0322_後藤かずや

数々の記録を打ち立ててきたイチロー選手が現役引退を表明し、記者会見を行った。

筆者は熱心な野球ファンという訳ではないが、シビアに実力が問われるメジャーリーグで活躍を続けるイチロー選手には幾度となく励まされた。

イチロー選手の引退記者会見の内容は、大学でキャリア教育を行う筆者の立場から見ると大変示唆的で、まさに自身のキャリアについて悩んでいる就活生にとっても参考となる内容だ。

■人生をかけるほど好きなものは何か?
第1に注目したいのが「子供たちへのメッセージ」に対するコメントだ。

自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので。そういうものを早く見つけてほしいなと思います。それが見つかれば、自分の前に立ちはだかる壁に向かっていける。向かうことができると思うんですね。それが見つけられないと壁が出てくると諦めてしまうということがあると思うので。色んなことにトライして、自分に向くか向かないかというより自分が好きなものを見つけてほしいなと思います
【MLB】“イチロー節”全開、85分間の引退会見 一問一答ノーカット「孤独感は全くない」 Full Count 2019/03/22

ここで注目したいのは自分に向いている・向いていないではなく「自分が夢中になれるものを見つけるのが大事」ということだ。

これは「好きなことを仕事にしよう」という表面的な話ではない。「人生をかけるほど価値があるものを見つけ出す」という話だ。人生をかける価値があるからこそ、どん底の時でも乗り越えることができる。イチロー選手は未来ある子供たちにそんな風に呼びかけたのではないか。

学生の就活も「自分に向いている仕事」「自分が活躍できそうな会社」といった視点に陥りがちだ。例えば就職先をどのように決定すればよいのか悩んでいる就活生は「自分が人生で成し遂げたい仕事」は何か、という大きな視点も含めて考えてみてはどうだろうか。

■不遇の時期をどう捉えるか?
第2に注目したいのが「今思い返して最も印象に残っているシーン」に対するコメントだ。

10年200本続けてきたこととか、MVPをオールスターで獲ったとかは本当に小さなことに過ぎないというふうに思います。
~中略~
今まで残してきた記録はいずれ誰かが抜いていくと思うんですけど、去年5月からシーズン最後の日まで、あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれないというような、ささやかな誇りを生んだ日々だったんですね。
※前掲記事


イチロー選手は昨年5月以降マリナーズのチェアマン特別補佐を務めることとなり、それまでとは違った立ち位置を求められていた。「試合に出場しない」という想定外の状況でも腐ることなく練習を続け「それを最後まで成し遂げられなければ今日のこの日はなかったと思う(前掲記事)」とまで述べている。

事情はどうあれ、一流プレイヤーが活躍の場を奪われてしまった状況で、その気になれば他球団への転出も可能だったはずだ。それでもイチロー選手は「あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれない」とその日々にこの上ない価値を見出している。

就活生も、今後就活が進む中で自分の希望が叶わないことがあるだろう。企業によっては不合格の連絡すらよこさない。

奇麗ごとに聞こえるかもしれないが、それでも就活を通して成長することは間違いない。企業説明会や面接試験で悩んだり自己否定されたような気持ちになることもあるかもしれないが、それを含めた就活のプロセス自体に価値を見出せるか否かで自身の真価が問われる。「うまくいかなかったから投げ出しました」ではダメなのである。

■他者のために働くということ。
第3に注目したいのが「ずっと応援してくれたファンの存在は」と問われた際のコメントだ。

ある時までは自分のためにプレーすることがチームのためにもなるし、見てくれている人も喜んでくれるかなと思っていたんですけど、ニューヨークに行った後くらいからですかね、人に喜んでもらえることが一番の喜びに変わってきたんですね。その点でファンの存在なくしては自分のエネルギーは全く生まれないと言ってもいいと思います。
※前掲記事


イチロー選手でさえ「自分のためのプレー」のみでモチベーションを維持することは難しかったのかもしれない。この後に「結果残して最後を迎えたら一番いいなと思っていたんですけど、それは叶わずで。それでもあんな風に(ファンが)球場に残ってくれて。まぁ、そうしないですけど、死んでもいいという気持ちはこういうことなんだろうなと」と述べている。ここからも、ファンの声援がイチロー選手の何よりの励みになっていたことがうかがえる。

先の見えない就活も「一流企業に内定したらカッコいい」などの自己目標のみでは乗り越えるのが難しい。「その仕事を通してどのように社会に貢献できるのか」といった他者貢献的な視点こそが、辛く長い就活を乗り越える力の源泉になりえる。社会人とて子供やパートナーなど守るべきものがいればこそ日々の激務に耐えられる面も大きいのではないか。自分だけのために戦い続けることには限界があるのだ。

■目標達成のためのステップとは
最後に注目したいのが「イチロー選手の生きざまで、ファンの方に伝えられたことや、伝わっていたらうれしいなと思うことはあるか?」という質問に対するコメントだ。

あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりにはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと越えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって。
~中略~
一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。
※前掲記事


「大きな目標を達成するためにはスモールステップを踏んでいく必要があること」に加えて「自身の力量を見極めつつ常に限界を少し超える程度の課題をこなすこと」の有用性を示唆している。

天才肌と称されるイチロー選手ですら、いきなり大目標を達成できるわけではない。日々過大でも過少でもない努力を自身に課す、計算された戦略と努力こそがイチロー選手を名プレイヤーに育て上げた。

就活でも「就職人気ランキング1位の企業に就職する」などと大きな目標を立てがちであるが、むしろ「5社の人事担当者と話をする」「エントリーシートを10枚提出する」といった小目標の達成を重ね、結果的に大目標の達成を目指すべきだ。筆者も含め大半の人間は平凡な才能しか持ち合わせていないのだから、複数のスモールステップを着実に歩んでいくべきだ。

■まとめ
以上のように、今回のイチロー選手の引退記者会見はキャリア形成の観点からも示唆に富む内容であった。

もちろん、野球のようなスポーツと就活は一緒くたに議論できるものではない。しかし、これまで述べたようにイチロー選手が名プレイヤーであった要因に思いをはせることは、就活という人生の一大イベントに身を投じている就活生にとって大いに参考になる。ぜひ全文を参照することをお勧めしたい。

末筆になりますがイチロー選手のこれまでのご活躍に改めて敬意を表します。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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