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人手不足を背景としてコンビニエンスストアは24時間営業が難しくなりつつあります。このような状況を受け、国も大手コンビニチェーンに対し行動計画の作成など、なんとか対策を打つように促しています(参照・コンビニ人手不足、大手4社に行動計画要請へ 経産相 日本経済新聞 2019/03/26)。

しかし、行動計画を作成するだけで人手不足が解消するならば、すでに人手不足は解消していると考えられます。このような要請がコンビニエンスストアの人手不足対応の切り札とはなり得ないでしょう。

人手不足の克服のために外国人労働者受け入れも検討されていますが、在留資格の一つである特定技能の対象外になったことや、労務管理上の課題も大きくやはり難しいと考えられます。

このような状況で、人手不足解決の方策として技術的なアプローチが考えられています。
ファミリーマートは2日、パナソニックと組み、顔認証技術を用いた“顔パス”決済など多数の先端技術を駆使した次世代コンビニエンスストアの実験店を横浜市にオープンした。人手不足を背景に、ファミマはパナと協業して省力化・省人化を可能にする次世代モデルの構築を進め、早期の全国展開を目指す。
~中略~
また、80を超すセンサーやカメラを使い店内を把握するシステムも構築。来店客の属性や動き、棚の状況などのデータを収集。レジの混雑や商品の欠品などの情報を店員の端末に逐一通知し、限られた人員でも店舗運営がスムーズにいく「業務アシストシステム」を整備した。
ファミマ「顔パス」実験店を公開 先端技術駆使し省力化に挑戦 産経West 2019/04/02

筆者は、顔パス決済自体は人手不足解消の切り札とはなり得ないと考えますが、センサーやカメラを組み合わせた業務アシストシステムは生産性の改善に寄与し、人手不足解消へ大きな助けになると考えます。

■顔パスでどのような業務を削減するのか
この顔パスというのは、顔認証の決済技術を活用してレジ周りの業務を減らすといったことを指しているようです。

顔認証で事前に登録したクレジットカード決済をする仕組みであり、キャッシュレスの一形態であると考えられます。

入店の許可も顔認証で行うとありますので、業務の妨害に通じる悪質なクレーマー等を入店拒否にすることもできるかも知れません。

自身の顔と名前が紐付いていることを意識させることで、、無人の店舗でも悪質なクレーマー等の行動に一定の歯止めがかかることは期待できるはずです。

とはいえ、店舗運営上好ましからざる人物の入店拒否は、その方の買い物の機会を奪うこととなってしまうため、どのような基準で判断して行うのかなど慎重な運用が求められるでしょう。またこのような事をそもそも行っていいのかといった議論が待たれるところです。

このように顔パスはインパクトが大きな方策ではありますが、キャッシュレス決済プラスアルファであるため、店舗運営上大きなインパクトがあるかどうかは未知数です。

■本命は顔パスではない
前掲の記事では、80個のセンサーを使ってレジの混雑や商品の欠品対応などを行うとも書いてあります。

個人的にはこちらの方が即効性があり、中小小売店にとっても非常に価値の高い方策であると感じています。

これらの工夫は、実は低コストで実現することができるため(センサーの設置などは意外と安く可能です)、上手く新しい技術を取り入れて行くことで生産性が向上するでしょう。

例えば、従来では欠品やレジ前の混雑などは人の目で見ないと判断できなかったところですが、センサーを用いることで目配りを減らすことができれば顧客満足を高める事が可能です。また作業の中断が発生しにくくなるため、生産性の向上が見込めます。

もちろん、1回のチェックにはそれほど時間がかからないので緊急性は薄いと判断されるかも知れません。しかし、棚のチェック等の繰り返し業務を意識しないで済むようになれば大きな生産性向上につながります。

また、お客様の動線のチェックと販売実績を掛け合わせることによってマーケティングに役立てるともあります。

この辺は中小小売業にとっては難しいかも知れませんが、可能であればより多くの価値をお客様に提供し、また、お客様により役に立つ店舗を作ることができるようになります。

もちろんこの記事のようにパナソニックとファミリーマートが一緒に取り組んでいるような精度の対応は難しいかも知れません。しかし、センサー自体は特別なものではないと考えられます。

このニュースは大企業が勝手にやっていることではなく、工夫次第で中小小売店舗でも生産性を高められることでもあるのです。

■必要な人手自体をそもそも減らせば良いという課題設定もありうる
人手不足という問題があるのは事実です。そして、その問題に対して働く人を増やすという課題設定を行うケースが非常に多くあります。今回の外国人労働者の受け入れなども、どうやったら働く人を増やせるかといった考え方になります。

しかし、人手不足という問題に対して、発生する業務量を減らすためにはどうすれば良いかという課題設定を行うことも可能です。

今回のファミマの「顔パス」に代表されるような一連の施策は、発生する業務量の削減といった後者の発想に立っていると考えることができます。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。

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