0601_玉木潤一郎

2019年6月1日から始まったふるさと納税の新制度において、泉佐野市を含む4つの市町が対象から除外された。

ふるさと納税のルールを逸脱した自治体をリスト化して公表するなど、総務省は本来の趣旨から外れているとした自治体への制裁を緩めない姿勢だ。この総務省と自治体との対立を、経営者の視点から考えてみたい。

■ふるさと納税の本来の趣旨とは
新制度から外されることが決まった泉佐野市側は、5月末まで「最大で最後の大キャンペーン」をぶち上げるなどして強く反発している。独自のふるさと納税サイト内では総務省への不信感を表明する批判文も掲載した。

総務省も泉佐野市などに対しては「ルールを守らないのだから除外して当然」との声明を出している。

総務省のふるさと納税ポータルサイトには、以下のような理念が掲載されている。
都会で暮らすようになり、仕事に就き、納税し始めると、
住んでいる自治体に納税することになります。
税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないか。
そのような想いのもと、「ふるさと納税」は導入されました。

この理念の是非や正誤、また理念とルールが連動していたのかはともかく、両者の主張の食い違いは泥仕合の様相を呈す。原点である「本来の趣旨」が何なのかという点も泉佐野市と総務省それぞれの見解が異なり、議論は平行線のままだ。

■総務省の思惑
ふるさと納税の利用者にとって、既に本来の趣旨がそれほど重要でなくなっている。

サービスが運用され始めてからユーザーが当初の理念とは別の使い方をしてしまうという現象は、一般のマーケットではなにも特別なことではない。そしてふるさと納税で返礼品がもらえるようになってから、利用者がふるさとへの恩返しよりも返礼目当てになることは容易に予測できた。

その後の経緯は金券など禁止されるお礼品が指定されていき、寄付金に対する返礼率や価格表示について規制が強められた。規制への対応が遅れた地方自治体への圧力は凄まじく、2019年には交付税の減額にいたる厳しい制裁を科された市町まで現れた。

■結果の平等と機会の平等
ふるさと納税を利用する人にとっては、先にも述べたように当初の理念を最優先させなければならないという意識はない。その多くが自分の経済的な利益、つまりお得な返礼品を選ぶことが最優先であろう。

一連の規制から、この6月スタートの新制度で泉佐野市をふるさと納税から除外した国の措置は、商売人の目線で言えば自治体間で差が出ないように「結果の平等」を求めるものだった。

穴があったにせよ同じルールのもとで開始したサービスは、地方にとっては税収に関わる経済活動であった。そこに制度を最大に活用して寄付金を増やそうと考える自治体が現れてもおかしくない。泉佐野市はその最たる存在であった。

泉佐野市をはじめとする総務省に睨まれた自治体は、いわば「企業努力」で寄付金額が突出したからこそ叩かれた。寄付金がはさっぱり集まっていなければ総務省は圧力をかけることもなかったのではないか。寄付金を集めすぎた自治体への圧力は、経済活動に対する制裁なのは明らかだ。

自由経済においてはすべての参加者が同じ条件で競う「機会の平等」こそが求められるべきであり、競争が始まってから誰かが突出したからといって後から条件を再設定するのはアンフェアのそしりを免れない。

■アンフェアな条件で始まったふるさと納税
総務省が望むようなふるさと納税の名にふさわしい地場産品だけを返礼品とするなら、大した地場産品がない市町は最初から不利であり、かえって機会の平等にもとる。

菅官房長官から「使途や返礼品に知恵を絞ってほしい」とのコメントが出されたが、魅力的な地場産品を多数持つ地方自治体が圧倒的に有利な条件であることは否めない。寄付を出身地等に限定せず特産品で自治体同士を競争させるような仕組みを作る一方で、過剰な競争はよろしくないと後からルールを変えるなど、自治体はその度に振り回されたことだろう。

ふるさと納税新制度に関わる一連の問題は、あえて商売人目線でモノ申せば「機会の平等」を軽視しており、いったん走らせたルールをころころ変えた総務省の対応は軽薄であった。国と自治体と国民、それぞれがバラバラの方向を向くような仕組みに問題があったことは間違いない。

最後に、筆者はふるさと納税のような制度はそもそも愚策だと思っている。かといって泉佐野市を擁護するつもりもない。しかし目の前にある自分の経済的なメリットを享受するためにふるさと納税は利用しているし、泉佐野市の最後のキャンペーンも実際にお得だったので利用させてもらった。そこに理念などないし、これが一般消費者の多数派なのではないかと考えている。

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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

【プロフィール】
建築、小売店、飲食業、介護施設、不動産など異業種で4社の代表取締役を兼任。
一般社団法人起業家育成協会を発足し、若手経営者を対象に事業多角化研究会を主宰する。起業から収益化までの実践と、地方の中小企業の再生・事業多角化の実践をテーマに、地方自治体や各種団体からの依頼でセミナー・コンサルティングの実績多数。

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