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新元号「令和」が発表され、世間は一気に新しい時代の幕開けムードとなった。新年度である4月1日からいくつか新しい法令が施行されているが、平成31年改め令和元年に予定されている大きな施行といえば消費税の増税だろう。

今年の10月から消費税率は8%から10%に増税されることに加えて、食品(外食・酒類を除く)の軽減税率や適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入も合わせて実施されるため、飲食業界はその対応に向けて慌ただしく準備を進めている。

軽減税率の対象品目は食料品に限られるため、対象外の事業者は関係ないと思っているかもしれない。しかし、実は免税事業者は今回の改正で大きな影響を受けることになる。

軽減税率制度と同時に導入されるインボイス方式は、食料品に限らずすべての業種に適用される。そのため、免税事業者に対する支払いについては仕入税額控除の適用対象外となってしまうのだ。

令和9年4月までの段階的な摘要となるため本年度からすぐに影響がでるわけではないが、免税事業者は早めに対策を講じておかないと取引先への請求時に消費税分を加算できないばかりか、取引を打ち切られてしまう可能性すらある。

■案外知らない?消費税の仕組み
0404_武内俊介_[図1]消費税の仕組み

まずは案外理解されていない消費税の仕組みをおさらいしたい。消費税の負担者は商品を購入する消費者であるが、実際の納税手続きは商品を販売した事業者が行う。この仕組みを間接税という。消費者が負担した消費税分は「仮受消費税(預り消費税)」として、会計上も別立てで記載される。しがたって事業者は間接的に納税するために一時的に預っているに過ぎない。

ただ、事業者は預った消費税をそのまま納付するわけではない。事業を行うにあたっては様々な支払いが事業者側にも発生している。そこで事業者が負担した消費税分は「仮払消費税」として、こちらも別立てで記録される。消費税の納付額は「仮受消費税」から「仮払消費税」を差し引くことで算出する。

図1の例でいうと、消費者から受け取った8円から支払った4円を差し引いて、差額の4円が、事業者の消費税の納税額になる。この納付額を算出する際に差し引く金額のことを「仕入税額控除」という。

■免税事業者と益税
0404_武内俊介_[図2]免税事業者の要件

この消費税の申告・納付手続を免除されている事業者がいる。前々期の課税売上高が1000万円未満の事業者が原則その対象(要件は図2を参照)であり「免税事業者」と呼ばれる。免税事業者は文字通り消費税の申告・納付を免除されており、一切の申告・納付手続を行うことがない。

この免税事業者についての正確なデータはないが、中小企業庁が発表している過去の統計から推測するに法人で10%前後、個人事業主で50%前後であると思われる。つまり、個人事業主の約半数は消費税を納めていないのである。ここに「益税(えきぜい)」という状況が生じる。

図1でAの事業者が免税事業者であったとすると、本来納付するはずの4円分がそのまま手元に残り、利益となる。消費税納付分だけ利益が増えるという状態だ。消費税の申告は、帳簿要件や請求書等の保存要件が非常に煩雑であることを考慮して、課税売上高が1000万円未満の小規模事業者に対しては消費税の納税手続きを免除している。その結果、利益(益税)が発生している、ということだ。

■インボイス方式が求めるもの
現在、仕入税額控除を行うための要件は帳簿の記載と請求書等の保存のみであるため、支払先が免税事業者かどうか確認する必要がない。しかし、インボイス方式が導入されると「課税事業者が発行した適格請求書の保存」が義務づけられるため、免税事業者が発行した請求書は仕入税額控除の対象とならない。

図1のB事業者が免税事業者であった場合、A事業者はB事業者に支払った分の消費税額を差し引くことができず、仮受消費税8円を全額納付することになってしまうのである。A事業者からすると消費税の納税額が単純に増えてしまうため、インボイス方式が導入されるとB事業者は取引を打ち切られ、免税事業者ではない別の事業者に変更される可能性が高い。つまり、免税事業者であることは取引をする上で非常に不利になってしまうのだ。

では、免税事業者は消費税を上乗せせずに請求すればいいのではないか、という意見もあるかもしれないが、免税事業者にとってもそんなに単純な話ではない。免税事業者であっても日々の支払いについては消費税を負担しているため、請求額に消費税を加算しないとなれば、支払時の消費税分がそのまま自己負担となり、利益が減ってしまう。こうなると実質的な増税である。

0404_武内俊介_[図3]


免税事業者からの仕入税額控除の廃止は図3の通り、段階的廃止となっている。インボイス方式導入後、即座に影響がでるわけではないが、企業がインボイス方式への対応を進める中で「免税事業者とは取引をしない」という方針を打ち出される可能性もある。免税事業者はなるべく早くインボイス方式への対応を決めなければならない。

■免税事業者の選択肢
免税事業者には2つの選択肢がある。この機会に課税事業者になり適格請求書を発行できるようになるか、免税事業者のままでいるか、のいずれかである。

まず、課税事業者になるためには「課税事業者選択届出書」を税務署に提出するだけで、翌期から課税事業者になることができる。ただし、課税事業者になるということは消費税の申告・納税を行う必要があるということであり、帳簿の記載や請求書等の保存の負担は増えることになる。

消費税の申告は一つ一つの取引から生じる仮受消費税・仮払消費税を正確に記録し、それらを集計することが非常に重要である。しかし、課税対象外取引や非課税取引などを判断するためのある程度の基礎知識も必要になってくる。

課税売上高が5000万円未満の事業者は「簡易課税制度」という帳簿や請求書の要件を簡便化した方式を選択することができ、小規模事業者の場合はこの方式の方が節税になる場合も多い。細かい経理処理や申告書の作成に自信がない場合は、早めに税理士に相談することも検討するべきだろう。

一方で、免税事業者のままでいる場合は、これまで通り何もする必要はないが、事業者相手の請求については前述の通り税込金額で請求できなくなる可能性が高い。ただし、これはあくまでも事業者相手の話であって、一般消費者は適格請求書の保存義務がないため、一般消費者向けのビジネスについてはそのまま税込金額で請求することは可能だ。

手掛けているビジネスが事業者向けがメインなのか、消費者向けがメインなのかによって、判断は分かれるだろう。ただし、一般消費者向けのサービスは価格競争が激しい場合が多く、税込価格をそのまま提示することができない場合も少なくない。そのあたりも考慮して課税事業者になるかどうかを判断しなければいけないのである。

いずれにしても、インボイス方式の導入によって免税事業者が受ける影響は大きい。課税事業者を選択すると消費税の申告・納税義務が生じ、これまで手元に残っていた益税部分は消滅する。免税事業者を選択すれば消費税の申告・納税義務はこれまで通り生じないものの、事業者相手の商売については販売価格に対して消費税分を上乗せしにくくなり、また免税事業者ということでそもそも受注ができなくなる可能性もある。

筆者は実質的にこの制度によって免税事業者は大幅に減るであろうと見ている。有識者の間では「益税」の問題についてこれまで何度も指摘がされており、インボイス方式導入のタイミングで多くの事業者が課税事業者を選択すれば、課税当局側も願ったり叶ったりである。

インボイス方式はすべての事業者に適用され、免税事業者には大きな影響を与える。その事実を認識し、免税事業者は早めにどちらの選択肢を取るかを決めて、対応を進める必要があるだろう。

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武内俊介 税理士 業務改善コンサルタント

【プロフィール】
ベンチャーでの管理本部の経験が長く、ITビジネスに強い税理士・コンサルタント。ITの活用と業務フロー再設計でバックオフィスを効率化するコンサルティングをメインで提供している。ほぼ全てをリモート対応中。

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