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家族の病気は突然降りかかることもある。

親が突然倒れて入院をする……このような事態が発生したとき、あなたは入院費を支払うために銀行で親の預金を引き出すことはできるだろうか。

一昔前であれば、子の立場で事情を話せば銀行も親の預金の引き出しに応じてくれていたものだが、現在ではそうはいかない。財産をどのように処分するか決定できるのは本人のみで、たとえ家族であっても自由に預金を引き出すことはできない。

先日のNHKニュースで「“認知症700万人時代へ” 変わる銀行」と題して、認知症となってしまった方の預金の払い出し方法について、三菱UFJ信託銀行の取り組みが紹介された。

三菱UFJ信託銀行では、高齢者が事前に銀行と契約(信託契約)を結んで代理人を指定しておくと、認知症が原因で判断力が衰えた後でも、代理人が口座から引き出しができるサービスを開始した。判断力が衰えた人を支援する方法には成年後見制度もあるが、これとは異なる民間の独自のサービスだ。

このような独自のサービスが登場する背景には何があるのだろうか?

■成年後見制度は厳しすぎる?
成年後見制度は裁判所が関与する分、財産の管理方法は厳格となる。

先ほどの例でいえば、入院費の支払いをするために子どもが成年後見人になろうと考えた場合、子であるからといって当然に成年後見人になれるわけではない。それまでの関わり方や親の有する資産状況によっては、司法書士や弁護士といった専門職後見人が選任されることもあり、その場合は報酬がかかり思わぬ費用負担が発生する。

仮に子として成年後見人になったとしても、親の財産管理は、自分の財産とは明確に分ける必要がある。また定期的な報告を求められるなど、親子間だからという甘えは許されない。

親の保有する預貯金や株式などの流動資産が多い場合は(おおむね1000万円以上)、当面必要となる資金を除いて信託銀行に預けるよう要求されることもある。後見制度支援信託というが、その際は株式や投資信託などを解約するよう裁判所から打診を受けることもある。

信託銀行に預けた資金を引き出すには、裁判所に許可をもらわなければならない。こうなると家族からすれば単に親の入院費の管理をするために成年後見制度を利用しようとしたら、とんでもないことになったと感じる人もいるだろう。

冒頭で触れた契約で預金の引き出しを可能にするサービスは、このような成年後見制度の厳しさを回避しようとして生み出された商品の一つであるといえる。

もちろん、成年後見制度の厳しさには理由がある。

成年後見人を監督する裁判所としては、親子間だからといってゆるい管理を許して親の財産を子が使い込んでしまう問題が起これば、支援の必要な本人を守ることができないことを危惧している。

実際に子が親に経済的虐待を行っているケースは少なくない。

このような問題は三菱UFJ信託銀行が開発した商品でも同様のことがいえる。今後高齢者を支援するための様々な商品が開発されていくだろうが、そのなかで本人の財産をどのように守っていくことができるかが課題となる。

高齢者のための適切な支援の在り方とは何か、模索が続いている。

■高齢者の支援は家族が行うもの?
認知症700万人時代に必要な高齢者支援の仕組みをめぐっては、預貯金の管理だけではなく、様々な問題が起こっている。

相次ぐ高齢者による自動車事故の事例でも同様だ。

「家族が免許返納をさせていれば防げたのではないか」といった指摘もある。認知症高齢者による交通事故が発生した場合、法律では「その者を監督する義務を負っている者」が賠償する責任を負うとされており、ケースによっては家族が責任追及される例もある。

昭和の時代からすると、家族関係が変化し個人という単位で生活をするようになった。しかし高齢化やそれに伴う判断力の低下による問題が起こると、家族という単位に引き戻されていく。

すべての問題を家族の単位で吸収するのはとても現実的ではない。これまでの「高齢者は家族の中で何とかする」構図はもはや通用しなくなってきている。高齢者専用の免許制度を創設するべきとの話もあるが、それにあわせて認知症700万人時代において家族が負う責任とは何か、議論する必要があるだろう。

■契約ルールの整備も必要
最近の高齢者に対する事件としては、ゆうちょ銀行の高齢者に対する投資信託の不適切販売が問題となった。勧誘の際「会話がスムーズにできているか」などの確認事項の確認をしていなかったという。

契約者の知識、経験、財産状況を考慮して不適切な勧誘を行ってはならないとされる「適合性の原則」は金融商品の分野のみならず、様々な法律に取り入れられている。

しかし、一度被害にあってしまうと失った金銭を補償してもらうことは容易ではない商品・サービスも多い。不適切な契約が結ばれてしまった場合、速やかに契約を解除・清算できる制度が必要だ。

認知症700万人時代を迎え、増加する高齢者をターゲットとする商品・サービスが増えるほど、しっかりとしたルールが必要となるだろう。

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及川修平 司法書士

【プロフィール】
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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