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跡継ぎがいない企業をどうするか、事業承継の問題が注目されています。政府は事業承継問題に取り組むため、10年間を事業承継の集中実施期間として位置づけて対応をするなど、取り組みを強化しています。

背景として、このまま事業承継に対して特別な取り組みをしなかった場合、日本の経済に大きな影響が及ぶとの試算があり、危機感を強めているのです。

中小企業・小規模事業者の事業承継問題を放置すると、廃業の急増により2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)を失う可能性があることが経済産業省・中小企業庁の試算で明らかになった。
事業承継問題放置でGDP22兆円損失?中小企業庁試算 日刊工業新聞 2017/09/27


地域の雇用や経済を支えているのは地域の小規模事業者、中小企業です。それらが廃業してしまうと、GDPといったマクロの指標だけでなく、地域の屋台骨が崩れてしまうと懸念されています。そのため、政府としても事業引継ぎ支援センターや事業承継税制など様々な支援策を打ち出しています。しかし、なかなか事業承継が進んでないというのも事実です。このような状況に対して、一つの方法が動き出しています。

■廃業予定の事業に価格をつける
長崎県では、廃業予定の小規模事業者の事業を査定する取り組みを始めています。

県は新年度、廃業を予定する小規模事業所の事業価値を無料で簡易査定し、事業承継につなげる取り組みを始める。事業主の高齢化や後継者不足に伴う廃業を防ぎ、会社を第三者らに円滑に引き継ぐのが狙い。県外からの移住の後押しになることも期待している。
廃業予定者の事業価値 承継へ無料簡易査定 長崎新聞 2019/02/19


廃業予定の事業にただ値段をつけるだけで何が変わるの?と疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし値段をつける事には非常に意義があるのです。

■値段がつくと市場が生まれる可能性がある
売っていないものは買えません。当たり前のことですが、忘れがちな考え方です。もちろん従来から、事業の売却という手段は存在していました。しかしハードルも高く、ほとんどの人は事業を売却するといった発想を持ちませんでした。そのため基本的には事業承継するか廃業するかの二択だったのです。

しかし事業に値段がつけば、せっかくだから売りに出してみようかと考える人が出てくるかも知れません。すると価格によっては買い手がつくかも知れません。

このように売り手と買い手がいればそこに市場が生まれるのです。

■市場が生まれれば売りたい人と買いたい人が増える
また、市場があれば従来はそのまま廃業してしまおうと考えていた人でも、せっかくだから廃業前に事業価値を査定して売りに出そうと考える可能性があります。

自分が育てた事業をそのまま廃業してしまうのはもったいないですし、地域社会にとっても重要な経済主体がなくなることはよくありません。そして、何よりも事業が売却できればその後の生活資金が潤沢になります。

他方、事業を買いたいと考える人は潜在的には沢山存在していると考えられます。

現在でも相当数の人が新規開業しています。もちろん一から自分のビジネスを組み立てていきたいという人も多いでしょう。

しかし、既存の事業の顧客基盤や仕入先・取引先拍手ノウハウを引き継げるのであれば、一からビジネスを立ち上げるのではなく事業を引き継いでやっていきたいと考える人もいるはずです。

しかしそもそも事業が売りに出ていないと、こういった人の希望は満たされません。事業を買いたいと考えている人であっても、結果として一から新規開業を選択していたと考えられるのです。

このように、すでに売りたいというニーズと買いたいというニーズは存在しているので、市場が生まれれば取引が始まると考えられるのです。

■事業の購入は買い手にとっても、地域にとってもいいこと
事業を始める際の一番のハードルは、本当に売上が取れるかということです。言い換えればお客様が本当にいるかどうか、事業を立ち上げるまでは誰にもわからないということです。

しかし、事業の購入の場合はそのハードルをすでにクリアしていると考えることができます。

このように既存事業の購入であれば、買い手にとって不確実性を排除できるという非常に大きなメリットがあります。 また、地域にとっても既存の事業が引き継がれれば、雇用の確保や経済の振興など良い効果が生まれます。

■融資対応が望まれる
ただ小規模事業者や中小企業の売却には特有の問題があります。それは事業主・社長の生活と事業があまり分離していないことです。

自宅兼事務所、自宅兼店舗、自宅兼作業場といった、住んでいるところと働くところが分離していないケースが多いのです。

このような場合、事業を購入すると言っても、そのまま事務所や店舗、作業場を使う訳にはいかず、事業を引き継ぐ人にとっては事業に関するいわゆる営業権の購入と、事業を行う場所の確保と二重の費用負担が発生する可能性があります。

この資金を用意するハードルが高いと考えられるので、例えばLBO(レバレッジドバイアウト)のように、買収する事業の事業価値や将来のキャッシュフローなどを担保にして資金調達できるような仕組みがあれば、このような事業売却のスキームは進んでいくと考えられます。

■不測の事態が出ないような制度の構築も必要
また、購入後に会社が保証している保証債務が出てきて、多額の借金を負うようなトラブルが発生しない制度も必要です。

ある程度大規模な事業売却案件であれば、M&A事業を行っている企業が間に入って、デューデリジェンス(価値やリスクなどの精査)が行われます。

しかし、これには多額の費用が掛かりますので、取引金額が小さくなりがちな小規模事業の売買にあたっては、そのような費用をかけるのが難しいケースがあります。

調査をしないということは、その分のリスクがあります。リスク込みで考えると事業の購入は高い買い物になりがちです。法人を新設して事業のみを譲渡してもらい、保証債務等のリスクと購入者を切り離すといった枠組みを開発する必要があるでしょう。

もちろん買い手側の都合に立った議論ですが、このような方法論を開発し第三者の事業承継を促進していくと言った取り組みは大切であると筆者は考えます。

いずれにしても長崎県の取り組みは、地域の屋台骨である事業を上手く引き継いで行くことによって、移住者まで促進するという一石二鳥の素晴らしい取り組みです。を注意深く見守り、うまくいくようであれば広げていくことが重要です。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。

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