用中であれば65歳を前にいつの時点で辞めるかという選択が出てくる。たいがい雇用契約で更新満了日が決まっているにもかかわらず。

ここで耳にするのが「65歳の前々日」までに退職したほうが有利だというアドバイスである。雇用保険では65歳の2日前までを64歳とみなす。内容は後述するが、64歳と65歳では給付の金額でだいぶ差がある。そのため雇用契約の更新満了日前に65歳の誕生日が来る人は更新満了日前でも64歳のうちに退職しようという人が出てくる。

例えば2月に65歳となり3月に更新満了日が来る場合である。この場合、満了日より1か月繰り上げて65歳になる前に退職するかどうかである。給付金のことを考えれば繰り上げて辞めた方が得である。

■離職時に2つの給付制度がある
しかし、給付金の額だけで判断していいかどうか。だからといって、何がなんでも契約満了日まで辞めるなと言っているのではない。だいたい新卒入社でも雇用時は定年までの雇用を暗黙の前提にしているのに、1年や2年で退職する人は一定以上いる。それで雇用契約違反だと言って訴えられる人はいない。60歳以上の社員でも入社時の雇用契約に反したからといって問題はない。

2つの雇用保険の制度を考えてみる。1つは「失業給付」、もう1つは「高齢求職者給付金」である。前者は65歳未満、後者は65歳以上に給付される。どちらを選ぶかは自由だが、65歳を境にして辞め時を決めることになる。それにあたって、2つの制度でお金の入りの流れ(キャッシュイン・フロー)を比較してみる。

■お金の入りで比較する
以下の比較例では、ともに60歳定年後に失業給付を申請して再就職、新賃金は月20万円、1年更新により5年目(65歳)で更新満了とする。更にその離職6カ月後に同賃金額で転職。この要件で離職後の1年間を両者比較する。これは定年退職後に再就職したパターンである。

(1) 失業給付(基本手当)
65歳までの人で一定条件を満たせば、在職中の雇用保険加入年数と賃金額によって計算された給付額を離職後に受け取れる。転職経験者にはおなじみの給付制度である。

この例では雇用保険の加入年数は「1年以上5年未満」(60~65歳)となる。賃金日額、給付率で算定された基本手当日額により1カ月の給付額は約14万円となる(平成30年8月改定。計算式は煩雑になるので省略する)。この額が最大3カ月分(基本手当日額90日分)もらえる。過去の離職時に申請していなければ給付期間はもっと増える。ただし更新満了前の退職では離職後7日間の待機期間と3カ月間の給付制限があり、この間は支給されない(定年退職の場合は給付制限なし)。

この場合のキャッシュイン・フローは以下のようになる。
・65歳1カ月目~3カ月目 ・・・ 0円(給付制限)
・65歳4カ月目~6カ月目 ・・・ 約42万円(給付金14万円×3カ月)
・65歳7カ月目~12カ月目(66歳) ・・・0円(求職活動中)
離職後1年の収入合計は約42万円。

(2) 高齢求職者給付金
65歳以上の人が離職したときに再就職を支援するための一時金である。この例では7日間の待機後に基本手当日額の50日分、約23万円が一時金としてもらえる。キャッシュイン・フローは以下のようになる。
・65歳1カ月目 ・・・ 約23万円(一時金)
・65歳1カ月目~6カ月目 ・・・ 0円(求職活動中)
・65歳7カ月目~12カ月目(66歳) ・・・120万円(再就職賃金20万円×6カ月)
離職後1年の収入合計は約143万円。

■給付と給与のフローで考える
単純に、65歳になる前に離職する人は(1)を選ぶだろう。給付金額だけなら(2)より20万円ほど多い。65歳の誕生日を境にこれだけの差がある。しかし、「お金の入り」で考えると(2)のほうが100万円も多くなる。こう書くと、「(2)は働いているからではないか」と言われるかもしれない。「給付」と「給与」をごっちゃにしている、それに6カ月たって職が見つかる保証はない、と。

その言い分はもっともである。それを承知の上で言うと、「離職後の目的は何か」ということである。できるだけ早く安定した仕事に就くことではないか。働かずに給付を多くもらうことではない。それに(1)の失業給付では、離職後3カ月間の給付制限がある。この3カ月間は大きい。高齢者(※)はひと月でも齢がかさむと就職が不利になる。
(※)国が「65歳はもはや高齢者ではない」と言う通り、「高齢者」という言葉は使いたくないが、現状の制度・世間的感覚に鑑みてあえて使うことにする。

加えて言うと、失業給付は給付期間いっぱい、まるまるもらうことが第一の趣旨ではない。給付期間中に早目に職が決まって給付日数が一定以上残っていれば再就職手当がもらえる。これは手当を目的とさせるのではなく、就職を早めることが趣旨だからだ。仕事が決まらなくても働かずに給付をもらえることが得で、早く仕事が決まり働いてお金をもらうことが損ということはない。両制度のどちらを選ぶかは自由であるが、上の比較例も参考にしてほしい。

■給付額にとらわれず早めに活動する
60歳と言わなくとも40歳を過ぎると、なかなか自分に向いた仕事で再就職することは難しくなる。より良い給料をもらうために仕事を辞めてから資格を取るとか、数カ月充電してじっくり仕事を選びたいとかというのも、時間とお金に余裕があれば無碍に否定はできない。ただ普通の高齢者に限っては、そういう時間は現状の世の中では無駄になりかねないと言わざるを得ない。

高齢者にとって数カ月の時間とはいえ、仕事を探すうえで貴重である。残念であるが、60歳を過ぎると1歳、いや1カ月の違いでなかなか仕事が見つからないこともある。だから給付額にとらわれず、早めに活動することも視野に入れておいた方がいいと言える。

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野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

【プロフィール】
個別の金融資産の推奨・販売をしないアドバイザリー型のFP。個人のリタイアメントプランを実現するための運用設計およびトータルなライフプランの提案。ほかに働き方、お金に関するアドバイスの提供。

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